切ない詩、踊る心。ボロ雑巾と路傍の石ころ。それをちゃんと見て理解する者。
み、み、み、見切り発車中です。
俺はこのダンジョンの主、アンクだ。
話は、ダンジョンイベントあたりの少し前に
さかのぼる。
俺は不遇の扱いを受けているはぐれ吟遊詩人、
はぐれ踊り子の現状に一計を案じようと
企んでいた。
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この世界の、吟遊詩人と踊り子の立ち位置は
一風変わっている。
一般的にパーティーには属さず、
吟遊詩人団体の建物、踊り子団体の建物にそれぞれ待機
しており、冒険者のパーティーは冒険に出る前に
その建物を訪れ、報酬を詩人や踊り子本人に支払い
強化詩や強化舞踊をかけてもらう。
当然、人気、不人気が出てきて、その人気不人気が
所属する吟遊詩人団体や踊り子団体の中でのランクに直結する。
ランクの高いものは依頼料も高いので、ちゃんと
ランクの低いものとの棲み分けもできている。
強化詩や強化舞踊の効果は半日から1日。
当然冒険にはついて行かないので、何の強化をかけるかが
重要だ。
強化詩は最大1個まで。強化舞踊も最大1個までかける
ことができる。
つまり詩と舞踊を1種類づつかけて冒険に行くわけだ。
攻撃力強化や命中率強化、攻撃速度強化。
または、これら同じ強化の重ねがけが人気だ。
中でも攻撃速度強化の効力は劇的で、
電卓?で計算すると一目瞭然なのだが、
50%攻撃速度が上がると手数が2倍になる。
何を言ってるか計算が苦手な人は解らないと思うが、、。
詳細はこうだ。
攻撃間隔10秒に1回の両手鎌があるとする。
攻撃速度50%だから、攻撃間隔が5秒に1回になり、
10秒で2回になる。
あら?不思議!50%アップなのに手数が2倍になっている。
電卓?で計算するんだ!
冗談はさておき(計算は合っているが、計算が苦手な
人は中々納得出来ないと思うが、、)
では、一般的ではない、吟遊詩人や踊り子はどうかと
いうと、冒険者パーティーの一員として加わり、
一緒にダンジョンやフィールドに出向き都度都度
詩や舞踊をかけて頑張っている。しかし、強化詩や
強化舞踊をかけた後はする事がなく、ただつっ立って
いるだけなので非常に肩身が狭い。
しかし、吟遊詩人や踊り子をパーティーに入れるメンツや
リーダーはそれこそ物好きが多いので、団体に所属
せずに冒険者と一緒に旅をしている吟遊詩人や踊り子は
それなりに幸せを感じている者が多い。
しかし、それを妬む者がいる。そう、吟遊詩人団体と
踊り子団体である。
団体に所属しない者への嫌がらせは当然、各所への
根回しも当然、すれ違いざま肩をぶつけてくる、
それを理由に言いがかりをつけて
突き飛ばしてくるといった迫害、それが毎日何回も続くのである。
そんなことが繰り返されると次第に心が磨り減ってくる。
まるで、ボロ雑巾のよう心情。
極めつけは役所もそれを黙認。
もちろん、役所に相談なんかした日には、
努力していますの一点張り。
勿論、突き飛ばすといった行為は法令違反の
犯罪にあたるのだが、、、
「もうかれこれ10年前から言ってますよね??
ちゃんとしてください!!」
「はい、努力していますよ??」
「努力じゃなくてちゃんとして下さい!!?!」
「はい、ですから10年間努力してます???」
努力しか言わない有様、、、。
ヤバす、、、。
そんなこんなで迫害も受けながら、頑張っているのだが、
、、そんなある日。
ダンジョンイベントがあって以来、
それが話題もとい大問題になっている。
ダンジョンイベントの当たりクジの
吟遊詩人用の準伝説武具。踊り子用の準伝説武具の
存在がヤバいのである。
少なからず存在を確認された以下準伝説武具。
ヒヒイロカネのフルート:
強化詩を3つまで重ねがけ可能、ただし、効果は5分
弱体魔法とは別枠の弱体詩の追加
ヒヒイロカネのカチューシャ:
強化舞踊を3つまで重ねがけで可能、
ただし、効果は5分
弱体魔法とは別枠の弱体舞踊の追加
輝くブラジャー:(吟遊詩人、踊り子専用)
詩、舞踊の詠唱時間50%短縮
魅了の腕輪:(吟遊詩人、踊り子専用)
潜在的ステータス魅了の追加(パーティーメンバー
はてはモンスターからも大事に扱われる)
黄金率の首輪:(吟遊詩人、踊り子専用)
装備すると容姿、プロポーションが良くなる
これを装備したものは生涯愛されるだろう
(呪われている:バッドステータス:一生外せない)
などなど、、、。
輝くブラジャーは何カップかすぐ解ってしまうので
一部の貧乳からの不評と、(ブラジャーの形に負けたハッキリと分かる
胸のボリュームの無さが手に取るように解るのは、
それはそれでいいのだが、、。)
「あら、いいんじゃないこれ?自身無いなら着けなきゃ
いいんだし??」
とCカップ以上の巨乳から大絶賛されたり。
黄金率の首輪に至っては整形並だ!!となどなど、、、。
当然、団体に所属している吟遊詩人や踊り子は
ダンジョンに行っていないから一人も持っていない。
団体に所属せず、冒険者と一緒に旅に出ている
迫害や嫌がらせ、役所からの無視を受けてきた、
はぐれ吟遊詩人やはぐれ踊り子の手にしか
行き渡っていない。
これらの準伝説武具の存在は
吟遊詩人団体、踊り子団体それぞれの根幹を揺るがす
事態と団体幹部は重く受け止め、準伝説武具を保有
している今まで散々迫害してきた、
はぐれ吟遊詩人並びにはぐれ踊り子を自分の団体に
取り込もうとした。
掌返しをしたのである。
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「神よ、、、。ダンジョンの主様と
ダンジョンメッセージ様に
神の御加護を、、、。」
ヒヒイロカネの琴の旋律が辺りに響く。
、、、。
、、、。私はイレーザ。準伝説武具を授かった、
あの日のことを決して忘れはしない。
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私は抽選クジを持って、どうせ外れてるだろうなと
ダンジョンに入った。すると、、、!
ダンジョンメッセージ:
抽選クジの当選おめでとうございます
ダンジョン主様からの言葉を再生します
主:「今までよく、団体や役所の迫害やイジメに
耐え抜いたね。
この当たりクジは
俺とダンジョンメッセージさんからのささやかな
贈り物です。
遅くなってごめんね。おめでとう。」
再生内容は以上です。
「え?え?」
狼狽する私の手元にはヒヒイロカネのフルートが。
そしていつの間にか、首には黄金率の首輪が
はめられていた。
途端、私の姿形が変化する、、、。
パァァァァァ!
その途端、イジメや迫害によって歪んでしまった
認識による顔の歪み。それらが治る。
その瞬間、私は理解する。ああ、私の地獄が
終わったんだと。
いつ終わるともしれない迫害。そして、嫌がらせ。
賽の河原とよもつみの坂を永遠と鬼に追われる毎日。
そんな毎日に終わりがやってきたんだと。
わたしは自然と膝をついて呟いていた。
「ありがとう。ありがとう。ありがとう。」
ボロ雑巾のように扱われた心。
路傍の石ころのように扱われた体。
「ダンジョン主様。ダンジョンメッセージ様。
ありがとう。ひっっっ、えっっっぐ。うぐ、、。」
後で聞いたのだか、ダンジョン主様と
ダンジョンメッセージ様の声は、パーティーメンバーにも
聞こえていたらしく、
「よく頑張ったねイレーザ。、、、。」
わたしはいつの間にかパーティーメンバーから
抱擁を受けていた。
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そんなこんな、ダンジョン主様と
ダンジョンメッセージ様に感謝する毎日を送らせて
くれればいいのに、厄介事は向こうからやって来る。
そう、吟遊詩人団体だ。
「吟遊詩人団体の人ですよね?何ですか?」
団体の人は綺麗な小包を小脇に抱え私が
寝泊まりしている宿を訪れに来た。
「先日は我が団体の者が失礼しました。
これはほんの気持ちです。受け取ってください。」
ドアを開けたら、団体の幹部らしき人と、その後ろに
先日私に、
「ち、嫌な顔のやつを見ちまった。くそ!」
と、肩をぶつけてきた人が申し訳なさそうにいた。
「いりません。」
わたしは、即答した。すると、、、
「いいじゃないですか!この位!受け取って
くださいよ!ほらほらほら!!!」
瞬時に私は理解した。
「(こいつら、汚職まみれだな、、。)」
そして、言ってやった。
「ざまぁです!」
そう言うと、私はドアを閉めた。
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翌日、ドアをあけたら、団体の幹部らしき人が持ってきた
贈り物がドアの横の地面に置かれていた。
私はそれを何時までも放っておいた。
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時は、ほんの少し経ち、、、。
。、、、はぐれ吟遊詩人とはぐれ踊り子の全て、
迫害のせいで認識はおろか、そのせいで、顔や口といった容姿や
プロポーションが歪んでしまって、
外見が崩れてしまったものは
黄金率の首輪(顔とプロポーションが整う)を、
容姿とプロポーションの整っている者は、
魅了の腕輪(人はてはモンスターからも大事にされる)を、
抽選クジを通して、ダンジョンの主と
ダンジョンメッセージから、受け取ることになる。
そして、整った容姿を手に入れた、全てのはぐれ吟遊詩人とはぐれ踊り子は
知るのである。
寵愛の意味を。
それは、美しい者に施すのではない。
それは、美しい者に尽くすのではない。
それは、施すだけでなく、施されるということ。
それは、尽くすだけでなく、尽くされるということ。
しかし、それを知ったはぐれ吟遊詩人、はぐれ踊り子達は
奢ることはない。
ただただ、自分に寵愛の意味を教えてくれるきっかけを
くれた、、、
、、、誰もしてくれなかった、地獄から救いの手を、
自らの手を差し伸べてくれるという行為を、
ボロ雑巾のような自分を、路傍の石ころのようなじぶんを、
そんな自分をちゃんと見つけてくれた。
施しを与えてくれた。
名も知らぬダンジョン主様とダンジョンメッセージ様に
対する感謝を死ぬまで捧げるのだった。
それは、詩として、または踊りといった形として
後世に受継がれていく。




