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ケース② 『黒装束の忍者』

ケース② 『黒装束の忍者』


「はは。お初にお目にかかる。拙者、盗賊で自称忍者のザザンと申す」


 ぺこりとお辞儀される。


「はあ……どうも」


 お辞儀を返す。ううむ、盗賊と言う割には丁寧な。


「拙者、生まれは外国のスラムでして、ある時奴隷商に『奴隷になれば衣食住を提供するよ』とスカウトされ、付いていったのですが」


 衣食住で奴隷に……な、中々ハードな話ね……。てかそれ『スカウト』なのか?


「しかしこの国では奴隷商はご法度。拙者はこの国の盗賊ギルドに助け出され、そこで一人前の盗賊になるべく育てられたのです」

「……ん?」


 盗賊……あれ? 盗賊ギルドって確か……?


「身体能力に恵まれ、あらゆる技術を叩きこまれた拙者! いざ本番の仕事をである貴族の館の宝石を盗む仕事を、きちんと予告状を出して上でみごと盗んだのに怒られる始末!」

「っ当たり前だぁあああああ? 何処の世界に予告状を出す盗賊がいるぅううううううううう⁉」


 それは盗賊じゃなくて怪盗でしょうが⁉


「とある敵対組織を潰す際にも、きちんと果たし状を出して呼び出そうとしたら殴られて置いてけぼりにされてしまい……!」

「盗賊なんだから忍びなさいよ!」


 果たし状って! 学生の喧嘩か⁉


「極めつけは、罪を犯して私服を肥やす悪徳貴族の暗殺任務! 拙者が独りで任された仕事で、好きにしていいと言われたので思う通り暗殺の為予告状を出したのですが……」

「それ、特攻とか言わない?」


 完全に捨て駒にされているようにしか見えないんですが。


「悪徳貴族めは街のゴロツキを雇い、館に籠って籠城の構えを見せたのですが、そこは拙者は盗賊ギルドに育てられた一人前の盗賊。見事館に居るゴロツキ連中全員を始末し、悪徳貴族めの首級を上げて見せたのですが……」

「お前あの『血の館事件』の主犯かぁああああああああああああああ⁉」


 私の絶叫が部屋中に響き渡った。




 ――『血の館事件』。

 ある地方を治める評判の悪い貴族の館で突如として起こった惨劇。ある日犯行予告が届いた悪徳貴族。身に覚えのある脛に傷のある彼は、驚いて街で護衛を雇って自分の館に引き籠ったのだが、ある夜に突如百人はいたとされる護衛もろとも悪徳貴族が惨殺されるという怪事件が発生。

 奇妙なのは、館で働くメイドや執事は睡眠薬などで眠らされていただけで被害は無く、雇った傭兵崩れのゴロツキとその館の主人である悪徳貴族だけが惨殺されたのだ。山の如く生産された死体、そして館を塗りたくるかのように流れ出た赤い血から『血の館事件』

と呼ばれ、評判の悪さと実際に犯罪に手を染めていたことから何がしかの裏社会の組織からの報復措置か何かと思われていたのだが……。




「あれの犯人あんただったの⁉」


 私勇者パーティにいながらにして『人手が足りなくて』と言われて死体の処理やら葬式やらに狩り出されたのですが⁉


「はっはっは。照れますな」


 顔を赤くするザザン。どこに照れる要素があった⁉


「見事仕事を果たした拙者ですが、上司に報告すると頭を抱えられたが挙句次の日には




『盗賊ギルドは派手に動き過ぎて国にマークされるだろうから、いったん解散する。お前はもう自由にしろ』




 と言われてそのまま盗賊ギルドを追い出された始末でして」

「盗賊ギルド撲滅に貢献しとる……!」


 まさか引き入れた仲間の善意(?)で潰れるとは思わなかっただろうな、その上司も……。


「しかし! そこでようやっと拙者は気付いたのです! 盗賊ギルドは変わってしまった! 拙者を助けてくれたあの頃の盗賊ギルドはもう存在しない、と!」


 ぐっと拳を握りしめて力説するザザン。

 ……うん。薄々勘付いてはいた。勘付いてはいた、けども……!


「拙者が憧れていたのは、法で裁けぬ悪党を国に代わって成敗し、不正を働き私服を肥やす輩から金品を巻き上げ貧しい人々に分け与える義賊の盗賊ギルド!」

「『盗賊ギルド』は犯罪者組織でしょうがああああああああああああ⁉」


 あらんかぎりの大声で、私のツッコミが炸裂した。




――『盗賊ギルド』。

 ギルドと名が付いているから何か安心そうと思われるかもしれないが、れっきとした犯罪組織である。

 主に密輸・窃盗・情報の売買を取り扱っており、裏社会の顔的な組織である。規模の大小はあれどおおよそどこの国にも存在しており、場合によっては国同士の盗賊ギルドで対立していたり、街同士でも対立していたりするのだが……。




「義賊の盗賊ギルドなんて聞いたことないわ⁉ あそこはれっきとした犯罪組織でしょうが⁉」


 この国でも余所と同じ扱いだったりする。


「何おおっしゃいます! 現に拙者は盗賊ギルドに助けられ、こうして一人前の盗賊になれたのですぞ!」

「暗殺対象に暗殺予告を出す暗殺者がいるかあああああああああああ⁉」


 絶対教育間違えただろ、こいつを育てた盗賊!


「むう……実は上司や仲間からもそう言われてしまったのです。

 おかしい。昔読んだ東の国の盗賊と紹介されていた『忍者』は、こんな感じで正々堂々と勝負すべきと書いてあったはずなのに……」

「いやそれ『忍者』を武士とか侍と混合している!」


 けったいなインチキ本の影響か⁉ どうりで盗賊とか言う割に『忍者』っぽい恰好の上性格がまっすぐ過ぎる訳だ⁉



「………………




 まあそれじゃあ拙者は侍っぽい忍者ということで」

「存在が相反しとるわあああああああああああああ!?」


 正々堂々とした忍者って何? 何処の層に需要があるというのか?

 ぜぇぜぇと荒い息を吐く私に、ザザンはごほんと咳ばらいを一つして続ける。


「と、ともあれ。こうして盗賊ギルドが解体された所に、魔王討伐に出立した勇者一行が近くに居るとのこと。盗賊ギルドも解体された今魔王によって日々の暮らしに支障をきたす民草を助けられる一助になればと思い、こうして聖女として名高いリラ殿と面会し出来れば勇者殿の旅路の末席に加えていただければと、お願いに来たのですが……」

「……悪かったわね、勇者パーティ追放されていて!」


 やけっぱちに怒鳴る私。ふふ、もうヤケクソよ⁉

 

「てか情報収集に余念のない盗賊ギルドの一員なのに、私勇者パーティ離れたこと知らなかったの?」

「盗賊ギルド解体された後の話ですし、拙者戦闘などの実戦担当故……」

「ああ……まあ、うん。了解」


 まあ情報取集とか弱そうだもんね、このなんちゃって忍者風味盗賊……。


「ま、まあ話は分かったわ……取り敢えずいったん保留ね」


 さって、どうしたものか……取り敢えず……。


「……じゃ、じゃあ……次の方……どうぞ」


 恐る恐る、私は最後の『刺客』に話を向けたのだった。



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