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世界で一番ラブコメからかけ離れた男子高校生  作者: azakura
2章 友達からかけ離れた女子高生、そして友達づくりには自信のある女子高生
12/38

2-3

「ったく、どうしてあなたがここにいるのよ……」


 人数分、三つのカップに対し律儀にコーヒーを注ぐ燐は、恨みがましく口ごもる。


「いいじゃん、別に。ヒマしてたから遊びに来てあげました」


 黒髪ロングの男子高校生と並んでソファに座るのは、先日から何かと縁のある出雲雫玖。


「呼んだのは佐久間くんだけよ。洛桜祭の件でいろいろ相談したいことがあったんだから」


 雫玖は燐、続いて佐久間をニヤニヤと交互に拝見し、


「えー、ひょっとしてお二人ってできちゃってるんですかぁ?」

「秋月さんからは髪のお手入れの方法をよく聞いてるよ」

「まずはくだらない誤解を否定しなさいよ」


 燐はカップとソーサーのセットを佐久間、雫玖の前へと置き、


「リーダーが鳴海愛依とかいうビッチに決まった以上、うかうかしていられないの。だから有能な佐久間くんに今後の見通しを聞きたいのよ」

「ひどっ。私の前で友達をバカにするとか」

「ふふっ、あの発情猫の穴はきっとガバガバよ」

「発想が異常なんだけど……。よくもそこまで下品な表現を……」


 と、雫玖はお得意の逆ハの字型に眉を曲げ、かつドン引きをしながら、


「ま、ここに来た本音としては、秋月燐って女の生態が気になったからだし。そもそもこっちに絡んできたのはあんたのほうでしょ? ほーら、文句は言わない」


 のんのんと、意気揚々な顔で人差し指を振る。


「秋月さんの声はクールな感じに錯覚するけど、よく聞くと女子っぽいかわいさがあるよ」

「いや、その声帯じゃないし。もー、またキモイ天然発動させてる」

「私って……かわいい声してるかしら? 嬉しいような、嬉しくないような……」


 と、頬を手で覆って燐はぶつぶつ呟くが、気を取り直したようにコホンと咳払いをし、


「梅高との本格的な連携は来週から。それまで一週間のインターバルがあるけど、具体的には何をすればいいと思う、佐久間くん……ってあ、」


 カップを取ろうと伸ばした手が、同じくカップを取ろうとした佐久間の手とたまたま触れ合う。それを見て、「ラブコメみたい」と呟いて意地悪くニヤける雫玖。


「……ちっ」

「いや、舌打ちされても困るよ……。間違えてボクのカップに手を伸ばしたのはそっちでしょ」


 おかしい……、と首を傾げる佐久間だが、彼はやれやれとコーヒーを口に含み、


「細かい内容の打ち合わせは連携後でいいと思うよ。それまでは企画委員同士で親睦を深めれば? お互いのことはよく知らないだろうし」


 ミルクと砂糖をめいっぱいコーヒーに入れてかき混ぜる雫玖、はいはーいと手を挙げ、


「じゃあじゃあ親睦深めるために、どっかお店行かない? おいしい料理食べればすぐ打ち解けられるでしょ?」

「まったく、頭の緩そうな意見ね。そういう類の集まりは個人的に嫌いだわ」


 ふんっ、と燐はそっぽを向いて吐き捨てる。


「まぁ、好きだったらぼっちになるはずないもんね……」


 雫玖は憐みの視線を同級生に送るも、困ったように正面を覗いて、


「あんたってさ、……その、私とか……嫌い? 昨日とかぶっちゃけ、私らにイイ目向けてなかったし?」


 燐は静かにコーヒーを口に流し、


「ええ、この際ハッキリ言わせてもらうけど、嫌いだわ」

「マジでハッキリ言うしっ」

「ほら、私って際立つくらいに美少女でしょ? 出る杭は叩かれるとは言われるけど、まさにそう。中学時代、下駄箱を開ければほぼ必ず画鋲を見つけ、教室に入れば机の中はゴミまみれ。体操着だって何度盗まれたことか……」


「体操着は違わなくない? 迷惑だけど、それは名誉の部類だよね?」

「ともかく、私はこれまで散々迷惑行為を受けてきたの。特に出雲さん、あなたのようなタイプからね。群れてる時のあの顔、思い出しただけで腹が立つわ」

「私はイジメなんてしたことないから。見た目だけで人を判断すんな、まったく」


 蚊帳の外気味である佐久間、ぼんやりと雫玖と燐を見比べて、


「だけど大事なのは性格じゃないのかな、やっぱり。すぐ舌打ちをする性格だとね」

「そうそう、私だって顔は悪くないけど、ぜーんぜんイジメられたことないし。根本的な部分が残念だから叩かれるんだって。もっとみんなに合せないと」


 その拍子、燐はピクリと眉を上げ、


「そうね、私は合わせることが苦手なのよ。出雲さんみたいに群れるのが上手で、周りに合わせるのが得意じゃないから」


 すると雫玖は、イラッと眉をひそめて、


「あのさあ、そういう言い方はよくないよね? なに、悪いの? 周りに合わせることは悪いことなの?」

「そうとは言ってないわ。まあ、合わせるだけで自分を持ってない人間は嫌いだけど。たとえば友達に流されて企画委員に立候補しようとする誰かさんとか」

「それ、私のこと? 私だって自分でやりたいと思って……」

「本当に? さしずめ、お友達の鳴海さんが誘ってきたから決意したのでしょ?」


 語尾に煽りを混ぜて燐が伺えば、


「うっさい……」


 寂しそうに俯いた雫玖、そして突拍子もなく燐をキッと睨み、


「そう言うあんたこそ、蒼斗くんには曖昧な態度取ってんじゃん。ちゃんと自分の考えで接してあげてるの?」

「あなたには……関係ないじゃない」

「関係あるし。あんたが蒼斗くんとの関係をハッキリさせてからじゃないと私がどうにもできないのは、……私だってわかるから」

「恋には空回りのクセして、そういうことには鋭いのね」


 その時、第三者の佐久間が二人に割って入り、


「まあまあ、落ち着こうよ。言い合いをしたところで何も始まらないし」

「そうね、悪かったわ。ごめんなさい、出雲さん」


 謝りはしつつも、ぶっきらぼうで投げやりな口調。


「ふんっ、こちらこそごめんなさい。言い過ぎました」


 こちらも、言い回しからはとてもじゃないが詫びの意は感じられない。

 ただ一人、亀裂に挟まれた形となった佐久間は、どうしたものかと憂いつつほろ苦いコーヒーを啜るのであった。

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