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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
IV ストラの祭日
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第86話 追い詰められた気分

「……そのままにして来たのか? そんな状況を……?」


 誇張抜きに、命からがらといった様子で逃げてきたユッカ達。

 話を聞いただけでも軽く目眩がした。


 アイシャの過剰な反応は勿論、サーシャさんに至っては……


 本当に大丈夫なんだろうか。あの人は。

 一度他のメンバーとも話をしてみたい。


「だってしょうがないじゃないですか! あんなの止められるわけないですよっ!」

「文句言うなら止めて来いってんですよ。キリハ一人で」


 無茶をおっしゃる。


 どうにかできるとしたら唯一、眠らせるくらいのもの。

 それもほぼ間違いなくサーシャさんには効かないだろう。


「しかも俺が[ラジア・ノスト]のリーダー相手にだなんて……比較対象にすらならないだろう」

「でも力を取り戻し切れないって言ってたじゃんか。そのせいだろ」

「どうやら、その話も嘘ではないようだが」

「そうは言っても限度がある」


 相手の実力も分からない。

 それでも[ラジア・ノスト]最強となれば桁外れどころでは済まないだろう。


 少なくともあのエキシビションマッチで振るわれていた力は全力にほど遠いものだった。


 まして、かつて使ったのは身体を一切考慮しないものばかり。

 争う理由もない。


「それだけアイシャちゃんにとっては絶対的だったんじゃないかなぁ?」


 アイシャには悪いが、サーシャさんの言い分を通した方が問題も少ない。

 実際、勝てるという確証はなかった。


「一応警備隊の人には知らせたから。ほら、あんた達がよく話してる人」

「ガルムさんに? ……あとで衛兵所に差し入れでも持って行くか。収まればいいが」

「あたしもやるわ。自慢じゃないけど、ちょっと自信あるのよね」

「だったらわたしも――」

「あんたはやめなさい!!」


 何故そこまで。


 突然の大声。

 リィルの目を見ればそれが冗談の類いでないことくらいは分かる。


 特徴的な味付けでもするんだろうか。

 極端な辛党でも甘党でもなかった筈だ。そもそもそんな極端な料理を口にする機会がない。


「わ、わたしだってちょっとくらいうまくなってますよ! いつまでも前と同じなんて思わないでくださいっ!」

「へぇそう? じゃあ見せてみなさいよ。明日」

「あ、明日はちょっと……やっぱりバスフェーの途中ですし」


 とはいえこの反応を見るに、あながち嘘でもないのだろう。


 他でもないリィルがそう言っているのだから間違いない。

 何年もいっしょに育ってきた幼馴染なのだから。


 しかし妙な話だ。

 最低限指示に従って作っていれば食べられないものができるなんてことはないだろうに。

 包丁の握り方すら危うい場合は除く。


「その話はまた今度にしてくれ。材料を今から集めるよりできた物を買った方が確実だ」

「大丈夫なんですか。お金」

「無駄遣いしなければどうにでも。バスフェー前の依頼単価も高かったからそれなりに余裕はある」

「あんたがここであってた人の分を買っても?」

「……確かに会っていたのは事実だが、何故?」


 そこまで話した覚えはない。絶対にない。


 だというのに、一体どうやって。

 カマをかけたというわけでもなさそうだった。

 あの射貫くような目。あれは確信を持った者の目だ。


 ユッカ達の気配が近付いたからとすぐさま緊急離脱し(逃げ帰っ)たイリアの姿を見ている筈がない。

 確かにわざとギリギリまで粘っていたが、そんなヘマをやらかすようなやつでもない。


「あそこの紙。あれあんたのじゃないでしょ?」

「さっき持ってたお菓子もなくなってる、です」

「そもそもこんな場所にひとりでいるのがおかしいんですよ。他の町で迷ったならまだ分かりますけど」


 ……探偵に追い詰められている犯人の気分だった。


 俺か。俺のせいだったのか。

 あのクッキーのようなお菓子を買ったのはユッカ達の前だったが、そこまで見ていたというのか。


 確かにイリアの言う通りだった。

 あの状況でレキュアトを一つ余分に買っていたら確実に疑われていた。

 断言してもいい。


「こっわぁ……なんかいつもより細かくね。怖っ」

「そんなこと、オレに分かるか」


 外野の助けも期待できない。

 二人も割り込むに割り込めない。


「別にあんたがいつどこで誰と会ってても勝手だけど……今日は一緒に回る予定だったんだし、ちょっとくらい話してくれてもよかったんじゃないの? ねぇ」

「なんだったんですか。また勧誘ですか?」

「いや、あの時は、オレが――もがっ!?」

「焼かれたくなかったらトーリャ君は黙ってようねー。さ、さ、続きをどうぞ?」

「レアム楽しんでないよな? な??」


 何故だ。何故止めた。

 しかし今そちらを問い詰めるだけの余裕はどこにもない。

 何せ今問い詰められているのは俺の方なのだから。


「勧誘じゃない。断じて違う。少し個人的な知り合いと会って話をしただけだ。あまり人前に出たがらない変わり者だったから、この場所で」

「……故郷の知り合い? じゃあ……」

「この前の占い師じゃない。あの時のことを思い出せばわかるだろう? そういう性格ではないことは」

「だと思ったわよ。散っ々変な絡み方されたし」


 数分前に知りたくもない共通点を知らされたが、基本的には何もかもが違っている。

 俺も最初は疑った。こうも違うものなのかと。


「その人には会わないのに、どうして、ですか?」

「言っただろう? 向こうが会おうとしないからだと。さっきまでここにいたのはそういう意味でも真逆なやつだ」


 今はメッセージも何も送り付けていないというだけで。


 だが以前の発言は撤回しなければならない。

 問題は、本気で逃げるつもりのあいつをどうやって捕らえるか。


「冒険者になった後も何度か会ったくらいだ。だがまさか今日いきなり顔を見せるとは思――」

「「はぁ!!?」」

「――わな、かったんだが……」


 やらかした。


 そう思った時にはもう何もかもが手遅れだった。


「あはは、ドジだなぁー」

「マヌケって言うんですあーいうのは」

「いやそれどっちも大して変わってないって。え、なんでこんな楽しそうなんだよこの二人」

「オレにも、分からない」


 好き勝手言ってくれる外野にも言い返している場合ではない。

 まさかここまで大きな反応が返ってくるとは……


「なんですか、なんなんですかそれ! どうして言ってくれなかったんですか!」

「だ、だから言っただろう? あまり人前に出たがらないから――」

「だったらどうしてあんたはそんな人と仲いいのよ」


 説明しようにも俺にとっての魔戦のほぼ全てが関わって来る。

 そんなものを話している場合ではない。その余裕がない。


「しかも故郷の頃の知り合いよね? わざわざ追いかけて来たってこと?」

「転移が使えるからおそらくそれを悪――利用しているだけであって、別にわざわざ俺を追いかけてきてこちらに居を構えたというわけではなくてだな……」


 何故こんな言い訳めいた説明をひたすらに続けなければならないのだろうか。

 浮気でもあるまいし。


「どうしてあんたの知り合いはそんな人ばっかりなのよ! この前の占い屋だってそうだったじゃない!」

「違うそうじゃない。それができる例外ばかりがこちらに出向いているだけだ」

「会うために使うだけでも相当、です」


 否定はしない。実際その通りだろう。

 ……そろそろ思考回路がオーバーヒートしそうだ。


「何よ。なんなのよ! あんた言ってたわよね? 頼るつもりはないって。しばらく会えそうにもないって!!」

「こちらにいないとは言ったがそこまでは――」

「ものすごく遠いって言うからそう思うに決まってるでしょうが!!」


 返す言葉もなかった。

 下手に誤魔化そうと思うからこうなる。


「うーん、これは困った。困ったよ。喧嘩を避けようと思った結果が修羅場だなんて……」

「なぁレアム。オレ、レアムにもほんのちょっとだけ原因あると思うんだけど」

「気が合うね、レイス君。私もだよ?」

「罪悪感とかないのかよお前さぁ!!?」

「どーするですかこの惨状。なんとかしてきやがれですよ、トーリャ」

「無茶を、言うな。ああなったら、どうにもならない」

「ビビってんじゃねーですよこの腰抜け」

「なら、お前がやれ!!」


 ああもう。どうしてそっちまで。


 右を見ればかのキツネのような目のればリィル。

 左を見頬をリスの様に膨らませたユッカ。

 正面にはマユの不思議そうな顔。


 詰んだ。

 八方塞がり。四面楚歌。


 そんな俺達を一斉に黙らせたのは、門の側から聞こえてきた若い男の叫び声だった。

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