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歯車の欠けたオルゴール  作者: キリン
「記録壱」怪我をした少女
11/13

中と外

 牢屋の中には、人間なんていなかった。


 皮と骨がぴったりとくっついている、頭髪は滅び眼球は浮き出てきて……中には白骨化したまま放置されているものもあった。衛生状態はリザの家を遥かに超える惨状、そこら中から異臭がしてきた。


 罪を犯した人間の末路が、これか? ろくでもない環境に閉じ込められ、食事も水も与えられず、骨と皮になって死ぬのを待つのが、全ての罪人に共通の罰なのか?


 リザは、強かった。私の手をしっかりと握りながら、目を逸らさず歩いていた。鼻をつまみたくなるほどの激臭も、自分の父親が置かれている環境も、これから自分が目にするであろう父親の哀れな姿を……全部逃げずに受け止めている。


 私にできることは、ただこの少女の手を離さないように強く握る事だけ。


「……瘦せたね、おとうさん」


 リザの吐き出すような声と同時に、私は一つの独房を見た。そこには、干乾びた人間の死体が、金貨一枚の報いを受けた罪人の姿があった。

 これでもリザは、強いリザのままだった。泣きもせず、吐きもせず、気が狂って発狂することも無くただ、「6番」の独房を見つめていた。


「お迎えに来たよ。こっちにいるのはセタンタさん、お人形なんだって」


 リザはそう言って私の手を離した。するりと抜け落ちるように、そのままどこかへ落ちていくような錯覚がした。体中の歯車が、軋みながら動いている。

 私は、独房の鍵を鍵穴に差し込む。音を立てて錠は解かれ、思考を中断させる金属音を立てながら扉が開いた。


 ゆっくりと、ゆっくりとリザは独房の中に入っていった。カラカラになったミイラの前に立ち、そのまま、しばらく時間が過ぎていくのを感じた。


 もう二度と、この独房から出てこないんじゃないかと、そう思ってしまうほど悲しげな背中を見せつけられている。私はリザとは違って、目を逸らした。


 彼女がどんな顔をして、何を考えて、何を感じながら父親を見ているのかなど、人形の私には分からない。


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