第75話 そういえば、いつから?
(キリハ、大丈夫かな……?)
さっきも真剣な顔して出て行ったけど、走りに行くわけじゃないよね、きっと。
(昨日の夜だって遅かったみたいだし……)
私が寝た後に帰って来たってお母さんも言ってた。
ルークさんに会ってどんなこと話したんだろう……
先に約束してたみたいだし、やっぱり大事なこと?
(私と話したときはいつも通り、だったよね……?)
ちょっとくらい相談してくれてもいいのに。私にできることってないのかな?
その、あんまり役には立てないかもしれないけど――……あれ? 今誰かドア叩いた?
「アイシャ~? ちょっと出て来てくれる~?」
「あ、はーい」
誰だろ? こんな時間に。
キリハの魔力ならここからでもすぐ分かるようになったし、きっと他の人だよね?
「おはよ」
……へ?
「り、リィルちゃん? キリハなら今いないよ?」
「でしょうね。分かってるわよ。さっき会ったばっかりだし」
あれ、違った?
最近いっしょにいることが多いし、キリハのことを探しに来たと思ったのに。
そういえばいつからだったっけ?
会った頃はそこまでじゃなかったような……やっぱりこの前、迷宮に行ったあと?
キリハが夜中にこっそり魔法を使ってるところも見たって言ってたし、そのくらいからだよね?
キリハが困ってる人を助けようとするのはいつものことだけど、リィルちゃんはどうして……?
「用事って、リィルちゃんに会うことだったんだ?」
「あたしじゃなくてユッカにね。そうそう聞いてよ。あの子ったら朝練したいーってさっきまで駄々こねてたのよ? 結局キリハが寝かせてくれたけど、あいつがいなかったらどうなってたか……」
「ふふっ。リィルちゃんお母さんみたい」
「あんな大きな子供いないわよ、もうっ」
そういえばそんな魔法があるって言ってたっけ。
まさかライザさんを気絶させたときのじゃないよね?
「でもユッカちゃん、そんなに体調悪いの? 昨日は元気そうだったのに」
「全然。むしろ元気が有り余ってるくらいだったわ。まったく、もう少し大人しくしてくれたらいいのに」
「げ、元気なのはいいことだと思うよ?」
よかった、急に具合が悪くなったとかじゃなくて。
キリハが『協会にも話した』って言ってたけど、何もないならそれが一番だよね。
「……ちょっと元気なくらいだったらね」
「えっと、それって……」
「聞きたい?」
「い、今はいいかなって……あ、あははは……」
ユッカちゃんなにしたの……?
今のリィルちゃんの目、ちょっと怖かった。声も低かったし……
無理矢理外に行こうとしたとか? う、ちょっとありそう……
「えっと、よかったら上がっていって。ご飯はもう食べた?」
「ユッカに持って行くついでにね。食欲もちゃんとあるみたい」
「あ、そっか……ユッカちゃんが寝たまま一人に……ご、ごめんね? 忙しかったらそのまま戻っても――」
「そっちも大丈夫だから気にしないで。イルエとレアムが来てくれたし」
明日は私も行った方がいいのかな?
昨日はあんまりお話しできなかったし、一人じゃ寂しいよね。きっと。
「よかった。それなら安し――……待って? じゃあ、キリハは?」
「分かんないわよ。どうせまた昨日みたいにコソコソ誰かに隠れて会ってるんじゃない?」
「ま、まあまあ……そんなに怒らなくても……」
「怒ってないわよ。別に」
あ、今のちょっとこの前のキリハに似てるかも。
怒られるかもって思ってたけど、ああいうのは初めてだったからびっくりした。
ライザさんとか、あの変な男の人とか、悪い人相手のときとは全然違った。
「そういうわけだからお邪魔させてもらうわね。ユッカのこと以外にも少し相談したいし」
「え……大事な話だよね? 私でいいの?」
「いいも何もないわよ。最初からアイシャに会いに来たんだから」
「わ、私?」
本当に?
「あいつのこと、あたしよりは詳しいでしょ? その辺りも聞いておきたくて。……隠れて何やってるか分かるかもしれないし」
「んー……ルークさんと会ってたことくらい? 他は何も知らないよ?」
「ルークさんに、ね……」
もしかしてマユちゃんに訊けばわかるのかな?
支部にいる時間が長いみたいだし、もしかしたら何か聞いてるかも。
(あ、でも……)
この前みたいになるかもしれないし、あちこち聞いたりしない方がいい……? うぅ、分かんない……
「でも、ルークさんなら大丈夫だと思うよ。協会の人だし、相談にも乗ってくれるし」
「いいの? あのリットって人もいっしょだと思うけど」
「ぁ――――」
「やばっ……!」
そう、いえば。
まさかまた何かするつもりじゃないよね?
あの人いきなり出てくるし、ちゃんとした説明もしてくれないし、普段なにをしてるのかも分からないし……
私達のこともどこかで見てるんじゃあ――
「お、落ち着きなさいってば! ルークさんがいるんだから大丈夫なんでしょ!? ユッカも言ってたわよ何か頼んでたって!」
「頼んでた? キリハが?」
「あ、いや、それは……!」
ユッカちゃんといっしょだったってことはトレスで?
それって、つまり――
「べべべ別に変なことじゃないから! 多分だけど! なんだったらユッカを起こして聞いてみる!?」
「……ううん、大丈夫」
「話してた内容くらい――……え、今なんて言った?」
「そこまでしなくても大丈夫。無理矢理起こしちゃったらユッカちゃんに悪いもん」
一回キリハの魔法で眠らされちゃったのにそんなことしたら可哀想。
「それにきっと、キリハのことだから気になることがあったんだと思うよ? あの人は怪しくないって思って頼んだんならきっと大丈夫だよ」
本当は分かってる。
あの時は誰かに頼まれたから。行った先で会ったのもきっとそう。
キリハと時々話してたっておじさん言ってたし、ライザさんみたいな悪い人じゃないと思う。
それに、もし何かあってもキリハが負けるなんて絶対ないもん。
いきなり攻撃してきたことだけは、まだ納得してないけど。
「……ほんと信頼してるのね。あいつのこと」
「うん、してる。リィルちゃんは違った?」
ユッカちゃんもマユちゃんも、他のみんなも。
「でも気にならない? こうやってあたし達にも内緒にして色々やってることとか」
「それは、その……ちょっとだけ」
「ちょっとじゃないでしょ。あんたも」
「ば、バレてた?」
「当たり前でしょ」
そんなに分かりやすかった……? も、もしかしてキリハも触れないようにしてくれてただけ!?
「アイシャあんたねぇ……」
「だってだって! キリハってば自分が大変になるような方法ばっかり考えるし、でも結局それでなんとかしちゃうし、自分のことになると一気に大雑把になんるんだよ!?」
いろんな人に頼られるようになるかもしれないし、それはいいけどキリハが休めなくなっちゃうかもしれないのに気にしてないし――!
「どんだけ溜め込んでたのよ。全部あいつに言っちゃえばいいじゃないの」
「……ううん、それはまだ駄目」
「は、まだ? なんで」
キリハも多分、まだ気付いてないけど。
「私が魔法下手なこと、リィルちゃんも知ってるよね?」
「下手っていう程じゃないでしょ。少なくとも今は」
「それはキリハが手伝ってくれてるからだよ。だから、今はまだ駄目なの」
「だからそれが分からないんだってば」
いいよね。リィルちゃんになら。
「今だってあんなに聞いてもらってるのにそれ以上なんてできない。だから……ちゃんとおかしなところがなんとかなって、魔法が使えるようになって――対等な関係になったって言えるようになるまでは駄目なの」
多分、すごく時間がかかること。
「キリハはそんなことないって言ってくれると思うけど、これは私が自分で決めたことだから」
手伝ってくれたのはキリハだけじゃない。今までも、これからも。
それでもやっぱり、あの日ああ言ってくれたのはキリハだったから。
「……そんなこと言って、誰かに取られちゃったらどうするのよ」
もしかしたらって思ってた。
「…………」
でも……うん、やっぱり。
「な、なによ。急に黙っちゃって。あたしの顔になにかついてる?」
「あ、ううん。そうじゃないよ? そうじゃなくて……」
やっぱり、言ってよかった。
「リィルちゃん、キリハのこと好きなんだよね?」
「………………ふぇっ!?!!?」




