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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
IV ストラの祭日
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第73話 提示された条件


「どうしてあたしがこんなの着なきゃいけないのよーっ!!?」


 頬を羞恥に染めたリィルの心からの絶叫が木霊した。


「あ、あははは……やっぱり……」


 ああ、去年の被害者はアイシャか。そういうことだったか。


 一言で纏めるのなら、メイド服。

 黒く丈の長いワンピースと白いエプロンの組み合わせ。何故こんな物があるのか全くと言っていいほど分からない。


「なんなのよこれ! あたし聞いてないんだけど!!」

「なに言ってるですか。けっこー様になってるですよリィル。そのままスカートの裾つまんでお辞儀とかしてみたらいいんじゃねーです?」

「や・ら・な・い・わ・よ!!」


 気持ちは分からないこともない。

 趣味として自宅で誰の目にも触れずにやるのならまだともかく……


「えぇー? 私もちょっと見てみたいな。レイス君達にはどこかに行ってもらうから」

「なんでだよ!?」

「そういう問題じゃないわよ!!」


 鬼か。

 まあ、今のレイスの反応にも言いたいことはあるが。


「なんでって、レイス君まさか見たいの? リィルちゃんこんなに恥ずかしがってるのに?」

「え、いや、それは……」

「そのくらいで。演劇をするわけじゃないんだからそこまでする必要はないだろう?」

「レアムちゃんも見たいって言ったのは同じだよね……」

「言い出したのは、イルエだがな」


 さすがにその時は辞退する。

 口が裂けても得意とは言えない。悲惨な光景が目に浮かぶようだった。


「それよりリィルちゃん、本当に大丈夫……? いやだったら私、変わるよ?」

「い、いいわよ。別に。あんただってそこまで着たいわけじゃないんでしょ」

「それはその、そうなんだけど……」


 店長さんが真っ先に選んだのが俺達二人だった。

 今着ている衣装も向こうの指定。ここからどんな着想を得たいのかさっぱり分からない。


「大丈夫大丈夫。二人ともばっちり似合ってるから。もっと自信もっていいよ?」

「店長はもう少し気にした方がいいと思うわよ~?」


 俺はまだいい。俺は。

 もうこんなことで騒ぐような歳でもない。

 この程度のことで分けてもらえるのならむしろありがたいくらいだ。


「なんでこんなことにぃ……!」

「リィル? 本当に嫌なら無理はしなくてもいいんじゃないか? どうしてもというなら俺も説得する」

「そうじゃなくて……そうじゃなくて!!」


 そんなに大事なことなのだろうか。


 しかしどうしたものか。

 いつものあの手で見た目を誤魔化すにしてもさすがに女性の顔になり切るのは――


「服が可愛すぎては、恥ずかしいのよ! 悪い!?」


 ……そうきたか。


 確かにフリルの着いたデザインは可愛いと言えば可愛い――と、思う。

 店長さんが言った通り、リィルに似合っているのも事実。


 しかしだからこそ、なのだろうか。

 その辺りの感覚が俺に分かる筈などない。


 ただ、普段よりスカートの丈が長かろうがそれでどうにかなる話でないことだけはなんとなく想像できた。


 なかなか部屋から出てこなかったのも頷ける。

 言われてみれば確かにそれらしい衣装が混じっていたような気がしなくもない。正直覚える気がなかった。


「(……あ、あんまり見ないでよね。ユッカみたいに可愛いなら別なんでしょうけど)」

「(了解した。ただ、店長さんではないがその服自体への抵抗がないなら自信をもっていいと思う。それとも頼んでドレス系に変えてもらおうか?)」


 この店主さんのことだ。言えばおそらく出て来るだろう。

 どこからそれだけの資金が出てくるのかさっぱりだがこの人のことはほとんど知らない。まあ何かがあるんだろう。


「(あたしにそんなのが似合うと思ってるの? ないわよ。絶対ない)」

「(そうか? どこかの国の見目麗しいお姫様と言っても普通に信じてもらえそうだが)」

「(……あんたからかってるんじゃないでしょうね?)」

「(いいや全く)」


 わざとらしい表現を使ってしまったのは若干あるかもしれない。

 そんな卑下するようなことでもないだろうに。


 だが、そういうことなら。


「店長さん。次はどうしましょうか? 折角こんな衣装を着させていただいているわけですし、俺でよければとことんお付き合いしますよ」

「フムフムそうだね……じゃ、これちょっと持ってみて? で、左手を耳に――そうそう、そんな感じ」


 絵画コンクール。

 感謝とどういう形で結びつけるのか知らないが、これもバスフェーの一環としていつからか開催されているとのことだった。


 アイナさんが働いている店の主もそれに出品するつもりらしい。

 つまるところ、条件とは絵のモデル。


 まだ描き始めたわけではない。

 何度か簡単に輪郭だけは取っていたようだがメモ以上のものではないだろう。


「なんであんたはそんな乗り気なのよ!?」

「露出が多いわけでもないし、このくらいなら。別に減るものでもない」


 ……まあ、さすがにコスプレすることになるとは夢にも思わなかったが。


 和服モドキや修道服ではない。

 どこかで似たような民族衣装の写真を覚えはあるのだが、具体的には全く思い出せなかった。

 今着ているこれもどう表現したらいいのか分からない。少なくともストラ近辺では一度も見たことのないものだ。


「かつらまでつけてくれて助かるわ~。そういうの、気にならないのね~?」

「何度か潜入のために変装した事がありましたから。もっとも、その時は魔力の量ですぐに気付かれてしまったんですけどね」


 小細工でどうにかなるものでもない。

 一時期は特に教団の尾行も酷かったから、ある程度のところで色々と諦めがついた。


 どうせすぐ剥がすことになるのにわざわざメイクしてもらうのも悪いというのも若干あったが。


「でも本当によかったんですか? こんな大役を俺なんかに任せてしまって」

「大袈裟だねえ。そんな深刻に捉えなくていいよ? それにどっちかって言うと……うん、けっこうアリだね」


 俺ごときで問題ないのならやはりリィルが気に病むことではないだろう。

 こんなモデルを頼まれた経験などある筈がない。店長さんの指示に従うばかりだった。

 頭に装着した金髪も含めて。


「黒髪のままでも悪くないんだけど衣装のイメージがなあ……というわけで、もうしばらくヨロシクっ」

「そういうことなら変えましょうか? 眼の色」

「……うん?」

「魔法でそういう風に見せるだけのものですけど、その方がイメージしやすいですよね?」


 黒目を脳内で青だか紫だかに変換するよりは、おそらく。


「ちょっとちょっと、そういうことは先に言ってよ。細かい調整とかいけたりする?」

「そのくらいなら簡単に。どういう感じにしましょうか?」


 カラコンでもあればこんなことをする必要もなかったんだろうが、今のところそれらしい品は一度も見ていない。

 半ばオーパーツと化している魔道具を作り上げた文明には存在していたのだろうか。


「ちょ、ちょっと待って? そんなことして本当に大丈夫なの? 目が悪くなったりとか……」

「別に危ないことをするわけじゃない。――っと……まあ、こんな具合に」

「そこの髪だけ赤くなってるよ!?」

「そう見せかけているだけだ。魔法を解けば――ほら、この通り。実際にその部分を染めたりするわけじゃない」


 極端な話、以前ユッカの前で魔物へ変身した時と何も変わらない。

 広義には幻影魔法に分類される筈。

 そんな手の込んだことをしてどうなるのか、なんて言われてしまいそうだ。


「軽いノリで人の魔法の概念を揺さぶるようなことしてくれるよねぇキリハ君。毎度毎度どこから引っ張り出してきてるんだか」

「暇人か変態でもいやがったですか。キリハの故郷には」


 酷い言われようだった。

 確かに実際の戦闘で使うようなものではない。ないのだが……


「で、結局、リィルはどうするですか? こいつはそのままやる気みてーですけど」

「そういうのはやる側になってから言おうねー。それよりキリハ君的にはどう? こんな形だけどある意味相方みたいなものでしょ?」

「いいわよ言わなくて。……そこまでしなくてもちゃんとやるから」


 ……おや。


「い、いいの?」

「仕方ないじゃない。もう着替えちゃったんだし」


 言われてみれば着替える前に気付いて――いや、止めておこう。誰が得をするわけでもない。


「……あんたも。あんなこと言ったんだから覚悟しなさいよね?」


 リィルもその気になってくれたのだから。

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