ラブコメの香り漂う出会いもあれば、
散りゆく桃色の花弁の下、春の香り漂う温かな息吹に栗色の髪を揺らして、――一人のとある女子高生は胸に誓う。
(今日こそ……、今日こそ蒼斗くんに話しかけるんだからっ)
これからサッカー部の一員として汗を流すのであろう、あの憧れの的を少女は円らな瞳の奥に収める。だがしかし、
(あう~っ、やっぱムリ~~~~……。こんな調子じゃいつまで経っても……んもうっ)
彼、――小清水蒼斗との出会いはおよそ二週間前。季節と環境の変化を告げる入学式、右も左もわからず困り果てていたその時、言われもせず差し伸べられた頼れる掌。
(あの時は思い切って下の名前で呼んでみたら、蒼斗くん嬉しそうにしてくれたし? これって脈アリの証拠……、だよね? 私、ルックスはイケてるほうだし?)
あの回想で自分に勇気を与えるのは、もう数えるのも億劫なほど。思い出に浸るのもそろそろ卒業したいところだけど、それでもあの情景を思い起こすと胸がキュンと疼く。
(でも……昨日までの私は、もういない。うん、ガンバレ私! 待ってろ、青春!!)
高まる胸の鼓動、はやる気持ちは心に仕舞い、そうして彼女――、出雲雫玖は一歩を踏み出した。
――――だけれども、
(ハッ!? あの黒髪ロングはいったい……っ?)
話し掛けるよりも先に、想い人へと近づく一人の黒髪ロング。それも程々に親しみを持って。加えて、そのシルエットには見覚えがあった。
(まさか……、秋月燐!? 噂だけど、メチャメチャ美少女な優等生だとか……)
――すでにあの男子を見ていない、見定めるは黒髪ロングただ一点。
そして二人が離れた頃合いを見計らい、雫玖はみるみるうちに恋敵との距離を詰めて、
「あのさぁ、なに蒼斗くんに馴れ馴れしく…………って、あれ?」
思わず、言葉を呑み込んだ。
「あ……、秋月燐……じゃない?」
女子とは思えない高身長に、柔らかみの皆無な体型。そもそも履いているのさえ、この洛葉高校伝統のチェック柄スカートでなく、紺をあしらったただの長ズボン。
雫玖に反応し、目の敵がゆっくりと翻る。
「え、ボクに用?」
それは、秋月燐ではない。というか、――――――女ですらなかった。