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世界で一番ラブコメからかけ離れた男子高校生  作者: azakura
4章 そして彼らの三角関係は破綻する
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4-9

 午後二時を回ったところ、一時間の休憩を与えられた佐久間は、一階の休憩所で力なく目を瞑っていると、


「ねぇねぇ佐久間、燐見なかった? ってうわ、宇宙人降臨!?」


 ハッと意識を戻した佐久間、雫玖の方に顔を上げて、


「秋月さん? 見てないよ。そういえば秋月さんの休憩も今辺りだったね」

「ヒマだし燐とおいしいもの食べて回ろうかなって思ってたけど……、いないなら仕方ないか。なんなら佐久間、私と見て回らない?」

「ボクもヒマしてるし、いいよ。じゃあ、行こうか」


 机の上のメガネを掛け、そっと腰を上げた佐久間は、こうして雫玖とともに賑わう空の下を歩いて回ることにする。

 寒さの香る空気に触れ、一人だけしか着ていない制服のポケットに手を突っ込む佐久間は、しみじみと周囲を見回しつつ、


「一月前はボクと歩くのを嫌そうにしてたのに、今は平気なの?」

「ヘーキ。なんていうか別に、私たち付き合ってるはずない、なんて思われてるだろうし」

「根拠は?」

「そーゆう男女って大抵は手を繋いでるでしょ? ほら、あっちもこっちも。……ってうわ、中学生ですら……。ふん、リア充爆発しろっ」

「…………」


 中学生にすら嫉妬している雫玖を無言で捉える佐久間だが、ふと彼は立ち止まり、やや離れた模擬店の方向をなぜか指差して、


「なら、あの二人も付き合ってるんだろうね、きっと」

「どしたの、急に立ち止まって……って、……あ」


 思わずと言った形で、雫玖もピタリと歩みを止めた。決して佐久間に合せようとしたわけではなく、ぎこちない不自然な形で。

 薄い茶の前髪で隠れる愛々しい瞳、小さな口は小さなまま開き、


「……そう、なんだ」


 模擬店の前で手を繋いで、一つのクレープを、口を汚しながらも楽しそうに食べ合う――秋月燐、小清水蒼斗のペアを見て、彼女はポツリと漏らす。


「やっぱり、負けちゃったか」


 かすれた音吐、紡がれる涙声。


「余ったからってボクに迫られても断るよ」

「いや、迫らないし! 少女マンガじゃないんだからさ!」


 目尻に浮かんだ水滴を振りまくほどに、大きな所作でツッコミを入れた雫玖だけれども、


「……くすっ。もう、佐久間と一緒だと感傷にも浸れないから」


 晴れ晴れと顔を上げた雫玖は、口元を綻ばせる。目尻をわずかに光らせてはいるけれども。

 一方の佐久間は、どこか達観したような顔つきをしながら、二人を遠目で眺めて、


「答えを見つけたんだよ、秋月さんは。これでよかった」

「ま、燐に負けるならしょうがないかなって、今は何となく思えるかも。私が想うよりもずっと前から想い合ってたんだよ、きっと」


 そうして雫玖は迷いを振り切るように、


「さ、行こうか。佐久間は何食べたい? 私は粉もの食べたいかも!」

「出雲さんの行きたい所でいいよ」


 数歩先を行く雫玖を追いながら佐久間は、ふとあの顔馴染みを、――あの黒髪ロングを離れ際に一瞥して、


「おめでとう、秋月さん」


       ◇


 大きな盛り上がりを見せていた洛桜祭も、とうとう最後のイベントを迎える時がやって来た。


「この後夜祭で終わりかぁ……」


 夜の星空に照らされる中、グラウンドの中央で焚かれる炎を見つめながら、雫玖はしみじみと呟く。眩く灼熱に燃える火柱に、今日の出来事を重ねているのだろう。


「今年の洛桜祭、成功と言えるのかな」

「成功だよ。来てくれた人みーんな喜んでくれたし、私だって楽しかったし」


 心から嬉しそうに、そう口にする雫玖。すると背後から、


「お疲れさま、洛桜祭もあと少しね。前までは不安だらけだったけど、今は何だか名残惜しいわ、不思議」


 佐久間と雫玖に語りかけるのは、朝以来に耳にしたあの声。

 雫玖は即座に振り向いて、その彼女へと思い切り抱き着き、


「おめでとう、燐! いつまでもお幸せに!」

「ちょ、雫玖!? …………ごめんなさい、横から奪うようなマネをして」


 罪悪感をよぎらせる瞳は、茶色い髪からおもむろに逸れる。けれども、


「ううん、謝らないで! 謝っちゃダメ!」

「雫玖……」


 燐は雫玖の頭を優しく撫で、


「ありがとう、雫玖。そうね、いつまでも――……」


 そうして燐もまた、雫玖を優しく抱き寄せるのであった。


「あ、佐久間、ゴメン置き去りにして」

「そういえば佐久間くんもいたっけ? 失礼したわ」

「ボクのことは気にしなくていいよ」


 二人のことは気にせず、終始炎を見つめている佐久間。そしたら燐はそんな彼の横に寄り、色っぽく横髪を掻き上げて、


「こういう行事の企画に関わるのは初めてだったから、不安だらけだったけど……、でも楽しかったんじゃないかしら。みんなで力を合わせて頑張るのも……悪くはないのかも」

「難しかったとは思うけどね。離れた高校と連携しないといけないし、時間の制約だってあるし、途中で離脱する人だっていたし」


 雫玖は燐に身を寄せ、ニッコリ笑顔で、


「ひょっとすると燐も、友達を増やしたくなった?」

「さあ、それはどうだか」


 と、ほくそ笑みつつ、上手くはぐらかした燐だけれども、


「だけどそれも、悪くはないのかもね」


 佐久間は炎を囲む生徒たち、続いて隣の燐、――そしてその隣の雫玖を見届けたのち、燃え盛る炎に再び眼差しを向けて、


「成功みたいだね、洛桜祭は」


 彼は短い一言を呟いた、――――右の拳を握りしめて。

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