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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
IV ストラの祭日
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第87話 偽り

 彼らとの関係を適切に表すことのできる言葉を俺は知らなかった。


 戦いを終え、遠く離れた彼方の世界へ渡った今でもそれは同じ。


 顔見知りの一言で片づけられるほど浅くもなく、


 友人と呼べるほど損得勘定を抜きにした付き合いをすることも終ぞなかった。


 当然と言えば当然だろう。

 戦いの中で知り合い、戦いの中で関係を深めていったのだから。


 彼らが集めた情報を元に、俺が現場へ赴く。

 正面から力をぶつけ合う役を俺が、その前段階を彼らが引き受け成り立っていた。


 組織とは異なるアプローチで集められた情報は実際に多くの成果をもたらした。


 組織が手に入れ損ねた情報もあれば、逆に組織しか手に入れられない情報もあった。


 組織の一員としては本来許されることではない。

 見逃される立場だからこそできたこと。それに甘えていたのは紛れもない事実だった。


 あえて言うのであれば、『頼りにしていた』のだろう。

 それも到底綺麗な言葉で言い表せるようなものではない。

 向こうも俺の戦闘力を利用するつもりで関係を続けていた。


 組織でも並外れた戦闘能力だったからこそ、成り立っていたものだった。

 彼らが直接戦う後も関係が継続したのはそこにある。それと、最低限の信頼関係。


 しかし、直接口にする事こそなかったが、お互い認め合っていた。


 戦友と呼べるほど大層なものでもない。


 協力者という関係性は、出会った頃のまま半ば誤魔化すように引き摺り続けたものだった。






「に、偽物!?」


 先刻、届いたばかりの荷物。

 その中に含まれていたバスフェーグは本来授かっている筈の神聖な力を欠片も宿していなかった。


「どうして今まで分からなかったんですか? ストラに運ぶまでの間に確かめる機会はあった筈でしょう」

「確かめていましたよ。しかし何度も封を切ってしまうとその度に力が弱まってしまうのです。……ご理解いただけましたか?」

「失礼しました」


 やはり全てに馴染ませるのは難しいか。


 修道服に身を包んだ女性は引継ぎ時、確かに確認したのだという。

 だがそれ以降は一度も開けていないと言っていた。


 箱につけられた目印に変化はなく、封を切られた様子もない。

 休憩中も必ず監視を付けたと言っていた。

 真っ先に疑いの目が向くとしたらその監視役だが、この場所から終える相手では無いだろう。

 もう逃げていてもおかしくない。


「また、です」

「また? 前にも何かあったのか。だったらその時の話を聞かせてほしい」

「そうじゃ、なくて。また耳をとんとん叩いてる、です」

「……ふむ?」


 何を言っているんだろうか。


 しかし気付けば確かに手は右耳へ。

 人差し指が指を何度も小突いている。丁度、小型ヘッドセットのボタンがある辺りを。


 完全に無意識だった。

 つながる筈もないのにこんなことをしていたのか。恥ずかしい。


「ああそれ? 考えごとするときのクセでしょ。しょっちゅうやってるし」

「むしろキリハさん気付いてなかったんですか? 自分のことなのに」

「ああ全く。言われて気付いた。……念のため聞いておきたいんだが、そんなに何度も?」

「「「何度も」」」


 全員に頷かれては認めるしかなかった。


 そんなにか。そんなにやっていたのか。

 今の今まで一度も気付けなかった自分の間抜け具合には呆れるしかない。


「知らない内に癖になっていたか……そういうことならできるだけ気を付ける」


 連絡は通じないと頭で理解していながらこれか。

 以前指摘されたことはないから間違いなくこの世界で目を覚ました後の癖だろう。


「――それより今は、覗き見をしている人物にご登場願おうか」


 今更逃げられるとでも思っているのか。馬鹿め。


「あ、足が……!?」

「悪いが逃げられないよう《凍結》を使わせてもらった。何、心配しなくても命に関わるようなことは――」

「風よ切り裂け! 《ウィンド》!」


 慌てながら無理矢理撃とうとするから。


 男の左手から飛び出した風の刃はお世辞にも強力なものとは言えなかった。

 少し魔力をぶつけてやるだけで簡単に打ち消されてしまう程度のもの。


「……いきなり捕まえたことは謝るが、何もいきなり頭を狙うことはないだろう?」

「そんな……!」


 完全に狙っていた。目くらましなら発光魔法を使うべきだろうに。


「あ、アイシャいませんよね? 大丈夫ですよね?」

「さすがに警戒し過ぎだ。さっきいた辺りに――」


 ……あいつの気配? どうなっているんだ。


 調べるまで気付かなかった。

 引き返す気配はない。こちらの状況を概ね把握しているからだろう。


「辺りになんなのよ。何かあったわけ? 怖いからそこで止めないでよ」

「いや、すまない。勘違いだった。話を戻そう。……あなたは何故こんなところに?」

「……俺がどこにいたって俺の勝手だろ」


 まあいい。今はこちらが先だ。

 簡単に答えてくれない事くらい分かっている。


「確かに。ですが、俺達は覗き見された側でもあるんですよ。説明を求めるのも俺達の勝手です」

「じゃあ答えないのも俺の勝手ってわけだ」

「否定はしません。あなたがいつまでも黙っていられるのなら、の話ですが」

「……なんだって?」


 何も無理矢理喋らせようというわけじゃない。

 そんな事をしても意味がない。やるつもりもない。


「ちょっと、やめなさいよ? あんたまた……」

「さすがにそこまで強引な手段はとらない。さっきポケットから落ちた見慣れない硬貨のことについて少しばかり聞かせてもらうだけだ」

「っ……!」

「睨んでも変わりませんよ。ほら、ここに」


 無理矢理止められてしまったせいだろう。

 管理が杜撰なのか、わざとなのか。


「……母国の硬貨持ってちゃ悪いのかよ。冒険者は荒事も多いから御守代わりにするんだぜ? あんた出たことないのか?」

「――だ、そうですが……彼の出身はどうなっているんですか? イースさん」

「駄目だから。さすがにそれ答えたらおやっさんにどやされるから。流れに乗って思わず答えそうになるから止めて」


 残念。


 ジャケットも鞘もバックパックも不審なところはない。

 紙は黒に近い青。目の色も同じ。左手に――……


「黙ってられるならとか言って、結局それだけなのかよ。なあもういいだろ? 今回は大目に見てやるからさっさと外せって」

「…………」

「我慢比べか? やってみろよ。これだけ証人がいるんだ。衛兵所に行ったら負けるのはそっちだぜ?」


 確かにその通り。

 このまま、何の変化もなければそうなる可能性の方が高い。


「なあキリハ。今回はあっちの言い分が正しいって。こんなことしてたらさすがに……」

「ほら、友達もこう言ってる。いいのか? そうやって続けてもあんたの方が――」


「あなた、本当はトレス出身ですよね?」


「……は?」


 こんなところで役に立つとは。

 ほんのちょっとした興味本位で聞いただけだったのに。


「左手ですよ。左手。その色と模様、なんでもトレスに古くから伝わっている特別なものだとか」


 幾つものひし形を組み合わせたような、不思議な形状。

 重なり合った部分がまた新たにひし形を成す。


「より正確に言えば、『今トレスがある場所にあった街』に伝わっていたもの。大きな集落だったと聞いています。……ユッカも覚えているだろう?」

「はい? そんな話どこで……」

「ほら、あのお菓子をもらったお店で」

「…………あぁっ!?」


 思い出してくれたようで何より。


 実際、町の歴史なんて所謂冒険者――魔物狩りや採取を生業にする人々――には縁のないものだろう。

 話を聞かせてくれたあの人もそう言っていた。冒険者で聞いてきたのは俺が初めてだと。


 歴史学者であればそれこそ優先的に調べてもおかしくないものだが、無理もない。


「そして、ごく僅かに残った当時の末裔だけは今でもそのタトゥーを入れることを許されている。……そうですよね?」

「し、知るかよそんなの。たまたま似てたってだけだろ」

「それがあり得ないことは他でもないあなたが一番よく知っている筈ですが」


 当時の町のシンボルをかたどった物。

 形状を正確に受け継いでいるのはごく僅か。それも当時の文書をそのまま保管しているといったものばかり。


 あの店では店の一角、過剰な主張をしない位置に眠らされていた。

 お洒落な香料に隠れていた程だ。あまり積極的に主張するものではないという認識なのだろう。


 タトゥーを掘れるのはただ一軒。その家の人物で、かつ技術を受け継いでいなければあり得ない。

 魔法的な技術も必要になるらしい。実際、紋様に沿って本人のそれとはやや異なる魔力が巡っていた。


 トレスに住む上で早い段階で教わることだとも言っていた。

 他所の冒険者が真似をしようと頼んでも断られるだけだとも。


 正確に写しを取っているのなら形だけは再現できるだろうが、魔法的な部分ばかりはどうにもならない。

 あの店に行って確かめてもらえばすぐに分かるだろう。

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