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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
IV ストラの祭日
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第90話 今できること

「まだ届いてないんですか!?」


 翌朝。集合場所はアイシャの家の前。

 最後にやって来たのはユッカとリィルの二人だった。


「しっ、声が大きい。……この際それは後回しだ。いざとなったら直接取りに行けばいい」

「それはそうかもしれませんけど……え、もしかしてまだ話してないんですか? じゃあなんでそんな……?」

「問題はバスフェーの方だ。明日から公演する筈だった劇団がまだ着いていないらしい」


 その話自体、昨日アイシャに教えてもらうまで知らなかった。


 リーテンガリア内では名前の売れた劇団だという。

 とはいえさすがにその中の主要メンバーではないらしい。


 きっかけは以前、劇団に熱心な新人が入ったこと。

 ストラの出身だったというその人物の働きかけにより、新人を中心とした一団が赴くようになったのだとか。


 しかし。


「ファンが押し掛けると面倒だからということでスケジュールは伏せていたそうだ。だが……」

「まだ来てないってことですか。ほんとはもう着いてないといけないのに」

「そういうことだ」


 あの鎌の使い手もそこだけは知らされていたのだという。

 分からない。本当に。


 本人達は夢の中。所在を掴めたのが昨日のこと。 

 当然というか、今から間に合う距離ではない。トレスどころではないのだ。


 届いていた手紙にいたっては偽物。やりたい放題にも程がある。

 それにしても。


「あの件、まだ話してなかったのか? リィル」

「知ってると思ってたのよ。この子、一人だけサーシャさんの方に行ったから」

「しょうがないじゃないですか。あの人ひとりだけだったんですから」


 そしてサーシャさんの側は既に情報を把握していた、と。

 姿がない理由もおそらくそれだろう。


 偶然聞きつけた面々から噂が広まっているのだろう。

 通りの方に目を向けると、心配そうに話し込む人々の姿がちらほら見受けられた。


「ありがとう、ユッカちゃん。心配だったんだよね。私は断られちゃったし……」

「それはそれでどうなんですか。あんな仲良さそうにしてたのに」

「それとこれとは別問題だからって言われちゃって。あ、でも、手紙を送る先は教えてもらったよ。いつでも送ってくださいって」

「ひょっとして暇なんですか、あの人。[ラジア・ノスト]なのに」

「あ、あはは……それはないと思うけど……」


 アイシャの言う通り、それはないだろう。普段からあちこちの町へ赴いている筈なのだから。


「それで? あんたがさっき言ってた『それ』のこと、ちょーっと聞きたいんだけど?」

「黙秘権を行使させてもらう。……真面目な話、今は少し間が悪い。この一件が片付いてからでも十分間に合う」

「無理に聞き出したいわけじゃないわよ。別に。あたしには関係のないことでしょ」

「そうでもない。程々に期待しておいてくれ」

「なんの話よ」

「その時になってからのお楽しみ、というやつだ」


 それなりに詳しい相手の助言も得たから致命的な問題にはならないだろう。おそらく。

 俺一人で選ぶよりは確実だった。感謝してもしきれない。


「あらあら~? 今日も皆勢揃いね~。また一緒にお出かけかしら~?」

「そうしたいのはやまやまですが厳しくて。マユがいませんし、何より昨日アイシャに教えてもらった件もありますから」

「考えてくれるのは嬉しいけど~、皆はそのまま楽しめばいいじゃないかしら~? 来年もまた同じように揃うか分からないわよ~?」


 それは俺も考えた。

 特にレイス達とは別行動になる可能性も低くない。


 当面[イクスプロア]のまま登録しておくことにはなったが、場合によっては解散も止む無し。

 それで切れてしまうような縁でもない。


「そんなことないよ、お母さん」


 真っ先に言葉にしたのは、やはりアイシャだった。


「皆がそろうのは今回だけかもしれないけど、それがこんな事件ばっかりで終わるなんてもっとイヤ。だから……」

「無理矢理止めようだなんてないわよ~? でも皆、それでいいの~?」


 アイナさんの問いかけ。首を横に振る者はいなかった。

 それを見て小さく微笑んだ。ような気がした。


「いい友達が、できたみたいね~?」

「……うんっ!」


 三人寄ればなんとやら。だから、これだけの人数が揃えば。


「あたし達でできること……一応言っておくけど、あんたが迎えに行くのはなしだからね?」

「それは昨日ルークさんに却下された。まだ本人達の体調が不安だから、と」

「……ルークさんには感謝してもしきれないわね」

「僕がどうかした?」


 ああ、何か持っていると思ったら。

 それぞれ木箱を抱えたルークさんとマユ。


 頭を抱えられるのは心外だが今はそんな文句を言っている場合ではない。


「おはようございますルークさん。それはひょっとして、演劇で使う予定の小道具ですか?」

「え、演劇の? でも劇団は着いてないんじゃ……」

「やれるだけやろうと思ってね。今は資材の搬入中。表通りは人が多くて使えないから……」

「マユも手伝い、です」


 確かに。

 今はまだ噂話。どれだけ信憑性が高くてもその域を出ない部分がある。


 本来は劇団のメンバーもいたのだという。小道を利用した経路をあらかじめ計画してあったのだろう。


「そういうことなら俺も。痛めないように運べばいいんですよね?」

「いいのかい? ならお願いしようかな。キリハ君が手伝ってくれるなら百人力だよ」

「オレもオレも! いいだろ、トーリャ?」

「ああ、任せろ」


 資材の倉庫は遠くない。

 さすがに浮かせて一気に運ぶのは止めておいた方がいいか。


「ちょっと待ってください。もういっそ、支部長にやってもらえばいいんじゃないですか?」


 しかし、足は止まった。

 ユッカによって待ったをかけられた。


「へ? な、何を?」

「あーそっか。確かにありだね、そのアイデア」


 妙案と共に。

 成程、それなら。


 以前一度やった事もあるという。

 説明はどうにでもなる。演劇自体は延期になるだろうが、どうしてもの場合はバスフェーの後でもいい。


「説明しやがれですよ。手、貸してやりますから」

「違います。そうじゃなくて。前に支部長がいろんな魔法使ったことあったんですよね?」

「あ、うん。確か……えっと、いつだったっけ?」

「四年前だった筈よ~。でも支部長さんも忙しいんじゃないかしら~?」

「みたいです。……昨日から執務室にほとんど籠りっぱなしなんだよ。今あの人があそこを空けるわけには……」


 そして何よりの問題はそこ。

 他でもない支部長本人の予定。


 トラブル続きの今回のバスフェーを傍観できる筈がないのだ。


「……その時の事、もう少し詳しく教えてもらえませんか?」


 専門家として研究を重ねている支部長に比べたら劣るだろう。

 だが、何もしないよりは。先にルークさん達に見てもらってもいい。


「支部長ほど派手な魔法は使えないかもしれませんが、ある程度の再現はできる筈です。公演予定は明日からでしたよね?」


 準備の時間も最低限は確保できる。

 目覚めたその日から世話になっている町だ。何かしたっていいだろう。


「あ、もしかしてキリハの魔法……それと、えっと——」

「いや、あれはまだ完成してない。何より夜の方が映える」


 やるとしたら最終日の夜。

 光と音だけ。調整も必須。果たして間に合うかどうか。


「他にも一瞬の内に氷の彫刻を作り上げるとか、光の噴水とか、一発きりのものなら案はある。……皆の知恵を借りたい」

「でもキリハ君、そういうのは得意じゃないって言ってなかった?」

「当てはある。ルークさん、コンクールに出店している絵画の作成者は基本的にストラの方なんですよね?」

「そうだけど……それがどうかしたのかな?」


 全員は無理でもなんとかいける。

 風景画はいっそ、街の周囲に映し出してもいい。


「一部をモデルにさせてもらうんですよ。実物が目の前にあれば多少はマシなものができますから」

「間に合うかい? 細かい術式の調整だって……」

「俺の魔法は『なんとなく』のイメージが鍵ですから」


 やろうと思えばどうにでもなる。


 特に俺の場合、術式利用型とかけ離れていると言ってもいい想像型を主とする。

 術式は、ある種の公式。対して何もかもが決まっていないのが想像型。


 当然扱いは難しい。俺が使う魔法も全てが想像型というわけではない。


(……上等だ。やってやる)


 どこの誰だか知らない。今はどうでもいい。

 だが邪魔をされたからと言って俺が、俺達がそのまま大人しくしていると思ったら大間違いだ。

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