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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
IV ストラの祭日
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第77話 スカウト

「どうしたのって、それはこっちのセリフ。あんたこそこんな朝早くからどこいってたのよ」

「ああ、こちらのサーシャさんと少し。結局期待していたような成果は得られなかったが」

「どうも初めまして。フルトのリィルです。…………で、誰よ?」


 ――こいつまさかまた女の子と知り合って……?


 目が語っていた。

 誰を派遣するか決めたのは[ラジア・ノスト]である以上、俺にどうにかできる問題ではない。

 まして……


「ストラのキリハさん。あなた方は普段どういう活動をされているんですか? 四級と言えど私達の名前が分からないということはない筈ですけど?」

「これは失敬。[ラジア・ノスト]の、と付け加えておくべきでした」

「そうなの? [ラジア・ノスト]の………………はぁあああああっ!?」


 驚くのも無理はない。

 最初は俺も耳を疑った。おそらくリィルとはまた別の理由で。


 サーシャさんもそんな文句を言うことでもないだろうに。

 サーシャという名前もさほど珍しいわけではいだろう。

 昨夜と何も変わっていない。……大丈夫なんだろうか、この人。






「……いいですよ? 名乗ってあげます。えぇ、名乗ってあげますとも!」


 どういうわけか随分と苛立っているようだった。

 綺麗なベージュの髪を乱暴にかき上げたその人に、若葉のような明るい緑の瞳で睨まれる。


「私はサーシャ・ロクアニク・ソーアリッジ! [ラジア・ノスト]のサーシャですよ! ここまで言えばいくらあなたでも分かりますよね!?」


 なんと。


 あんな特徴的な組織の名前を短期間で忘れる筈がない。

 前人未到の地にも赴くとびっきりの実力者集団。

 まさか本当に[ラジア・ノスト]のメンバーが来ていたとは。


「その節はお世話になりました。エルナレイさんに聞きましたよ。正攻法で最下層手前まで辿り着いておられたとか」

「当然です、と言いたいところですがあの任務には参加していません。減点四です」

「減点、と言いますと? 何のための評価ですか?」

「貴方が我々の組織に相応しいかどうかですよ? 他になにがあると思ってたんですか?」


 我々の。つまり[ラジア・ノスト]の。

 その意味が分からない程馬鹿ではない。

 それでもすぐには信じられなかった。正気か。


「……マジか」

「びっくり、です」


 育成枠と考えても妙な話だ。

 それこそ募集をかけてやるだけで大勢集まるだろう。

 将来有望な人材含め、よりどりみどり。一人ひとり声をかける方が手間のように思えてくる。


「先ほども言った通り、あなたを迎え入れる用意があります。少なくとも姉さま――リーダーはそのつもりのようです」


 よりにもよって。

 エルナレイさんが話を聞かれたのもおそらくそういう理由。

 あの人からの評価で自身の直感ないし判断を確かめるために。


(……ああいや、違うか。逆か)


 エルナレイさんが一目置いている――あの状況をそう捉えられてもおかしくはない――と判断したからこそ唾をつけに来たのか。


「あ、そういう。それでキリハのあれこれ確かめるためにサーシャちゃんが派遣されたってーわけね」

「そんな気やすい呼び方は止めてください。友人でもなんでもないでしょう」

「そりゃすみませんね」


 本気度は分からない。スカウト役を見れば猶更。

 もう少し円滑に話を進められる相手はいなかったのだろうか。

 余計な一言を意図的に付け加えた俺相手にだけというならまだともかく。


「つまり、お断りすれば先日のような方法で試されなくなると? でしたら今この場で辞退したいのですが。[ラジア・ノスト]での活動についていけるとは思えません」


 事件が起きている以上、まさかあんな馬鹿な方法を選ぶとは思えないが一度やられただけでも懸念は残る。

 何故あんな方法を選んだのか未だにさっぱり分からない。


「それを判断するのはあなたではありませんが概ね同意です。能力の伸びしろはともかく、協調性に難があるようでは話になりませんよ」

「待ってください。そんなことないですよ。キリハ君、こっちに来てから――」

「大丈夫です、ルークさん。これまでの独断専行の情報を集めた上での判断でしょうし」


 例えば、ライザが魔物を呼び寄せた時。

 あの場はアイシャが魔物の群れの方に向かうと言ってくれたおかげでああいった形に収める事ができた。


 他の案件も何かしらの形で誰かが手を貸してくれた。

 問題はその前段階。状況的にそれが最善だったかどうかの判断も人によって差が出てくるところだろう。


「何より、万一基準を満たしたところで受けるつもりは微塵もありませんから」

「っ、へぇ……?」


 活動方針に疑問があるわけではない。

 ストラに戻れないということもないだろう。が、少なくとも今は駄目だ。

 いくらなんでも時間が経てば[ラジア・ノスト]の関心も失せるだろう。


「キリハ君……」

「こんなところで嘘を言ったってお互いが損をするだけですよ。この町へ来られた時点で一言言ってくださればすぐにお伝えすることも出来たのですが」


 アイシャの体質やマユが会う筈だった管理役。

 各地を転々としていけば手掛かりを探すこともできるだろう。

 しかし仮に見つかったとして、その時相手が傍にいなければ意味がない。


「決闘をお望みでしたらどうぞ果たし状でも何でも用意してください。選りすぐりのメンバーで相手をして差し上げますよ」

「自分は戦わない、ですか?」

「私は後方支援担当なんです。まあ、それまであなたの能力を調べるくらいの事はするつもりですが」


 よく言えば慎重。警戒心が強い。石橋を叩いて渡るタイプ。

 そこまでしなくたって[ラジア・ノスト]の対人担当が集まればいくらでもやりようはあるだろうに。

 そもそも。


「気になるようでしたら確かめればいいでしょう。お手持ちの魔道具で」

「……見せた覚え、ないんですけど?」

「ああも頻繁に探りを入れられたら嫌でも気付きますよ」


 経験も何もかもが不足していて、感覚も鈍かった頃ならまだともかく。

 気付けない筈はない。能力抑制とは無関係の問題だ。ルークさん達も気付いているだろう。


 別に魔道具という確証があったわけではない。

 本人の魔力とは別に妙な反応があったからそう言っただけのこと。


「なんです? やっぱり気になるんですか? 今更そんなアピールをしても点数稼ぎにはなりませんよ」

「いえ、そちらに関しては欠片も気にしていません。ゼロで確定しようとマイナスになろうとサーシャさんがそう判断されたのならそれが全てでしょう」

「……潔さのアピールですか?」

「まさか。どんな結果になろうと構わないというだけの話です。あの[ラジア・ノスト]がこんな田舎町の一冒険者を相手に躍起になるとは思えませんし」






「ちょっ、ばっ……! あんた何やってんのよ!? [ラジア・ノスト]のこと忘れたわけじゃないでしょ!?」

「忘れるわけがないだろう。……あんなことをされたら余計に」

「あ、あんなこと?」


 そう言えばまだリィルには直接言っていないんだったか。


「またその話ですかストラのキリハさん。しつこい男は嫌われますよ」

「巻き込まれたのが俺一人だったなら二度も文句なんて言いません」

「……どうだか」


 平然と流せるわけがないだろう。

 チーム内での助け合いなど不要、などという主義なら知らない。


「(なんでこんなに険悪な雰囲気になってるのよ! なにがあったわけ?)」

「(トレスでユッカと妙な結界に閉じ込められた話はしただろう? あの犯人がこの人だった)」

「(…………は?)」

「(上から特に方法の指示はされていなかったらしい。そのくせあの態度だ。ニコニコ顔で接しろと言われてもさすがに限度がある)」

「(あんたそんな顔しないでしょ普段から)」


 ……それを言われると痛い。

 そんな表情を見せたら怖がらせてしまうか、頭の心配をされるか。よくてそのどちらかだろう。


「(って、そうじゃなくて。今の話ほんとなの? なんでそんな……)」

「実力を試すためですよ」


 そこでわざわざ割り込むか。


「何も目の前でコソコソ話なんかしなくていいですよね? やましいことがなければ、ですけど」

「誰も彼もが開き直れるわけではありませんから」

「やたらと挑発が飛び出るその口、そろそろ縫ってあげましょうか? 裁縫、得意なんですよ」

「周囲へ攻撃的過ぎるのもいかがなものかと。その辺り、トップからの指示はなかったんですか?」

「……減点二〇」


 とうとう二桁か。

 俺が聞いた限りでも最大。


「どうぞご自由に。その件は昨夜お断りしたじゃありませんか」

「違います。姉さまへの不敬罪です。最悪です。本音を言えば千点くらい引きたいところですけど」

「めちゃくちゃじゃないの!」


 やはり受けなくて正解だった。

 この人の下で働いたらふとした拍子に何を言われるか――


「《凍結》。……ち、逃げられた」

「あんたはあんたで何やってるのよ。いきなり町中で魔法使ったりして。また評価下がるんじゃないの?」

「そこじゃありませんよ。減点要素は逃がしてしまった点のみです。もっとも――」

「ええ、おそらく氷ごと逃げていたかと」


 また転移の能力か。

 しかも現れたのは《凍結》を放つ二秒前。


 標的の周囲に予想外の相手がいて、結果逃げるしかなかった。

 概ねそんなところだろう。


 問題は、それが誰なのかということだ。

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