罵声
建物の中を見てから外に出ると、色々な意見や疑問が枝分かれしていくのを感じた。
罪を犯した者とそうでない者を分けるのは太陽だとまず考えた。目の前の光溢れる世界と、振り返ればそこにある真っ暗な牢獄……神話に出てくる冥界や、影の国を連想する。
罪人に人権は無いらしい。牢獄の中に生きている人間は一人もおらず、みな白骨化していた。食事も水も何も与えられず、ただ干上がって行ったのだろう。
リザは、干上がってしまった父親が入った袋を大事に抱えていた。骨の残骸や衣服の切れ端、集めても人の頭一つ分しか集まらなかったのだ。
街を歩いていると、視線がリザに集まっている事が知覚出来た。刑務所から出てきた瞬間からだった、リザに向けられた目線がひどく冷たく……恐ろしいものになったのは。
「……いたっ」
「……」
大柄な男の丸太のような足が、リザにぶつかる。偶然ではない、前足を出してリザにぶつけた、いいや蹴った! 通りすがりの初対面の少女を、自分より何倍も小さい子供を。
その場にうずくまるリザに駆け寄った。特に外傷はない、骨に異常も無い、内出血も……安心と同時に振り返っても、既に男の姿は無かった。ホッと一息、私はリザに。
「……怖いよ……」
もう大丈夫。なんて安易な言葉を口に出そうとしたのだろう。父親が入った袋を強く抱きしめながら、始めて涙を見せた。
「……っ!」
容赦ない目線の数々を睨みつけた。女は声を出して怯え、男は怯まずにこちらを睨みつけた。私にではない、リザにだ。
私は蹲るリザを抱きかかえた。判断材料を机に並べるより速く、私はその場から逃げるように走り始めた。
「この街から出て行け! 犯罪者!」
違うだろ、私は思わず叫びそうだった。
この子は何もしていない。自分の父親を助けるために身を粉にして、頑張って、頑張って、ちゃんと父親を助けた。お前らの罵声を、理不尽な集団差別が待つ未来を知っていながら!
これ以上、この子の勇気を踏みにじらせてなるものか。私は、走った。