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世界で一番ラブコメからかけ離れた男子高校生  作者: azakura
4章 そして彼らの三角関係は破綻する
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4-8

 そして迎えた、――――洛桜祭当日。


 生徒会会議室に集まった洛葉および梅桜両校の企画委員、総勢三十名。それほど狭くはない空間であるものの、この人数が集まれば流石に人口密度は高い。

 皆が皆、洛桜祭のためにデザインされた、もはや伝統にもなっている黒ベースの長袖Tシャツを着用する中、


「おはよう、間違えて制服着てきちゃったよ」


 ただ一人、普段どおりの紺色ブレザーを着てやって来た男子高校生、佐久間導寿。集合時間からはやや遅れているものの、悪びれている様子は皆無。


「ちょっと萎えるんですけどー。一致団結ムードなんだから、佐久間もちゃんとこれを着てよね。余りならあるから」


 佐久間は薄ら笑いで、


「でもボク、そういうシャツ嫌いだし。それ着るくらいなら制服のほうがいいよ」

「まさかの爆弾発言!? もう、このキモロン毛! 空気を読め!」

「まあまあ、雫玖。佐久間くんはいろいろとおかしいから。それよりも準備はバッチリ?」

「あ、大丈夫だよ。昨日は念入りに確認したし。お、そろそろ時間。それじゃあみんな、行ってくるよ」

「私も行ってくるわ。佐久間くん、何かあったらキミに知らせるからよろしくね」


 燐らが持ち場へと向かうのを皮切りに、企画委員たちは洛桜祭を成し遂げるべく、それぞれの仕事場へと向かっていく。佐久間も洛桜祭仕様となった校内を窓辺から望んだのち、リーダーの鳴海愛依とともに開会宣言の行われる体育館へと向かい、


「ちょっと、人多すぎじゃない……? こんなトコであたし、開会宣言と閉会宣言するの?」


 暗い舞台裏に足を踏み入れるや否や、弱気な発言をする愛依。


「観衆から背いた姿勢だし、前のカーテンだけを見てれば大丈夫だよ。ちなみに今日のスケジュールだけど、この後は校長たちと取材の対応だからよろしく」


 佐久間が付き人のように助言を送れば、


「これじゃあ誰が誰の傀儡なんだか」


 愛依の背後からひっそりと、女子の小馬鹿口調がかすかに響いた。声の主はというと、


「秋月さん? 南館に向かったはずじゃ?」

「一つお知らせがあって。取材の時間、校長の都合で三十分遅れになるわ。よろしく」


 それだけを告げると、意地の悪い笑みを漂わせた燐はひょうひょうと去っていったが、


「………」


 忌々しそうに、右の頬にいっぱいまで空気を注入する金髪ロング。


「鳴海さん、そろそろ心の準備をよろしく。別に傀儡でも構わないから、成し遂げは

しようか」

「……。わかってるよ、ばーか」


       ◇


 校門前では仮装した実行委員が盛大に来客者を迎え、洛葉、梅桜が企画した数々の模擬店がグラウンドでいい匂いを漂わせる。南館校舎に入れば校舎内すべてを贅沢に使ったハロウィン仕様のオバケ屋敷に感情を揺さぶられ、そして校内の至る場所で開かれる賑やかなイベントに声を弾ませる来客たち。老若男女問わず様々な来客が見える中、やはり小中学生の占める割合が多いこの洛桜祭。


「今のところ順調ね。大きなトラブルは起きていないし」


 企画委員の一人、そして生徒会副会長という肩書きを担う秋月燐は賑わう周囲を眺め、そっと胸を撫で下ろす。

 だがしかし、


「……ふぅ」


 口から漏らすのは何も、安堵の塊ばかりではない。

 そこへと近づくにつれ次第に、緊張という名の糸に心が、身体が縛られてゆく。


 ――――すでに彼はそこにいた。


「あら、待たせたかしら?」


 約束どおりの時間に、否――、数分前に来たつもりだけれども。

 表では平静を装えど、凛とした瞳で彼を捉えた瞬間、見えない何かに心が猛烈に張りつめられる。


「こちらこそ、忙しいところ悪い。俺のためにわざわざ時間を取らせて」

「ううん、今は空き時間なのよ」

「そっか、それならよかった」


 待ち人であった蒼斗は固い頬を解くと、一筋に燐を見つめて、


「燐に伝えたいことがあるんだ。最近になって……あの出雲に気づかせてもらってやっと……――――言える決心がついたから」


「……うん」


 一つ、縦に頷いた燐。

 両者に流れるは十数秒の短い、けれども幼馴染同士にとっては変に長く感じる沈黙。

 そして、


「燐のことが好きだ。ずっと……、ずっと前から、ガキの頃から……ずっと……っ。だから燐、この俺と付き合ってくれ」


 一直線に伝えられた想い。

 それを受け止めた燐は、自然と顔を強張らせて、そうして唇を結ぶ。


「りっ、燐……?」


 けれども不意に、彼女はふっと口元を緩ませ、


「ごめんなさい」

「…………っ」


 彼女がそう口走った瞬間、失意が滲み始める蒼斗の表情。


「……くぅ」


 ――――しかし燐は、屈託のないニコリとした笑顔を、幼い頃によく見せていたあの顔を蒼斗に仕向けて、


「蒼斗から告白させてごめんね。本当はずっと、私から伝えたいと願ってたことなのに」

「え……?」

「でもね、簡単に手放なさないためには男から告白させるのが有効だってことは、誰かさんが言ってた。それにね、真っすぐな想いを聞けて幸せかも」


 蒼斗をクスリと笑った燐は、彼にもう一度屈託のない笑みを見せ――――――……。

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