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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
IV ストラの祭日
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第76話 正体不明の

(好き、って……)


 あたしが? あいつのことを?


「いやいやいや……」


 ないでしょ。ないわよいくらなんでも。


(別に、嫌いってわけじゃないけど……)


 困るくらい頼りになるし。

 なんだかんだ言って優しいところもあるし。

 顔もまあそんなに悪いってほどじゃないっていうか、むしろ――


「――ってそうじゃないでしょ!」


 馬鹿じゃないの? 馬鹿じゃないの!?

 ま、まるでほんとにあたしがそう思ってるみたいじゃない!!


 あたしはただあいつが心配なだけで――


「あ、おねーさん。そこで百面相して奇怪なダンス踊ってるおねーさんちょっとストップしてください。……いや首傾げなくていいですから。ちゃぁんと周り見てください? 他に誰もいないですよー?」


 気のせい? なんか今酷いこと言われた気がするんだけど。


 声がした方を見たら、いた。

 ちょっと古そうな木の机と椅子。言われるまで全然気づかなかった。


 壁の側に座ってるのは……誰? 顔まで隠さなきゃいけないわけ?

 それに今の声、なんかどっかで聞いたような……

 思い出せないけど絶対どこかで聞いた声。


「な、なによ? というか誰?」

「怪しい者ではありませんよー。何せ最近やーっとここでお店を開けた正体不明の駆け出し占い師なだけですからね」

「う、占い? こんなところで?」


 怪しいんだけど。怪しすぎるんだけど。

 何よ正体不明って。顔隠してるだけじゃないの。


(他にお客さんもいないみたいだし……ほんとなんなのこの人?)


 アイシャ――に聞きたくても今は一緒じゃないから……でもこんな人、昨日はいなかった筈よね?

 普段は使わないけどそれこそ昨日、アイシャに教えてもらった近道なのに。


「あ、待って待って。怪しいのは分かりますけどちょっと待ちましょう? お安くしときますよ?」

「いいわよ別に。そんなことに使えるお金なんてほとんどないし」


 この前の報酬は貰ったけど、あんなの使えるわけないじゃない。

 魔物の相手はほとんどあいつかエルナレイさんがやってたし。

 あとでいつお金が必要になるかも分かんないし。


 ……それに、前みたいに騙されたら嫌だし。


「心配しなくても胡散臭い開運アイテムなんて売りつけませんよぅ。あ、いっそお代はなしにしときましょうか?」

「……なんで知ってるわけ?」

「えぇ? なんのことですかぁ? 私なんのことだかさっぱり分かんないですけどー」


 あ、怪しい……知ってなきゃ言えないでしょあんなこと。


「まさかあいつの知り合い? 会ってないの? 全然そんな話聞いてないんだけど」

「あいつって誰のことです? もしかしておねーさんがさっきからずぅっと頭の中に思い浮かべてる人のことだったりしますかね?」

「は、はぁ!? そんなのじゃないわよ!!」


 ちょっと考えはしたけどそれだけでそこまで言われる筋合いないわよ!


「必死になって否定してもガチっぽさが増すだけですよー。あと、睨んでも何も変わりませんからね?」

「っくぅううううう…………!」


 ほんと分かんない。言ってることも全部。

 いきなり話しかけてきて、わけの分かんないこと言ってきて。


 なんか考えてることとか全部見通してるみたい。……それでも、あいつとは全然違うけど。


「だ、大体なんなのよ無料って! そんな簡単に値段変えて言いわけ? それでいい加減なこと言われても嫌なんだけど」

「わー露骨な話題逸らし。ここまで誤魔化すの下手な人は久し振りですよ私も。まーでもそーゆーリアクションでグイグイ行けば案外いいとこ行けるんじゃないですかね?」

「だからなんの話よ!? まずこっちの質問に応えなさいってば!」


 なんなのよこの人……! ほんとになんなのよ!?


「仕方ないですねぇー……開業サービスですよ開業サービス。誰もお客さんいないですから。ぶっちゃけ、暇なんです♪」

「あたしはあんたの友達でもなんでもないんだけど!!?」


 やめた。やっぱり帰ろ。

 こんな怪しい人なんかと喋ってたって分かったらまたユッカにもからかわれそう。


「おーすごい声。よかったですねー私がそういうの得意で。素通りさせたら今頃大騒ぎでしたよ?」

「じゃあ何よ。あんたが魔法でも使って音を閉じ込めてくれたっていうわけ?」

「んー……分かりやすく言えば?」


 誰もいないからでしょどうせ。

 そんな便利な魔法あいつだって――……なんか使ってたかもしれないけど。


「それで、どうします? 絵のモデルのために着せられた恥ずかしいかっこを見せてもスカした感じなあの人をどう思ってるのかの相談、いっときます?」

「誰っ! 誰に聞いたの答えなさい! あそこにいた誰かでしょ! いいからさっさと答えなさい!!」

「だーかーらー、違いますってばー。そのくらいのコトならすぐすぐ見通せちゃうってだけの話です。この水晶、性能だけはいっちょ前ですからねー」

「嘘おっしゃいよ!」

「えぇー、信じられないんですか? さっきから嘘言ってませんよ?」

「だから余計に怪しいのよ!」


 まさか店主さん?

 でもあの人はこんな声じゃなかったから多分違う。

 何が違うのか分からないけど、絶対別人。


「大体そんな魔道具、聞いたことないんだけど?」

「さぁ? 私も偶然もらっただけなんで。えーっと、相手の考えていることをぼやぁっと映し出すとかなんとか?」

「なんで使ってるあんたが分かってないのよ!?」

「貰い物だからですよ。話はちゃんと聞きましょうねー?」


 そうだけど、そうだけど! あぁもうムカつく! なんなのよさっきから!


「で、えーっと……なんでしたっけ。あ、自分の気持ちが恋かどうか?」

「怒っていい? ねぇ、さすがに怒っていいわよね? さっきからなんのつもりよ人の考えてること次から次へと口にして!!」

「あ、やっと認めた」

「ぃっ!?」


 もしかしなくても乗せられた!? こんな態度の人に!?


「ち、違っ……そういうわけじゃなくて!」

「いいですよぅ誤魔化さなくって。いやー、甘酸っぱいですねぇ。青春ですねぇ。私には眩しくて直視できません。その純粋さが羨ましいっ」

「あ・ん・た・ね・え……!」

「今のは本心ですよ? 褒めてますよ? いいじゃないですかそうやって悩めば。若者の特権ってやつです」

「……あんたもそんな大人ってわけじゃないでしょ」


 いろんな意味で。


「これでもおねーさんより長生きですよー。わけあって身体的な変化がほとんどないんですけどね」

「っていうと……エルフ?」

「残念、外れです。考えた結果なんでしょうけどちょっと安直でしたね」


 じゃあなんなのよ。

 なんて、どうせそんなの聞いても答えてくれるわけないわよね。さっきからずっと肝心なところははぐらかされてばっかりだし。


「私の正体なんてどぉーでもいいんですよそんなの。今はおねーさんの話です。茶化さないんで真面目に答えてくださいね? ……気になってる人、いますよね?」

「……いるわよ」

「で、その人をどう思ってるか分からないと」

「知ってるんでしょ。その水晶で」

「確認です確認。確かめようと思ったらテンプレ的なものから色々ありますけどー……やっぱりそこは自分で考えた方がいいんじゃないです?」


 ……急にそんな雰囲気変えないでよ。

 最初からそうしてくれてばよかったじゃない。


「まぁ、一つだけアドバイスさせてもらうとしたら……あんまり周りに遠慮しない方がいいですよ? どんな手を使ってでも蹴落とせとは言いませんけどね」

「え、遠慮?」

「まーそっちはそのうち分かりますよ。嫌でも」


 ……やっぱり意味わかんない。

 別に遠慮とか、そんなの全然……


「――うっわぁ……あの人またそんな……いいですけどね別に……懲りないなーほんと」


 ……うん?


「あの人って? あたし見てたんじゃなかったの?」

「はへ? 何のことです?」


 答える気はないってわけね。……そんなことだと思ったわよ。


「とまぁ私がタックルして派手に脱線させまくりましたけど、そーゆーのは他の人から答え貰っても仕方ない部分ありますから」

「……結局さっきまでの話、意味あったわけ?」

「全く知らない相手だからこそ吐き出せる感情もあるんですよー。とゆーわけで、はいこれ、どうぞっ」

「こ、今度は何よ?」


 差し出された綺麗な手。中には――……何よこれ。


「ちょっとあんた、これ羽根よね? 一体どこからこんなもの――……え?」


 振り向いたときにはもう、その人の姿はどこにもなかった。


 机も椅子も、何もかも。まるで最初からそこになかったみたいに、きれいさっぱりなくなってた。


「――ああ、やっぱり。どうしたんだ? こんなところで」


 代わりにあいつが、キリハがすぐそこまで来てた。






「――ギリギリセーフ……」


 ちょっと長居しすぎましたかね。


(……結果的に逃げられたんでよしとしときましょうか)


 気づかれてもノープロブレム。

 直接顔を合わせさえしなかったらオールオッケーです。


 安心はしましたよ。元気そうで。


「……まぁ、あの子に限らず苦労しそうですけど」


 ほんとああいうとこですよ。どうにかなりませんかねあの人。


「……ほんっと、不器用な生き方しちゃうんですから」


 分からないお馬鹿さんでもない筈なんですけどねぇ。


(……今度また勝手にぶっ倒れたりしたら、その時はもういよいよ知りませんからね?)


 なんて、そんな心配これっぽっちもしてませんけど。

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