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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
Ⅴ 世界でただひとつだけの
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第97話 匿名希望

「あ、キリハ君。いいところに。君宛てに預かってたものがあるんだよ」


 最初は妙な話だと思った。


 バスフェーに合わせて注文した品々は既に全て届いた。

 念のために何度も確認した。他に頼んだものなどない。


 そもそも遠方の知り合いなんてほとんどいなかった。


 エルナレイさんから送られて来るのも基本的には手紙。

 バスフェーの際に起きた事件について伝えたから、あってもその返信だろうと思っていた。

 ついでに、希望があれば贈り物に関しても。


「ありがとうございます。一体どなたから?」

「預けに来た人の名前、聞き忘れたみたいで。箱に名前もないんだよね。ただ、君に絶対渡してほしいって」

「預けに? 待ってください。その荷物、何処かの町から届いたものではないんですか?」

「言わなかったっけ? 直接協会に持って来られたんだよ。これ」


 その話を聞いて疑問は一層深まった。


 この支部に預けることができたのであれば、少なくともその時点で本人はこの町にいたことになる。

 俺を探すでも、アイシャの家を訪ねるわけでもなく。


 イリアは論外。そんな手は使わない。


 アイシャ達もないと見ていいだろう。

 普段あれだけ顔を合わせているのだから、何かあればその時に言ってくれる筈。


 何より協会側が顔くらい覚えている筈だ。

 毎回必ずルークさんに担当してもらっているわけでもない。


「たまにいるんだよね。そういう人。断るのも申し訳ないから預かってるけど……数が多いと、ちょっとね」


 本来の業務ではないのだとルークさんは言った。


 ただでさえ冒険者と直接関係のない業務を手掛けているというのに。

 そんなサービスまで頼まれてはどれだけ手があっても足りない。


「案外、キリハ君のファンだったりしてね。君の活躍、結構噂になってるみたいだよ」

「活躍なんて大袈裟ですよ。ただ、もしそうだったらルークさんに対処の仕方でも教えてもらいましょうか」

「む、無茶言ってくれるなぁ……僕だってそんな経験ないのに」

「謙遜なさらなくても。“灼砲”なんて呼ばれていたそうじゃないですか」


 一線を退いたとはいえ、知名度はかなりのものだと聞いた。


 顔を顰めたのはきっと今でもそう呼ばれることがあるからだろう。


「……話したのはリットかい?」

「匿名希望、とだけ。色々な方が教えてくれましたよ」

「余計なことしてくれるなぁまったく……」


 当時のルークさんは、今の様に物腰の柔らかい性格ではなかった。

 そんな話もあった。


 そういった変化を触れてほしくない。

 その気持ちは痛いほどによく分かってしまう。


「まあ冗談はこのくらいにしておきましょうか。その小包が、俺に?」

「らしいよ。わざわざ『ストラの新星って呼ばれてる方のキリハさん』なんて言ったみたいだし、人違いなんてことはないんじゃない?」

「その呼び名、完全に定着したんですね」


 渡されたのは白い包装紙と赤いリボンの小包だった。


 ストラに、リーテンガリアに来てからほとんど見ない形。

 送り相手はほぼ絞られたようなものだった。


「……ちなみに、なんですけど。その人の特徴とか、何か覚えていることはありませんか?」

「ごめんよ。僕が対応したわけじゃないから――あっ、レナさん! これ預けに来た人のこと、何か覚えてます?」


 何度か納品手続きを頼んだことのある眼鏡の女性が、この荷物を引き受けたらしい。


 しかし、その人としばらく話し込んだルークさんから、決定的な情報がもたらされることはなかった。


 届けに来た相手は明るい声の女性。

 顔は見たものの何故かはっきりと思い出せない。


 分かったのはその二点だけだった。


「彼女、記憶力はかなりいい方なんだけどなぁ……どうしようか? 不安ならこっちで処分しておくこともできるけど」

「いえ、今の話を聞いたおかげで逆に送り主が分かりました。すみません、難儀な知り合いで」

「いいよいいよ、一回くらい。直接渡すのが恥ずかしかったんだろうし」


 未だにこちらで誰にも素顔を見せていない人物。

 かつ、以前の俺を知っている。


 そんな相手は一人しかいなかった。


 おそらく、枕もとからこっそり回収した品のお返しのつもりで。


「……空っぽ? おかしいな、確かに重さが……」

「まあ見ていてください」


 ひとこと断ってから包装を解くと、中には何も入っていなかった。


 箱が虹色の光を帯びたのは、その直後。


 シャボン玉が割れるように勢いよく箱は弾けた。


 空中に散った虹色の粒子は集まり、次第に俺の両手に包んでいく。


「……君の友達、どうなってるんだい?」

「魔法とはまた別の妙な力を持ったやつですから。俺は使えないんですけどね」


 そうして残ったのが、まさにこの指ぬきのグローブだったというわけだ。






「お前それみんなに言ってないだろうな!?」


 全てを聞いたレイスの表情には焦りしかなかった。


 とても『大袈裟だ』なんて言えない雰囲気。


「ああ、特に誰も何も言わなかったからそのまま」

「……さすがの、危機回避能力か」

「その褒められ方は嬉しくない」

「言われるようなことやってるのはキリハなんだよなあ……」


 さすがに外せなくなる、なんて呪いめいた機能は備わっていなかった。


 しかし驚くほど手に馴染む。

 まるで、俺の身体を知り尽くした上で作ったように。


 一見すると無地のもの。

 だが、よく見ると手首の部分に二対の翼のマークが刻まれている。


「とはいえさすがに頃合いを見て話すつもりだ。このままバレた時の方が怖い」

「それはいいんだよ! キリハが怒られるだけだから!」

「ちょっと待て」


 大問題だろう。

 何を以ってそれは構わないと思ったのか。一度じっくり話し合おうか。


「とにかく、それは言うな。絶対にだ」

「っていうか誰なんだよ。そんなもの持って来たの。エルナレイさん?」

「まさか。ある意味あの人より厄介な相手だ」


 特に今は、色々な意味で。


 あの後一度イリアの前に姿を見せたとも聞いている。

 少なくとも、仲良しこよしできる雰囲気ではなかった、と。


 それより何故レイスがエルナレイさんの事を思い浮かべたのかが分からない。


 直接協会に預けたというのだからそれはない。絶対にない。

 エルナレイさんは確かバスフェーの辺りからリーテンガリアの西部へ向かっている筈。


「厄介って。厄介ってさぁ!? お前友達なんだろ!?」

「……広い意味では?」

「キリハ、お前……」

「ああ、違う。友達以上家族未満というやつだ。あの頃は本当に色々あったからな」


 今この場で語るようなことでもない。

 語り始めるとキリがない。


 少なくとも、本人が俺の前に姿を見せてくれるようになってからだ。

 さすがにこちらからも行動を起こす必要はありそうだが。


「……これ、かなりマズくね?」

「オレは何も、聞いてない」


 そのために一度、あえて一人で裏通りを歩いたりもした。

 イリアにもその時間だけは俺を見ないよう頼んだ上で。


 結果としてこの平和な町で遭難事件を起こしかけてしまったが、成果はなし。


 滞在期間も長くなってきたからと侮っていた俺のミスだ。


「どうしたんだ。二人とも。そう警戒しなくても変なことをするようなやつじゃない」

「その方が問題なんだよ。お前ほんとは分かってるだろ」

「一応、ある程度は。かと言ってアイシャ達に気を遣ってこれをつけないのもあいつに悪い」


 イリアと意見が対立している中であえてこれを贈って来た。

 どう見ても既製品ではなかった。


 俺に読心術の心得なんてない。

 あいつの真意まで察することはできない。


 それでもこれ以上裏切るような真似はしたくなかった。


「確かにそうなんだけどさぁ……」

「大事か、その人の事が」

「当たり前だ。何度も背中を預けた相手だからな」

「……なんでそんな人に逃げられてんの?」

「言わなくてもいいだろうそれは。……変に抱え込んでなければいいが」

「「それはお前だろ」」


 何故だ。


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