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歯車の欠けたオルゴール  作者: キリン
「記録壱」怪我をした少女
12/13

罵声

 建物の中を見てから外に出ると、色々な意見や疑問が枝分かれしていくのを感じた。


 罪を犯した者とそうでない者を分けるのは太陽だとまず考えた。目の前の光溢れる世界と、振り返ればそこにある真っ暗な牢獄……神話に出てくる冥界や、影の国を連想する。

 罪人に人権は無いらしい。牢獄の中に生きている人間は一人もおらず、みな白骨化していた。食事も水も何も与えられず、ただ干上がって行ったのだろう。


 リザは、干上がってしまった父親が入った袋を大事に抱えていた。骨の残骸や衣服の切れ端、集めても人の頭一つ分しか集まらなかったのだ。

 街を歩いていると、視線がリザに集まっている事が知覚出来た。刑務所から出てきた瞬間からだった、リザに向けられた目線がひどく冷たく……恐ろしいものになったのは。


「……いたっ」

「……」


 大柄な男の丸太のような足が、リザにぶつかる。偶然ではない、前足を出してリザにぶつけた、いいや蹴った! 通りすがりの初対面の少女を、自分より何倍も小さい子供を。

 その場にうずくまるリザに駆け寄った。特に外傷はない、骨に異常も無い、内出血も……安心と同時に振り返っても、既に男の姿は無かった。ホッと一息、私はリザに。


「……怖いよ……」


 もう大丈夫。なんて安易な言葉を口に出そうとしたのだろう。父親が入った袋を強く抱きしめながら、始めて涙を見せた。


「……っ!」


 容赦ない目線の数々を睨みつけた。女は声を出して怯え、男は怯まずにこちらを睨みつけた。私にではない、リザにだ。

 私は蹲るリザを抱きかかえた。判断材料を机に並べるより速く、私はその場から逃げるように走り始めた。


「この街から出て行け! 犯罪者!」


 違うだろ、私は思わず叫びそうだった。

 この子は何もしていない。自分の父親を助けるために身を粉にして、頑張って、頑張って、ちゃんと父親を助けた。お前らの罵声を、理不尽な集団差別が待つ未来を知っていながら!


 これ以上、この子の勇気を踏みにじらせてなるものか。私は、走った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 「罪を犯した者とそうでない者を分けるのは太陽だとまず考えた。目の前の光溢れる世界と、振り返ればそこにある真っ暗な牢獄……神話に出てくる冥界や、影の国を連想する」 のところがすごく良かったで…
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