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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
IV ストラの祭日
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第92話 招かれざる客

「わっ、わっ、わっ!!? なんなんですか、なんなんですか!? さっきから――ひゃっ!?」

「すごくきれい、です」

「そうじゃなくて!」


 キリハが展開した魔法に害はない。

 分かっていても、自身を中心に巡る光からユッカは逃げる。


 しかし色とりどりの灯火は親の後を追う小鳥のようにその後を追った。

 時に回り込み、隙間を抜け、親にせがむようにじゃれついた。


「――なんでついてくるんですかぁっ!」


 傍から見れば彩り鮮やかな瞬間。

 逃げるユッカの元へ更に光が集う。


 そうして走り回る姿が街の人々から注目を集めていたことなど、彼女は知る由もなかった。


「ユッカちゃーん! その光、逃げるともっとついていくみたいだよー?」

「なんてことしてくれるんですかキリハさんは!」


 アイシャだけは昨夜、その話も聞いていた。


 疑似的な自動追尾。

 本来であれば複雑な術式を正確に組み込まなければならないもの。


 キリハが選んだのはそのものではなく、故に特定の対象を正確に追尾することはできない。


「おかげでいっぱい集められた、です」

「満足そうな顔してるけどこれそういう遊びじゃないから。いつの間に走ったのよ。マユ」

「そうじゃ、なくて。手をぶんぶんって振るだけで集まった、です」

「器用なことするわねあんたも……」


 マユの腕の中には山盛りの発光体。

 吸収と分裂を繰り返しながら姿を変え、混ざり込んだ音符が虹色に染まる。


 星に、小動物に、武器防具に次々姿を変えていく。

 アイシャ達でさえ、美的感覚に乏しいキリハの手によるものではないと薄々感じてしまう程に不可思議な光景だった。


「……支部長に、対抗意識を燃やさなくても」

「相手はその道のプロだから、って自分で何度も言ってたのにねぇ?」


 キリハが未だに伏せている動機の一つを彼らが知る術はない。

 トーリャやレアムには、制約がないことをいい事にキリハが存分にその力を振るい始めたようにすら思えた。


「人の家まであんなに光らせちゃって……本当に大丈夫なんでしょうね?」

「壁からちょっとだけ離してるんだって。昨日うちで見せてくれたときもそうだったし――こんな風に、ね?」

「……ふぅん」


 アイシャにとってそれはもう、日常の風景(あたりまえ)なっていた。

 アーコで働き、家に帰る時期も限られている父もいつかは。そう思っていた。


 毎年、アイシャの父もバスフェー前には必ず自宅へ戻っていた。

 手紙で何度も話をした。それも密かに楽しみにしていたのだった。


「これだけ派手にやってるのになに宣伝しろってんですか。今だって町中の視線釘付けにしてるのに」

「それに叫べば、演奏の邪魔に、なりかねない」


 町中を包む不思議な音色の事はトーリャも疑問に思っていた。

 聞き覚えのない旋律。身体の芯に溶け込むような音色は休むことなく響き続けていた。


(キリハ……楽器なんて持ってたっけ? 昨日はそんなこと全然言ってなかったけど……)


 その正体をアイシャも知らなかった。

 だからこそ余計に疑問に思っていた。


 キリハの他に誰かがいる。その可能性に誰より早く辿り着いた。


(……え?)


 その時、アイシャの瞳に羽ばたく影が映った。

 あの場所ではっきりと姿を見たわけではない。だが、キリハの話した通りの姿があった。


「おいあれ言ってた魔物だよな!? あそこ、あそこ!!」

「うわ、ほんとだ。あれってきっとキリハ君狙いだよね? どこ? 彼の場所分かる人いる?」

「分かりませんよ探すしかないですっ!」


 途中、一度だけ近くを通った瞬間に声をかけておくべきだったと誰もが後悔した。

 本当に一瞬の事だった。声をかけられた筈がない。それでも思いは同じだった。


 だからこそ、その時いたもう一人に誰も気付かなかった。


 キリハが未だに気付いていないと考える者はいない。

 しかし今、キリハは町中を飛び回りながら多数の魔法を同時に発動させている。


(せっかく、せっかくキリハが頑張ってくれてるのに……邪魔なんて――!)


 そんなキリハに、迎撃まで。

 その状況に甘んじる自分自身をアイシャは許せなかった。


 既にアイシャ達の視界から翼を持った人型の魔物は消えている。

 しかしアイシャの手は譲り受けた杖を硬く握っていた。


「はいそこまでー。あんなの五月蝿いだけですよ。そこでおとなしくしておいてもらえません?」


 場の雰囲気にそぐわない軽い調子の声をした人物に止められなければそのまま走り出していた。


 顔は隠れていても、その声をリィルは知っていた。


「あ、あんたは……!」

「どうもどうも、お久しぶりでーす。元気してました? そんな服着ちゃえるくらいですから大丈夫ですよね」

「やめてくださいまたリィルが顔真っ赤になるじゃないですか」


 ユッカがそう言った頃にはもう、リィルの姿はユッカの後ろにあった。

 頬を羞恥に染めたまま、しかし疑惑の目を乱入者へと向けていた。


「ごめんなさいね。折角『いつものメンバーでなんとかしよう!』ってノリだったのに妨害しちゃって。変なところで自制が効かないんですよねー昔から」

「は、はぁ……? 別にそんなこと思ってないですけど。最初からできるだけ目立つようにするってキリハさん言ってましたし」

「あ、そっちじゃなくて――……んー、めんどくさいしそれでいっか。あの人にも責任あるし。やっぱり何でもないでーす」

「いま絶対なにか言っていましたよね! キリハさん以外に誰かいるんですか、誰か!!」

「私は知りませんよぅ。何かって言われてもさっぱりで~」


 あまりに下手な嘘だと誰もが思った。


 間近で向かい合っていたユッカは囁くような乱入者の思い付きも余すことなく聞き取っていた。

 しかし問い詰めても答えは返ってこない。

 どことなくわざとらしい態度で受け答えを繰り返されるだけだった。


「もういいですよっ。邪魔しないでください! キリハさん探しに行かないといけないんですから!」

「だーかーらー、動かないでって言ってるじゃないですか。頭上注意ですよ。ちゃんと見てください」

「なんであなたの言うこと――」


 不満を抑えつつ、ユッカもリィルも空を見上げた。


 ハーピーにも似た魔物が舞う空を見上げた。


「あああアイシャ! あそこ狙えます!?」

「や、やってみる! 水よ集いて――」

「風よ。……んー、あの速さじゃちょっと捉えられないかなぁ……」


 誰もがすぐさま得物を構えた。


 唯一の例外たる乱入者は一歩も動かず、しかしアイシャとイルエの魔法の進路を光の盾で塞ぐ。


「邪魔しやがるなですよ! なんですかお前も妨害に来たってんですか!?」

「はいはい、違いますから落ち着きましょうねー。あんまり勢い任せにやっちゃうとあの人の邪魔になりますよ?」


 凄まれようと怯むことはなかった。

 アイシャ達の前に現れたその瞬間から変わらない口調のまま揺さぶりかける。


 表情はマユからさえ見えない。

 得体の知れない不気味さのようなものを一同は感じていた。


「それにぃ……」


 誰一人として気付いていなかった。

 目の前の人物に気を取られるあまり、ハーピーの口が大きく開かれていることを。


「わざわざ残り滓をそのままにしてるんですから、何かしらの意図くらいあるに決まってるじゃないですか」


 周囲の光が集約し、竜巻を防ぐその時まで。


 ハーピーの強襲は住人はおろか、建物を削ることすらなかった。

 町中を踊る膨大な魔力が悉く防いで見せた。


「気付きませんでした? 消えた後も魔力が少し残ってたって。さすがにある程度は処理してるみたいですけど。まあそうしないとマナハザード起こっちゃいますからねー」


(ま、まな……?)


 乱入者の口から語られた内容はアイシャ達にとって衝撃的なものだった。

 だがそれ以上に、謎の人物から飛び出した単語の不可解さに意識を奪われてしまっていた。


「今のは私が勝手にそう言っちゃってるだけですから気にしても無駄ですよ。集団魔力酔いって言えば、分かります?」

「それなら最初からそう言いやがれですよ。変な名前はキリハの魔法だけでおなかいっぱいです」

「まあ基本見た目と雰囲気で決めちゃいますからねー、あの人」


 それは、一度でもその場に立ち会っていなければ言える筈のない言葉だった。

 つまり、それだけ親しい間柄にあったということになる。


 キリハから旧知の間柄であると伝えられていたとはいえ、その事実は十分に衝撃的なものだった。


「……どうしてこんなことしちゃうんですかねー……身体だって、まだ万全じゃないのに」


 そちらへ気に取られるあまり、またしてもアイシャ達は効き逃した。

 絞り出したような一言を、後悔の籠った呟きを聞くことができなかった。

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