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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
IV ストラの祭日
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第94話 哀れな男

「ギルバリグルスと男は名乗った。そう言っていた」


 縛り上げられ、取り囲まれては構使いも観念するしかないようだった。

 爆弾を渡された男の方はまた後日。時間的に全員聞いて回れるだけの余裕はない。


「んで、そいつの動機は? 何も聞かなかったのか?」

「知らない。多少怪我させるだけでいいと言われていた。殺すつもりなんて――」

「それはただの言い訳だよ。ただの通り魔と何が違うんだい?」


 あれだけ高く振りかぶっておいてよくもまあぬけぬけと。

 被害が出てもきっと同じようなことを言っていたんだろう。この手の連中が言いそうなことだ。


 そう意味なら、俺の近くにいてくれたのは好都合だったのかもしれない。

 おかげで最低限憎い留める事ができた。


「無駄ですよルークさん。そんな連中相手に何を言っても。敵でもない相手に躊躇いなく刃を振り上げられる時点で正気じゃない。あなたが心を病むだけだ」

「だからってこのまま終わらせていい問題じゃないよ。……君も魔法で無理矢理聞き出そうなんて考えないようにね」

「厳禁、です」


 言われなくても。

 本音を言えばそれでさっさと片付けてしまいたいところだがさすがに言わない。


 ……どうにも考えが単調になっている気がする。いつも以上に。


「とにかく聞かせろって。こっちはそんなに暇じゃないんだよ。ほら」

「だから知らないと言っているだろう!?」


 その発言を鵜呑みにする者はこの場に一人もいなかった。

 当然だろう。場合によってはもっと騒ぎになってもおかしくなかった。

 それだけの事をしでかした。


「どうしても知りたかったらあの男でも探し出して――」


「はるか昔のバスフェーは、儀式的な側面が強かったそうですね」


「……昔の?」


 一度席を外していたサーシャさんが戻ってきたのはまさしくその瞬間だった。

 どこから手に入れたのかも分からない情報と共に。


「そうです。詳細の特定には至りませんでしたが、儀式の妨害を目的としていたのであれば一応の説明はつきます。バスフェーグを偽物と入れ替えるのが一番の目的だったんじゃないですか?」

「つまりその他は全て陽動だった、と。仮に今回のバスフェーの進行を妨害できなかったとしても――」

「そう、目的はもう果たしていたんですよ。……こんなこと、ただ実行役に選ばれただけの方の前で話しても無意味でしょうけど」


「『惜しいな。[ラジア・ノスト]の小娘』」


「……小娘ですって?」

「『貴様の推測はほぼ全て正解だ。だが無意味と決めつけるには早すぎた』」

「今ここにあなたがいない以上は同じことです。そうですよね、ギルバリグルスさん?」

「『様をつけろ。痴れ者が』」


 ……よくもまあそんな横暴な態度を取れるものだ。


 自身は安全圏にいるからこその余裕か、この場にいる全員をまとめ相手どる自信があるのか。

 ほぼ間違いなく前者だろう。ここにいる全員と戦えるだけの力量があるのならわざわざこんな方法を取る必要もない。


「俺からも一つ聞かせてもらおうか。いつどこでライザと接触した?」

「『口を慎め。我を誰だと思っている? 誇り高き我が一族への態度がそれか?』」

「欠片ほどの興味もない。お前がどこの誰であろうとやったことに変わりはない筈だ」


 たとえ一国の王であろうとこんな愚行を許していい筈がない。

 この手の輩はこちらが妥協したら負けだ。


「さっさと答えろ。ライザといつどこで会った?」

「『……聞き覚えのない名だな。その者が何をしたというのだ』」

「とぼけなくていい。それとも誇り高き一族は証拠が揃うまで黙秘を続けるほどに往生際が悪いのか」


 ルークさんのもの言いたげな視線はひとまずスルー。今はそれどころじゃない。

 この男が折れるまで、何時間でも睨み続けてやるつもりでいた。


「『……生意気な小僧だ。その証拠とやらを一つも手にしていないくせに』」

「お前が使った木箱の術式が完全に消えたと本気で思っているのか?」

「『リーテンガリア程度の技術で復元できる筈がない。そこの小娘に復元できるわけがなかろう』」

「侮るなよ」


 この人を心底見下したような態度。

 無駄だと分かっていてもつい余計な苛立ちが先行しかける。


「ここにいる人達はお前が思っている程弱くない。権威に縋り付き今も息を潜める臆病者に馬鹿にされる筋合いなんて絶対にない」

「『見え透いた挑発を。自衛をしたまでのこと』」

「都合のいい言葉で置き換えるな。ライザのような連中を唆してばかりいる身のくせに」

「『あの者は詳細など知らぬさ。使えるのならどんな品でもよかったと我の前で豪語したほどだ』」

「だから、誰でもよかったお前とはある意味利害が一致したわけだ。高貴な身分が聞いて呆れる」

「『……』」


 そもそも転移の技術自体、ギルバリグルスが一から編み出したものではないだろう。


 俺からしてみればこの男が自らの力で何を成したのかさえ分からない。


 サーシャさんの逆探知は上手く行っていないようだった。

 これ以上時間を延ばしても意味はない、か。


「『……そうか。貴様が。詫びねばなるまい。ヒトの子よ。我は少々貴様を侮っていたようだ』」

「必要ない。そのままひたすら油断していてくれ」


 直接会うその時まで。


 それに。


「お前が謝る相手は俺じゃない」


 魔法を撃ち込んだ時にはもう、ギルバリグルスの気配は消えていた。


 入れ物にされた鎌使いだけがその場に残され崩れ落ちる。


「バっカお前……! もうちょっと引き延ばせばどこにいるか分かったかもしれないのに」

「ありません」


 やはり探っても気配はどこにもない。

 そもそも本人はリーテンガリア内にいなかったのだから当然か。


「あの名、それに使われた一部の魔法……おそらく魔人族でしょう。簡単に尻尾を掴ませるとは思えません。事実、こちらの逆探知も器用に躱されてしまいました」

「あ、そう……んじゃキリハのは」

「軽い衝撃と切断。あの男が繋げたパスを利用して衝撃魔法を本体に送り込んでやった。追尾も出来ればよかったんだが、さすがにそこまでは――……っ……」


 視界が揺らいだ。


 しかしそれも一瞬。すぐにまた元通り。

 間違いなく今日の魔法のせいだろう。……さすがに今の状態では負荷も大きかったか。


「恥じることはありませんよ。追尾できなかったのはここにいる全員が同じですから。大したものです」

「キリハさんのこと、褒めてる、ですか?」

「はい、勿論。さっきの反論含め、少し見直しました」


 少し。なるほど。

 喜んでいいのか悪いのか。……一応、マシになっただけ良しとしておこう。


「――やはり姉さまの目に狂いはありませんね!」

「はは……結局そこですか」

「むしろそれ以外になにがあるんですか?」


 反論できなかった。

 もうしたいようにしてもらおう。その方が俺も気が楽だ。






「君が羨ましいよ。ギルバリグルス」


 思いもよらぬ反撃に腕を抑えるギルバリグルスの傍には影が浮かんでいた。


 姿を見せないその男の態度が一層ギルバリグルスを苛立たせる。


「ほざけ。貴様には焼かれたこの腕が見えぬか!」

「見えているからこそだよ」


 しかしそれも一瞬だった。


「……何?」

「君が羨ましくて仕方がない。あれほど明確な感情をぶつけられた君が」


 男の常軌を逸した答えにギルバリグルスは返す言葉を失った。

 それに気付くことなく男は続ける。


「どうしてなんだい? なぁ、答えてくれないか。どうして君は彼の視線を釘付けに出来たんだい? 君と何が違ったと言うんだ?」

「……知るわけがなかろう。あの者の周りで騒ぎでも起こせば自ずと向くのではないか?」


 同時にギルバリグルスは呆れていた。


 似たようなやり取りを何度も繰り返した。

 ギルバリグルス自身が直接被害を受けたのは初めてだが、それ以外はある意味で彼らにとっていつも通りの事だったのだ。


「それじゃあ意味がないんだよ。向かい合ったその時、彼の中にあるのは巻き込まれた人達の事だ。群がる連中の事だ。そんなものじゃあ意味がない!」


 男は叫ぶ。嫉妬に狂う魔女のように。

 その様を冷ややかに見られようと、気付く事すらなく。


「そうだ。いつもそうだ。どこまでいっても彼の中ではただ倒すべき敵以上の認識なんてない。なのにあの時はそれすらなかった!」

「何も間違ってはおらぬだろう。アレは敵に憐れみという名の隙を見せる性質ではない」

「知ったような口を利かないでくれギルバリグルス!」

「……酔狂な男だ。それほどまでにあの男と刃を交えたいか」

「そうじゃない。そうじゃないんだ」


 既に耳を塞ぎかけていたギルバリグルスはそれでも話を最低限続けることにする。


 どれほど性格に難があろうと、今のギルバリグルスにとっては必要なスポンサーだった。


「僕には彼が必要だし、彼には僕が必要なんだ。そうでなければならないんだよ!」


 そんなギルバリグルスにも、我慢の限界はあった。


「……言いたいことはそれだけか」


 聞き飽きたその台詞に返す自信の声にすら嫌気が差すほどだった。


 こうなってしまえば最後、手の施しようがないことをギルバリグルスはよく知っていた。

 何度も見せられては覚える以外なかった。


「貴様の妄言には付き合いきれぬ。叫びたければそのまま勝手にしていればいい」


 その言葉にも返ってくる声はない。

 影は揺らぎ、呪詛のような囁きが書斎に響く。


(……哀れな男だ。どうしようもない程に)

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