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歯車の欠けたオルゴール  作者: キリン
「記録壱」怪我をした少女
2/13

調査開始

 丘を越えた。


 人間がたくさんいる街を歩いた。緑で埋め尽くされた森を抜けた。

 いろんな景色を見た、いろんな人間が「生きて」いた。女、男、子供、大人、老人、赤ん坊。人間以外ならば犬や猫、鳥なども見た。


 意識の覚醒から八時間が経った今、ようやく私は理解した。「生きる」という概念は明確に定まってはおらず、個体によってそれぞれの目的、そして達成条件が存在するようだ。

 データの収集が必要だと判断した。街の人間に問いを投げかけたが、どれもこれも条件にあてはまるものではないと思ったからだ。


 だが、あの意見はとても参考になった。推定年齢六歳程度の男子……「僕アイスクリームが食べたい!」だ。食物を取り込まなければ生命活動を維持できない人間にとって、食べるという行為は必要不可欠。自分よりも上位の個体である「大人」の助けを乞い、食物を体に取り込み栄養分を蓄える……。仮に「生きる」の定義を「生命の維持」とするのであれば、この行為はほぼ「生きる」を達成していると思われる。


 ただ、それだと造物主様の「生きている間にやりたいこと」の項目にどれも当てはまらない。例外的な方法での命令達成はあまり好ましくないため、きちんとこの本に書いてあることを達成しようと思う。


「うわぁあぁああぁあぁぁん!!!!!!」


 聴覚に強烈なノイズが走る。音の発信源を目視で確認……人間だ。性別は女、推定年齢十歳と言ったところだ。


「うわぁあん……ひっく、痛い、痛いよぉ……」


 膝の部分からの出血を確認。致死量ではない、水で濯いで安静にしていれば……最悪このまま放っておいても血は止まるだろう。

「生きる」に関しての有力な情報が得られるとは思えない。たかが子供、問いに答えられるような知識も無いはずだ。追加命令でもあれば話は別だが、今回は無いため無視する。


「うわぁぁんうわぁぁん! このままじゃ……死んじゃうよぉ!」


 ――死。「生きる」の反対概念。

 あの少女の言動を信じるのであれば、あの少女の生体活動はもうすぐ停止する。傷口からの感染症、出血による失血死……これ以外は思いつかないが、とにかく死ぬのだろう。

 だが、もうすぐ死ぬという事は……今はまだ「生きている」という事だろう。つまり、あの怪我を負う前に彼女は「生きる」定義を達成した活動を行っていたはず。


 即時の、判断。


「ひぃっ……ひぃっく、おねぇさん、だれ?」

「お初にお目にかかります。私はセタンタ・タンザナイトと申します」


 この少女の生体活動を保護し、彼女を「生きている」状態に戻す。


「早速ですが、あなたの「生きる」を手伝わせていただいてもよろしいでしょうか?」


 命令遂行の必要事項に、「少女の救済」と「少女の観察」を追加した。


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