リスを潰す。そしてリスを救う。
プロローグ
私はやりきった。そう思った、思いたいだけだった。
たばこの煙が早朝のまだ靄のかかった空に溶けていく。「嗚呼、終わった。椿はこれでまんぞくした?」
返ってくることのない返答を待ち望みながら一人憂鬱に飲み込まれそうになる。
赤色灯が背後を照らし雑音が周囲を飲み込む。不安がすべてを飲み込む。
「さようなら、椿。またね。」
最後の言葉、決めてたのにな...。
本編
12:47
高校3年生、人生で一番輝いてる瞬間だと私は思う。若く自由で理想の時期、そんな輝かしい今私は学校の昼休みの時間にトイレでうなだれてる。鳩尾を抱え早くこの時間が終わらないかと神に願う。
1人の女子が口を開く「あんたホントに生意気だよね」
3人に囲まれながらトイレの隅で言われている、いわゆるいじめだ。
彼女ら一軍になる存在だ。私は昨日先輩に告白されたが断った、すごく興味がなかったからだ。どうやら一軍の一人が好意を抱いていた先輩らしい。そのせいで今日から私は彼女たちのターゲットになった。
水をかける、蹴る、腹を殴る、一通りやり終わった後彼女等は飽きたようにトイレを出ていく。
彼女等にとってはただの暇つぶしなのだろう。
「また明日かわいがってやるよ」「まじうけるんですけど」
以外と早かったなあそんなことを思っていると「麗!大丈夫?」
高いとも低いとも言えない聞きなれた声で私の名前を呼ぶ彼女、椿は唯一友達といえる存在、そして何より
「女神ですか?」
そう、かわいい。すごくかわいい。同じ女子の私でさえ嫉妬する容姿端麗な姿にいじめられてたことなど忘れてしまうほどに綺麗だ。
「何言ってるの!止めに入れなくてごめんね」
「良いんだよ、止めに来たら椿が何されるかわからないでしょ?」
「麗...」
椿は涙目になりながら私をタオルでふいてくれた。
本当はここに来てほしくない。来てるのを見られたら椿が彼女等にターゲットにされそうだからなのだけど椿はきっとそれを心底拒むだろう。
自分より私優先に考えてるのだろう。結婚したい。
「ごはんはたべたの?」
「いや、さっき捨てられちゃった」
「じゃあおなかすいたよね?私の家に来なよ夕飯になっちゃうけど一緒たべよ
両親は出張で滅多にかえって来ないからいつも一人でご飯たべてるんだー」
私は椿と仲がいいといってもお互いの家庭事情は知らなかった。いつも彼女が一人でご飯を食べていたなんて初めて知った。
椿の孤独のさびしさに比べたら今日のいじめなどちさいものだ。
「私結構たべるよ?」
冗談交じりに微笑みながら言うと椿も笑顔になった。
この笑顔に何度も救われた。
13:09
教室に戻るとがやがやと五月蠅かった教室が一瞬にして静まり返る。10秒だろうか、それぐらいの時間が過ぎ、また少しずつがやがやと話し始める。
かつて一緒に喋っていた「物」たちは目を合わせようとしない。
なんて薄情な奴らなのか、女とはそういうものだ。
私にとって椿以外は人でも何でもない、「物」だ。
あいつもこいつもそいつも「物」「もの」「モノ」
そんなことを思いながら5時間目の予鈴が鳴り響く。
ふと窓の外に目をやると
雨雨雨雨 雨雨 雨雨雨雨雨雨雨雨 雨雨雨雨雨
雨雨 雨雨雨雨雨 雨雨雨 雨 雨雨雨雨雨 雨雨
雨雨雨雨 雨雨雨 雨雨雨雨雨雨雨 雨雨雨雨雨
雨雨雨雨雨 雨雨 雨雨雨雨雨 雨雨雨雨 雨雨
雨雨 雨 雨雨 雨雨 雨
そういえば天気予報で降るって言ってたな、傘持ってきてないや。
‘ブー,
鈍い音がポケットで震える。
椿からのメッセージだった
________________________
傘持ってきた?
いやー忘れちゃいまして笑
私持ってきたから一緒帰ろ!
夕飯もどうせ一緒食べるし
うおー助かるよ
ありがとう!
________________________
椿の事を考えるといじめられた事などどうでも良くなる
早く学校終わらないかな、こういう時時間がすごく長く感じるのは私だけだろうか。
15:30
やっと学校が終わり椿を昇降口で待っている。
何かおかしい、いつもすぐ来るはずの椿がなかなか来ない。
嫌な予感がする、メッセージも既読が付かない。
私は人気の去った学校に戻る。
歩き、早歩き、駆け足、だんだんと早くなる足取りは気付いたら走りに代わっていた。
「やめて!」
椿の声だ。トイレから聞こえる声。
「...最悪だ」
私をいじめてた3人と告白してきた先輩が一人トイレで椿を囲んでる
きっと昼にトイレに入り私と一緒にいるところを見られたのだろう
雨の雑音が静寂をのみこむ。
良く見えないが何をしているのだろう
ごめん椿、さすがに男にはかてない...
「きゃーーーーー!!!」
悲鳴が私の心を締め付ける。
その時やっと女の一人が横にずれ椿の状態が目に飛び込む。
ボタンを引きちぎられ、胸元があらわになり、両手は女2人に拘束され、男は自分のパンツをおろし椿にまたがっている。
強姦、だった。
憎悪
私の全ての感情が一つのみになった
掃除用のモップを手に取り、ドアを蹴る。
男が振り返ると同時にモップを顔にめがけて振り下ろす。
男は眼球を抑えてうずくまる
3人の女は怯え、ただただ立ち尽くしてる
体が勝手に動く
1人は髪をつかみ便器にたたきつけ
1人はモップで下から顎をふりあげ
1人は私にした鳩尾を何度も何度も蹴り飛ばした
うなだれた4人を横目に椿に歩み寄る。
「帰ろう」
一言も喋る事のない椿に上着を着せる
椿の受けた精神的苦痛は大きかった。
16:46
激しく降っていた雨は帰る頃には音沙汰のない曇り空に代わっていた
会話のない帰り道
椿は声を押し殺していたが泣いているのはすぐに分かった
17:32
家につき椿をお風呂に入れた
私は弱い
男が相手だからと椿を助けなかった
私は情けない
下唇を噛み血が滲む
「麗」
不安交じりの声が私を現実へと引き戻す
私は何も言わず彼女を抱きしめる
体が震えてるのが嫌というほどわかる
椿の体はまるでリスになったかのように怯え、小さくなっていた
「今日は止まって行って...一人は嫌なの」
「もちろんずっとそばにいるよ。」
それから私たちは何もせず何も食べず
3時間ソファーで身を寄せ合っていた
椿の震えが落ち着いたころ椿は口を開いた
「私、汚されちゃった」
声がふるえてる
また泣いてしまったんだろう
私はこういう時になんて言葉をかければいいのかわからない
「キスして...」
驚き椿のほうを見ると潤んだ瞳でこちらをじっと見ていた
綺麗だ、宝石みたい
椿の手を握り唇を重ねる
キスをして彼女の体温、鼓動、呼吸、全てを感じる
椿に出会った頃、椿の花について調べたことがある
‘椿は匂いのしない花,
今の彼女を見ているとすごく意味があっている
不安になる、このままでは椿がいなくなってしまうような気がしてならない
「麗、私の事殺して。」
背筋を凍らせるほどの寒気が走る
「何言ってるの?ずっとそばに居るからそんな冗談はやめて」
「麗が殺してくれなくても明日死ぬよ。」
この時私は思ってしまった
なぜこんな決断をしないといけないのか
なぜ私なのか
「これから先楽しいことがきっとたくさんあるよ、だから一緒に生きようよ」
だめだ、ろくな言葉が出てこない。
どうすれば彼女を救えるのか、今の私にはわからない
「私は人生で一番輝いてるのは19歳だと思う。きっとそれは何歳になっても同じ意見だよ。そんな私の輝かしい人生は汚されちゃった。生きてる意味なんてないんだよ」
椿はそう言ってまた静かに泣いた。
人の価値観は合うことは必ずないだろう。
椿は人生のどん底にいる今、何を言っても無駄だと思う。
何かをしてもしなくても、椿は死ぬ
そう実感してしまった今、私もまた泣いた。
21:03
「麗」
椿が口を開く
「麗、好きだよ。恋愛対象として。」
椿が何を言っているのか理解ができなかった。
「麗は私の事好き?」
勿論好きだ、だけどこれは恋愛対象としてなのだろうか。
悩んでいると彼女は唇を重ねる
私の体は椿を拒まない。
椿の舌が私の口内に入り舌を絡めてくる
私の体は椿を拒まない。
パンツの上から股を触られパンツを脱がされる
左手で股を触られ右手でボタンをはずされる
キスをされながら胸を優しく触られる
私の体は椿を拒まない。
「濡れてるね」
椿は続けて言う
「死ぬ前に好きな人とセックスしたかったんだ。麗大好きだよ」
私は椿にここまでされて拒まなかった。これからもっと激しくなるだろうが
拒むことはないだろう。
嗚呼、きっと私も椿の事が
「好き」
22:06
汗の滲む裸で抱きしめあい2人で愛を感じあった
幸せだった
だけど確認しないといけないことがあった
「椿、ほんとに死ぬの?」
「うん死にたい。殺してほしい。」
この言葉を聞いた私の顔はひどく崩れていてだろう
「24時までに決めて欲しい。私を殺すかどうか。」
「もし決めなかったら?」
「海に飛び降りるよ」
ここから海はそう遠くない
残り2時間もない
何も考えたくない
まだ私は19歳だよ...
椿は服を着始める
私も黙って服を着る
23:58
あれから会話はない
椿も気を使っているのだろう
だが彼女はやはり、リスのように小さい
「麗」
急に話しかけられびっくりした。
「決めてくれた?」
私は決めた、
「どうせ死ぬなら私が殺したい。海に椿がとられるのは嫌だ」
「麗、ありがとう」
「けど殺すのはもっと後、私はぎりぎりまで椿と一緒にいたい」
椿は照れ臭そうに微笑み、キスをしてきた
こんなことをしても椿は死ぬ
それは変わらない
私は昔時計が嫌いだった
ただただ決まったリズムで動く針は戻ることはなく
時間は必ず進むのを変えることができないから
そんな昔の事は今でも変わらなかった
03:22
「首を絞めて殺してほしい」
思い出話の途中で急に椿は言った
「首を絞めて殺せばきれいなまま死ねるし、部屋も汚れない、何より麗の手の中で死ねるんだもん」
嗚呼、考えないようにしてた現実が急接近してきた
今日一人の罪なき女性が死ぬ。何もしてない女性が、死ぬ。
「ちょっとコンビニに行かない?」
私は最後にやりたいことがあった
「いいよ、いこっか」
二人で薄暗い部屋を後にして手をつなぎ夜のコンビニまでの道をゆっくり進んだ
03:31
コンビニにつき商品を見ずにレジへ向かう
「何にしてるの?」
椿は疑問をそのまま私にぶつける
「タバコください」
私の目的はタバコ、未成年だが吸いたくなった
手をさっきより強く椿は握ってきた。だめだよと言わんばかりに目を見つめてきたが私は反抗した。
今思えば初めて彼女に反抗した
「何番ですか?」
店員が聞いてきたがもちろんタバコの知識などないわたしは悩んだが結局適当に番号を言う
「183番」
でできた緑色のタバコは椿の好きな色だった
年齢確認などされずにほっとしながらコンビニを逃げ足気味に出る
「ダメでしょ!!」
椿に怒られるが怒った椿はとてもかわいかった
「ごめんごめん」
私は微笑みながら返した、すると椿もにっこりと笑い、
「もう」
と一言いい、笑った。
03:45
家に帰り再びソファーに座り二人でくっつく、
薄ぐらい部屋はまるで私の心模様を映しているかのように暗かった
椿とそろそろお別れをしなければいけない
そう考えると涙があふれずには入れなかった
ほっぺに椿の手が近づきそっと涙を拭いてくれた
「ありがと」
「いいんだよ」
そういうと椿は私の両手を持ち自分の喉にあてた
私は怯えた、この期に及んで逃げ出したくなった。
とてもとても辛い。
「殺して」
椿はとても低い声で呟いた
手に力が入らなかった。ガタガタと私は震え、後ずさりをしたが椿は喉を手に押し当ててくる。
「私は麗がとても好き。好きで好きでたまらない。だから私の最後は麗がいいの」
私も椿が好きだ、好きだからこそ、殺せない。
「私の事が好きなら、私を麗で満たして」
椿は涙を零しながら訴えた
椿のその一事で何かが切れた、今私がすることは怯えることなんかじゃない。
ごめん椿、もう迷わない。
全ての力を手に集中させた。
「カヒュッ」
椿からこぼれた吐息交じりの声は聴きたくなかった
手の神経を椿の血液が巡っているのをとらえた。滲む汗全ても。
反射的に私の手を放そうと椿の手が私の手をつかむが決して力を抜くことはしない。
「れ..い...」
泪と涎塗れの顔は酷く惨めだったがそれでも尚、美しい
「いき...て..」「だ..すき...」
おそらく‘生きて,‘大好き,といったのだろう。私は首を絞める
4:16
ぐったりと倒れこむ椿は今後二度と動くことはないだろう
椿の力が抜けても占め続けたんだ。手が痛い。
綺麗に死ねると言っていたがおしっこがすべて出ているし涎と涙も酷い
まるで羽を捥がれた天使のように横たわっている。
不思議と涙は出なかった。
動かない椿に最後のキスをして椿を背負った
おしっこで濡れたパンツに手を当てて外に出る
真っ暗な部屋を後にした
4:18
外は靄がかかっていた。
ジョギング中のおばさんに声をかけられる
「あら、もう学校なの?はやいのね~。おんぶしている子は具合が悪いの?ぐったりしているけど。」
「死んでるんです。これから海の崖まで朝日を見に行きます」
「冗談よね..?」
私は返事を帰さずに海の方に歩いていく。
不審に思ったおばさんがどこかに電話をかけている。そんなことももうどうでもいい。
4:32
まだ朝日は昇っていないが海についた崖の下は海だ
崖に腰を掛け椿を私に寄りかからせるようにして座らせた
椿の髪は乱れている顔が見えないほどに
潮の香りと波の音はすごく心地が良かった
さっき買った緑色のタバコを取り出し火をつける
「ごほっけほっ」
すごくまずい、こんなものを買う人の気が知れない。
スマホを取り出し銘柄の意味を調べた
‘Keep Only One Love,
ひとつの恋を貫く
皮肉なものだなあ。私は愛人をこの手で殺めたのに
タバコの煙が靄に消えていく。パトカーの光が背中に当たる
さっきのおばさんが通報したのだろう。
最後は二人きりがよかったのになあ
タバコを捨てて椿を抱えて海に飛び降りる
「さようなら、椿。またね」
私は今日人生で2回、椿に反抗した。
初めまして、作品を読んでいただきありがとうございます。
大学1年生で初めてすごく短い短編小説を書いてみました。
まだまだすごく下手ですが最後まで読んでいただきすごくうれしいです。
反応が良ければ続編だします!なにとぞ!