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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
IV ストラの祭日
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第95話 贈り物

「――キリハ君ッッッ!!」


 逃げるな。おい、揃いも揃って逃げるんじゃない。上司だろう。あなた達の。


 近付く気配の主の気色悪い興奮が空気越しに伝わってくるようだった。


「ルークから聞いたぞどういうことかね!? あんな魔法があるなら何故言ってくれなかった!!?」


 ……こんな狭い道でなければ。


 逃げたくても逃げられない。

 まさかこんな場所で全力疾走できる筈もなく。


 結局荒ぶる支部長に一度は捕まるしかなかった。


「いえ、ですからあれはあくまで急造しただけのものであって――」

「あんな魔法を即興で作れるわけがないだろう!? 集約を応用した防護機能もそうだ。やはり今すぐじっくり話し合おう! さあ!!」


 話を聞いてください。


 どこからこの握力を捻り出しているのだろうか。

 各方面のためにも、痕が残らなければいいが……


「そ、そういう支部長はどうなんですか? 何年か前に一度、支部長自ら派手な魔法のショーをされたと聞きましたよ」

「あれほど鮮烈で幻想的な魔法に余計な手を加えられると思うかね?」


 そうでしたか。そうでしょうね。


 その目には全く迷いはなかった。

 血迷っている節は合っても躊躇う素振りすら見せなかった。


 暴走特急。猪突猛進。制御不能。

 誰でもいいから止めてくれはしないだろうか。……無理か。


「やはり私の直感は正しかった。君は素晴らしい。大! 変! に! 素晴らしいッ!! バスフェー期間中はどうにか抑えていたがもう我慢の限界だ!! 君はどこの店がいい? 是非とも例の魔法に着いて詳しく話s――んぐっ!?」

「そこまでにしてください支部長。さすがにうるさいです。絞めますよ」


 耳を覆いたくても両手を掴まれているせいでそれもできない。


 救世主が舞い降りなければ永遠にこの状況が続いていたのではないかとすら思える。


 さすがに支部長に《催眠香》は使えない。使っても通じるとは思えない。


「……あの、ルークさん? 俺の見間違いでなければ既に支部長の襟を既に掴んでいるように思うのですが」

「ああうん、その辺りは気にしなくていいよ。ここは僕に任せてみんなの所に行ってあげて。君の事、待ってるんじゃないかい?」

「ですね。……支部長の顔色は気になりますが」

「大丈夫だよこのくらい。放っておいたら暴走するし。この人にはまだやってもらわないといけないことがあるから」

「そういうことなら……」


 目が座っていた。怖いくらいに。


 断じてその気迫に押されたわけではないが、足の動きはいつにも増して早かった。

 後ろから送られる悲哀に満ちた視線のせいかもしれない。

 欠片も同情できなかったが。


 ルークさんの額に青筋が浮かんでいるところを見たのは初めてかもしれない。……あの温厚なルークさんがここまで。


 ……あの調子だと、今日は渡せないかもしれない。

 あの雰囲気の人が相手ではさすがに無理だ。


 ただそうしたかっただけとはいえ、結果として、アイシャ達を最初に呼んだのは大正解だった。


「あ、やっと見つけた。……探してたんだよ?」

「すまない。少し支部長に捕まってしまって」


 その場にいる誰もが何かを察したような表情を浮かべたのはきっと気のせいだろう。


 まだ疲れが抜けていないらしい。そんな幻覚を見るなんて。

 アレも幻覚であればよかったのだが。普段の厳格な姿だけでいい。


「で、わざわざ呼んだ理由って? あんたもそんな暇じゃないんでしょ」

「よく言いますね。朝だってずっと髪整えてたくせに」

「してないわよ!!」


 聞いていない。俺は何も聞いていない。

 だからどうか睨むのだけはやめてほしい。


「落ち着けって。きっとこの前暴れたやつらのことで何か分かったから教えに来てくれたんだろ。な?」

「……なんでこうも察しが悪いですかこの炎頭は」

「察しの良いレイス君なんてレイス君じゃないよ。そんなの」

「一理、ある」

「なんかオレ悪口言われてねー?」


 こんなやり取りでさえ安心する。

 さすがにさっきの支部長攻撃はきつかった。


「ギツダビルツクの件なら進展なしだ。とはいえ[ラジア・ノスト]も本格的に動くようだし、それも時間の問題だろう」

「違う。前聞いたのと全然違う。最初しかあってないじゃんかその名前」

「ん? ……ああ、ギルバリグルスだったか」


 完全に素で間違えた。


 どこから出て来たのか自分でも分からない。そもそも頭が回らない。


「キリハ大丈夫? やっぱりもうちょっと休んだ方がいいんじゃ……」

「口で言ったって『あとでそうする』とか言って逃げるだけよ。ベッドに連れて行くくらいじゃないと。マユもちょっと手伝って」

「お任せ、です」

「お、おい?」

「……待て。キリハの要件を、まだ聞いてない」


 トーリャが止めてくれなかったらそのまま連行されてもおかしくなかった。


 あの魔法を使ったのは一日だけ。

 どうやらそれでもまだ疲労は抜けきっていないようだった。


「ああ。この前の騒ぎのせいで遅れていたんだが、昨日やっと全員分届いたんだ。出来ればバスフェーの間に渡したかったんだがな。よければ受け取ってくれ」


 届いた包みを持ち上げる時に改めて思い知らされた。

 いつもより身体の動きが鈍い。


 割れ物だから気を付けないと。

 支部の中がとんでもない事になる。


「えっと、これって……?」

「見ての通りだ。香水と言えば伝わるだろう?」


 綺麗な小瓶。

 装飾はやや控えめ。値段を抑えるためだろう。


「……へっ?」

「は?」


 そうでなければさすがに俺も手は出せない。


「あ、あんた……どうしてこんな……」

「基本的には厄除けと……それぞれ健康、武道、友愛、待人に関わる加護がある、と。詳しい部分はほとんど向こうの店長に任せきりだった」

「それでもキリハさんしっかり悩んでたじゃないですか。わたしは自分で決めちゃいましたけど」


 髪や瞳の色に合わせることも考えた。


 マユが会う筈だった管理役の件があったから効能を優先したまで。

 つけて何かが劇で気に変わるわけではない。そのくらい分かっている。


「じゃなくて! あんたほんとに分かってる!?」

「香りに好みがあるという話だろう? だからユッカにも相談に乗ってもらった。どうしても気に入らなかったら……」

「そうじゃないわよ!!」


 少なくとも叱られるようなことはしていない。おそらく。


 代金も自分の取り分から出した。

 向こうの店長が推してくれたわけだし、贈り物としてタブー視されている筈はないのだが……


「な、なあトーリャ。もしかしてあいつ……」

「……間違い、ない」

「あとで言ってきやがれですよ。男共」

「そんなことで動揺するタイプかなぁ?」


 何か別の意味が? ……駄目だ、やはり頭が働かない。このポンコツめ。


「何を話し込んでいるんだ? 四人にも用意しておいたんだが……」

「え、オレらに? ……香水を!?」

「いや、それを送るならアイシャ達四人の方がいいと言われたから素直に従った。……その結果がコレなわけだが」


 消耗品の詰め合わせ。

 まさか花束なんて送れる筈がない。


「いやいやいや! いいってそんな! ってか絶対良いやつだよな、この砥石とか……」

「間違い、ない」


 正直この辺りもかなり迷った。


 バスフェーの話を聞いたときに無難な贈り物を聞いておくべきだったと思ったところでもう遅い。


「相変わらず賑やかですねあなた達は。また何かあったんですか?」

「……知識の不足が招いた悲劇?」

「悲劇では、ないだろう」

「あとでどーなるかは知らねーですけど」


 サーシャさんに至ってはそもそも来てもらえるか怪しかった。

 用意したのもつい昨日。自身の計画性のなさにはため息をつきたくなる。


「バスフェーの贈り物ですか。……まさか私にも、なんて言いませんよね?」

「そのまさかですよ。今回の一件、サーシャさんにはかなりお世話になりましたから。……失礼な態度を取ってしまい、申し訳ありません」

「いいですよ。私の問題にやり方があったのも事実ですから。姉さまにも言われてしまいましたし」


 さすが。全くブレない。


 この無地のハンカチに姉であるナターシャさんに関わる何かしらのデザインが加わっていてもおかしくない。


「ただ……あなた、いつか刺されても知りませんよ?」

「はい?」

「いずれ分かりますよ。たらしのキリハさん。このハンカチーフはありがたくもらっておきます」


 人聞きの悪い。

 どこの誰が襲ってくるか知らないが、返り討ちにすれば済む話だろう。


「そういえば、皆さんは用意した、ですか?」

「「「………………ああっ!!?」」」


 少なくともこの面子とは縁のない話だ。きっと。






「……どういうつもりですか? 桐葉が戸惑う様を眺めていたのですが。あの贈り物が告白同然と知った時の桐葉を見逃すわけにはいきません」

「相っ変わらずいい趣味してますね。あの人もさすがにそろそろドン引きしますよ。させますよ」

「今更桐葉がそんな事を言う筈ないでしょう? 何年続いていると思っているんですか」

「うっわぁー……」


 悪びれもしないその姿。

 変わらないその姿に嘆きすら覚えそうになった。


「そんなくだらない文句を言いに来たんですか? 早く用件を言いなさい」

「……ですね。同感です。じゃあ言っちゃいましょうか」


 息を吸い込む。

 本来彼女にその必要はない。


「ああなることくらい予想できてましたよね?」


 それは、現世での生活が彼女に与えたものの一つだった。

 桐葉やその仲間と共に過ごすうちに着いた癖のようなものだった。


「ええ、だからあの時彼の補助を買って出たんです。むしろ予想外だったのはあなたの行動ですよ。まさか私の前に顔を見せる度胸があったなんて」

「ふざけないでくれます? あんな大掛かりな魔法使って、どれだけ負荷がかかるかも分からないお馬鹿さんなんですか?」

「他でもない桐葉が望んだことです。邪魔などできる筈ありませんよ」


 そのことは彼女も知っていた。だからこそ全面的には受け入れられなかった。


「そんな甘っちょろい考え方でどうにかなるなら苦労しないですよ。それともそんなに同じこと繰り返したいんですか?」

「小細工ばかり仕掛けておきながらよく言いますね」

「……ッ」


 その一言が、引き金を引いた。


「分かってるはずですよね!? マスターが言えばあの人も聞くって!」


「だからですよ」


 しかし、爆発した怒りを前にしてもイリアは変わらなかった。


「私が言えば確かに桐葉はそうするでしょう。ですが、そんな方法で彼を縛ったとしてそこに何の意味があるんですか?」

「そうでもしないと危ないのはあの人でしょう!?」

「させませんよ。私がさせません」


 迷いを捨て去った瞳で見据え、否定した。

 あらゆる手段を用いる覚悟を決めていた。


「……分かりましたよ」


 同時にそれは、彼女にある決意をもたらした。


「そういうことなら分かりましたよ。マスターがそのつもりなら、私は私のやり方でやらせてもらいますからね」


 道を違えるという決意を。

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