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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
IV ストラの祭日
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第71話 体力の限界

「なんですかあれ。なんなんですかあれ!!? なんでこんなところに魔物がいるんですか!」

「あれは魔物というより――」


 腕の中のユッカと共にもう三歩後ろへ。《魔斬》の勢いで更に退く。


「――誰かがそれらしい形に作り上げた魔法、といったところか」

「んなっ……」


 炎を吐き出すわけでもない。何か妙な力を行使するわけでもない。ユッカを地面に降ろす間も、全く。


 勿論魔力だけであんなものはできない。他にも随分色々と使われているようだった。


「ど……」


 それも、魔力の通りやすい材質。たとえば迷宮で影響を受けたような。

 魔法が当たり前のように存在しているこの世界だ。実際それらしいものはこれまで何度か見掛けた。

 もっと言えばこの前マユが見つけたアレのように――


「どこの誰ですかぁあああっ!! そんな迷惑なことしてくれたのは!!」


 ――無関係のことを気にしている場合ではなかった。


「それは俺も探っている最中、だっ!」


 二度目の《魔斬》も有効打とは呼べそうになかった。やはりサイブルの比ではない。

 だが、あの鎧のように完全に吸収しているわけでもない。やり方次第とはいえ十分対応可能な範囲。


「おかしいですよね。おかしいですよね! なに考えてるんですか常識ないんですか頭おかしいんじゃないですか!?」

「それを俺に言われてもさすがにどうしようもない」


 ユッカもいつになく頭に来たようだし時間を掛けない方がいいだろう。

 正直、叫び出すとは思わなかった。ちょっと怖い。


(とりあえず……)


 目の前の個体を仕留める。話はそれからだ。

 ユッカの怒りが少しでも収まってくれたらいいんだが。


「《魔力剣》――《万断》!」


 力を込めるのはほんの一瞬。


 迷宮の剣を左手に。

 握り潰すつもりで力を込め、《魔力剣》を叩きつけるように振り下ろす。


 真っ直ぐに伸びた斬撃。

 誰が呼び出したかも分からない獣脚類の首が落ち、そのまま本体も地面に崩れ落ちる。

 直撃だった。しかし。


「……またこうなるんですか」

「奇遇だな。俺も同じことを思っていた。数が少ないだけマシだろう」

「少ないですか、あれ?」


 全部で八匹。距離はまちまち。

 だが例外なくこちらを目指している。能力もおそらく同じ。


「中央のメッセージは……今度はなしか。なんて不親切な」

「いいじゃないですか別に。あんなのなくても。変なこと書かれてたらいやな気分になるだけですよ?」

「まだ指定された時間は経っていない筈なんだがな」


 走り出す試験管気取りの獣達。

 遅くはないが早くもない。


「……いいんですよ。そんなの、どうだって」


 むしろ心配なのは今にも我慢の限界を迎えそうなユッカの方。


「《駆ける風》!」


 かと思えば、ユッカの姿があっという間に遠ざかった。


 その姿は既に二〇メートル先。

 俺達から見て最も近くに位置する個体の足元。


「……よくもこんな場所に閉じ込めてくれましたね!!」


 その言葉と共に、足を五回。


 すぐさま飛び上がり、山なりに越えながら背中を三回。横腹を二回。


「――キリハさん伏せてください!!」


 割り込んで《魔斬》を下から叩き込むと、止めとばかりに短剣を遠慮なしに突き刺した。


 比較的皮膚が柔らかかったこと。《魔力剣》のまま《魔斬》を放ったこと。

 本来考えなければならない何もかもが纏まらない。


 仕留めた個体が地面に倒れる前に抜け出すと、やはり獣共の足は止まっていた。


「……さすがに今日はわたしもやりますよ。いいですよね」

「大丈夫だ。体力も残っていないのに無理はさせられない」

「わたしが大丈夫じゃないんです!! こんなことされて黙ってられるわけないじゃないですか。明日動けなくなったっていいですよもう!」

「だったらそうならないように俺も頑張らないとな」


 たかが八匹。余計な事さえ考えなければ問題なく片付けられる範囲だ。


 まさかこんなことのためにストラへの到着を遅らせるわけにはいかない。






「ちょっとちょっと何してるんですかあの女の子……」


 今はあなたの能力なんて見てないんですよ?

 何か飛び抜けた特技があるわけでもなさそうですし、平均の域を出ていません。


 このまま経験を積めばそれなりの冒険者として活躍できるでしょうけど、その程度の方に用はないんですから。


(……どちらにせよ、今回の結果は何の参考にもなりませんね)


 全く相手になっていません。


 氷を交えた雷の奔流。薙ぎ払うような炎。

 今の時点でどちらも十分通用するものです。これなら将来を期待してもいいでしょう。

 こんなことならもう少し上位のものを選ぶべきでした。


 そういえば頼んだ方の異変にも気付いていましたね。訂正。加点一。

 ですが武器を出し渋ったことを考えれば減点三。むしろマイナスです。

 持ち替えなければ使えないというのも冗談ではないのでしょう。


(あの剣の形をした魔法がそれだけ特別だとしても……あぁ、そういうことですか)


 魔力の消費を抑えるためですか。

 あの魔法、さほど燃費はよくないようですね。


 姉さまが聞いた限りでは常時展開していたそうですけど、なんて無駄なことを……

 まあ、自らの特異性を最大限活用していると言えないこともないですね。……補記しておきましょうか。






「……逃げられましたね」


 ユッカの声はいつになく恨みの籠ったものだった。


「どうせまだ顔を出すつもりはなかったんだろう。……あの時使ったのは失敗だったな。もう《小用鳥》の動きを読んだのか」

「そんなのどうでもいいんです。次会ったらそのまま警備隊まで連れていきましょうよ」


 証拠の一つでも残っていればよかったのだが。

 実際にはユッカが思うような展開にはならないだろう。


 昼に時々感じた視線が今は完全に消えている。つまりはそういうことだ。


「それより本当に平気なのか? かなり派手に動き回っていたが……」

「キリハさんは心配しすぎなんですっ。そんなことばっかり言ってるといつかリィルみたいになりますよ?」

「その表現はどうかと思う」


 まるで悪いことのように言わなくても。


 まして宿へ戻る話をしていた時は満身創痍の状態だったろうに……


「だっていつもそうじゃないですか。この前の迷宮とか」

「……こんな言い方はあまりしたくないが、さすがにまだあの騎士とは戦えないだろう?」

「だからいつも見てもらってるんじゃないですか。どうでした? わたしの戦い方」

「初速の速さと手数の多さ。それにあの跳躍力……どこから聞きたい?」


 特にあの《駆ける風》という魔法。

 俺が想像している通りなら決して調整も楽ではない。『速い』イメージの具現化とはわけが違う。


 一概にどちらが上とは言えないだろう。

 そもそもまだ《駆ける風》の全容を把握できていない。少なくとも単純な高速化というわけではなさそうだった。


「……んぅ……」


 何故だろう。答えがない。

 しかも今、寝息のような声が……


「……ユッカ? 聞こえているか?」

「――ぅえっ!? な、なんのことですか? 寝てないですよ!?」

「言ってない。まだそこまでは言っていない」


 相当寝ぼけていたらしい。あんなことにも気付けなかったなんて。


 移動距離。緊張感。

 先日の迷宮に比べたらまだ軽いかもしれないが、逆に仲間も少ない。単純な比較はできないだろう。


「幸い宿はすぐそこだ。ユッカが嫌でなければ部屋まで背負って行く」

「…………はい!?」

「本当はそこまで体力も残っていないんだろう? 仲間だろうと巻き込んでしまったのは変わらない。せめてこのくらいはさせてくれないか」

「い、いいですよそこまでしなくても! っていうか恥ずかしいんですけど!?」

「分かっている。だが、そんな調子では何かの拍子に転んで怪我をしてしまうかもしれない。ここは一つ俺の我儘と思って、どうだろうか?」

「ぅ……それは……そんなこと……ぅううう~~!!」


 今までそういう冒険者を見なかったわけではない。

 おそらくより深い関係だったとは思うが、最悪そういうことにして乗り切ればいい。


「……ちょっとだけ、ですよ? 宿までですからね? 絶対、絶対変なことしないでくださいよ?」

「ああ、勿論。信頼を裏切るような真似はしない」


 所謂お姫様抱っこの方がそう言った心配は減らせるかもしれない。

 だがそれでは逆にユッカへの精神ダメージが跳ね上がるだろう。

 さすがにその時は俺も当面トレスに近付かないようにする。


「さ、そういうことなら人の通りが少ない内に」

「……こんなことして、また兄妹とか言われませんよね」

「それなら声高に姉であると主張してみたらどうだろう?」


 逆に俺が弟だと強調してみるか。


「そういう問題じゃないですよ!?」

「分かっているとも。さすがに冗談だ」

「なら真面目な顔で言わないでくださいよ……分かりづらいんですからね?」


 ……まさか今のを真に受けるとは。

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