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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
Ⅴ 世界でただひとつだけの
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第98話 エルナレイからの手紙


「「――カウバに行くわよ(行きますよ)!!」」


 その時ばかりは俺も状況への理解が追い付かなかった。


 トレーニングを終え向かったストラの支部。

 集まっているアイシャ達を見つけたと思った直後にこれだ。


「……どうしたんだ? 急に。そんな固く決意したような表情で」


 そもそもカウバという名前の町を知らない。

 どこにあるのかさえ分からない。


 ストラは勿論、トレスやルーラと隣り合わせではなかった筈。

 この辺りはバスフェー前後に何度も行き来した。


「……まあこうなるのは必然だよね」

「この思い切りの良さがどーして他の場面で発揮できねーですかこいつらは」


 リーテンガリア有数の都市アーコに並ぶ規模、というわけではないだろう。


 もしそうならとっくに噂になっている筈。

 言ったら悪いが、相応の規模の町なのだろう。


 ユッカやリィルの口から名前が挙がることもなかった。

 フルトの近くでもなさそうだが……?


「おつかれ。それと、ごめんね? びっくりさせちゃって」

「意表を突かれたのは確かだが……本当に何があったんだ? ユッカもリィルも妙に気合が入っているというか」

「ちょっとさっき、色々あって」


 色々。なるほど。さっぱり分からない。


 俺達男三人衆もアイシャ達の反応には首を傾げながら腰を下ろすばかりだった。

 未だに目的すら説明してくれない。


 円形のテーブル席を二つ。

 五人と四人に席の順を改める。


 背中合わせになったレイスの向こうにはイルエのため息とレアムのしたり顔。


 残念ながら、安心できる材料はどこにも見当たらなかった。


「あ、でも、カウバに行きたいのは私も同じだよ。どうかな?」

「どうも何も、アイシャもユッカもリィルもそのつもりなら決まったようなものだろう。いつ出発しようか?」

「マユも、です」

「ま、マユも? 大丈夫なのか、協会の手伝いは」

「ばっちり、です。さっきルークさんに話をつけた、ですから」


 つまり既に日程も決まっていると。


 頭の中に全くなかったのか知らないが、もし俺が断っていたらどうするつもりだったのだろうか。


 しかも未だに目的を話そうとしてくれない。

 何かきっかけになるようなものでも見つけられたら、少しは向こうでの方針も立てられるのだが。


「……そろそろ聞かせてくらないか。何故、こんなことに?」

「この手紙が届いたから、です」


 一般的な冒険者には縁のない上質な便箋。

 蝋封は既に破られた痕があった。


(差出人は――……なるほど。そういうことか)


 この手紙がアイシャ達に。

 差出主のことを考えればその反応も頷ける。


「え、どうなってんの。マジで何があったんだよオレらが出掛けてる間に」

「レイス君達が帰ってくる少し前の事なんだけどね――」






「わ、私達に?」


 いよいよ議論が息詰まっていたところ。


 トレーニングの終了時間も近付き、切り上げるタイミングをレアムが見計らっていた時の事だった。


「はい。エルナレイ・ルーリア・シュヴァルコート様から皆様へのお手紙です。確かに渡しましたよ」


 レナからアイシャへ手渡された便箋はストラの支部へ届けられたばかりのものだった。


 その差出人の名前を聞き、アイシャ達は二度驚く。

 表には確かにキリハを含め全員の名前が記されていた。


「私達も有名になったものだねえ。あの“精霊騎士”から直接手紙が届くなんて」

「そういうのじゃないでしょ。でもいいの? あいつの名前が一番最初に書いてあるけど」

「いいじゃないですか。わたしたちに、って言われたんですから。見られたくないことなんて書いてないですよ」


 薄桃色の便箋。中にはエルナレイ直筆の手紙が何枚も封入されていた。


 表面に些細な凸凹さえない綺麗な紙を手に取ったのはアイシャにとって初めての経験だった。

 書き記された文字にも乱れはない。


『拝啓、イクスプロアの皆様。


 庭のジェアリーロが鮮やかな赤い花を咲かせる季節になりました。いかがお過ごしでしょうか。


 なんてね。皆、元気にしているかしら?


 あなたが話してくれた事件はこっちでも噂になっていたわ。

 壮大で神秘的な光がストラの町を包み込んだそうよ? 随分思い切ったことをしたのね。


 残念だわ。予定が合えばあなたが作り上げた光彩の世界も見られたのに。

 次に使う機会があれば教えて。必ず駆けつけるわ。


 それをあなたからの贈り物にするのも悪くないわね。期待しているわよ?』


 然し手本のように丁寧な文字で記された文章を追う一同の目は次第に冷めていった。


 最初は声に出して読み上げていたアイシャさえ、座った瞳で一枚、また一枚と捲っていく。


「……これ、半分くらいキリハ君に向けたものだよね?」

「なんならほぼ全部あいつあてでしょーが。見ろですよ。この前の魔法を見せてくれなんて頼んでるじゃねーですか。そんな贈り物アリですか」

「それキリハさんが手紙で聞いたんですよ。いつ会えるか分からないからって」

「あいつらに見習わせてーくらいですね」

「大変なことになるのが目に見えてるからおススメできないかなぁ……」


 二枚目も三枚目もバスフェーの、特にキリハに関する事ばかり。

 合間合間にそれぞれの体調を気遣う一言は混じっていたが、ほとんど誰も気に留めていなかった。


 四枚目に突入すると、今度はバスフェーで起こった事件の元凶であるギルバリグルスの話題に移る。


 サーシャによる推測への同意。

 魔人族に関する知識に乏しいキリハへ向けた簡素な解説。


 最後には魔人族が持つ強大な力への注意が添えられていた。

 しかし[ラジア・ノスト]に勧誘された件からまたキリハ個人の話題へ戻る。


「そんなのいいんですよ。どっちでも。花贈るとかいいじゃないですか。みんなで一輪ずつ」

「冒険者に一番不向きな贈り物だよそれ。持ち歩けるわけじゃないからね?」

「いつまた遠くに行くか分からない、です」

「お母さんにお世話頼むことになっちゃうし……」


 既に、ユッカ達にとってエルナレイの手紙は雑談交じりに眺める程度の者になってしまっていた。

 ただ一人、リィルを除いて。


「……カウバ?」


 一人、隅々まで読んていたからこそ見つける事ができた。

 隠すように仕舞われた最後の一枚を。


「カウバ? 急にどうしたんですか。なにかありましたっけ」

「違うわよ。ほら、ここ。書いてあるじゃない」


 円形のテーブルの中心に改めて広げられた最後の一枚。


 覗き込んだアイシャ達の目に映ったのは思いもよらない情報だった。


『追伸。カウバにいい鞘を作る職人がいるそうよ。塗装まで完璧にね。

 一度訊ねてみてはどう? 日程を教えてくれたら合流することもできるのだけれど』


 鞘。

 その単語から真っ先にアイシャ達が思い浮かべたのは迷宮で桐葉が手にした剣だった。


 未だに入手の目処はたっていなかった。

 あまりにこだわりの強い一品に、キリハが直接説得を試みる程に。


 昨夜にもその姿を見ていたアイシャ。話を聞かされていた一同。

 全員の中には共通の考えが浮かんでいた。


「えー……あの町に? そこまで大きなところじゃなかったはずですけど」

「でもエルナレイさんが言ってるんだから間違いないでしょ。いるのよ。きっと」


 しかし誰もエルナレイの言う職人に心当たりはなかった。


 特級冒険者であるエルナレイが言うのだから間違いではない。

 アイシャ達には、エルナレイが聞いた噂話をそのまま伝えるとはどうしても思えなかった。


 それでもやはり不安は残る。


 一度キリハやレイス達を交え相談しよう。

 アイシャの中で結論がまとまりかけたその時。


「――サプライズにプレゼントするのも悪くなかったりして?」


 レアムが唆すように囁いた。


「「「!!」」」


 そうして、鞘の職人がいるということを伏せたままカウバへ向かおうと提案するに至ったのだ。

 道中で勘付かれないよう、職人について書かれた一枚だけは隠した上で。

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