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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
IV ストラの祭日
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第70話 一休みする前に

 見慣れた町並みが飛ぶように遠ざかっていく。


 普段は聞くことのできない車内案内。

 ドアが開いて、車掌が切符の確認に回り出す。


 それはまるで、子供の頃、両親やお隣の一家と出掛けた小旅行のよう。


 しかし今、その人達の姿はどこにもなかった。

 最後車両まで移動しても『彼女』がいたホームはきっともう見えない。


 旅立ち。

 そう言えば聞こえはいいけど、実際にはほとんど家出みたいなものだった。


 冷静に考えてみれば俺が思いつくだけでもツッコミどころは山のようにある。

 でも、組織のメンバー以外誰も何も疑問に思っていなかった。


 邪魔に思われていたからというわけでもなく、そうさせられた。

 自分が持っている力のヤバさをこんな形で知りたくなんかなかった。


 多分、避ける手段が全くなかったなんてことはないと思う。

 あの人も今日までずっと頭を悩ませてた。最終的に決めたのは俺だ。


 崩壊した拠点のこと。

 これから襲ってくるかもしれない敵のこと。


 理由はいろいろあったけど、突き詰めていけばきっと全部言い訳で。

 そのくらいの自覚はあった。


(……それでも)


 他にどうしたらいいのか分からなかった。


 もっと強く、大きな自分になって、胸を張ってまたこの場所に戻れるようになりたくて――


「ん……」


「お、おい?」


 肩に寄りかかる柔らかい感触。


 たった一人の道づれは寝顔も変わらず綺麗だった。


(……そう、だよな)


 これは言い訳なんかじゃない。どんな敵が来たって、絶対に……






「さ、さっきので最後ですよね……? ね?」

「ああ勿論。ユッカもお疲れ様」

「なんで荷物運んでたキリハさんの方が元気なんですか……」

「それはお互い様――ではなさそうだな」


 この様子を見る限り。


 エネルギー残量五%といったところだろうか。

 あまり無理はしてほしくないと思っていたのだが、全く結果が伴っていない。


「こんなことならレイスさん達にでも手伝ってもらえばよかったですよほんと……手が、手がぁ……」

「まあまあ。今日はもう休むだけだろう? 厳しいようなら明日のトレーニングは休みにしてもいい」

「それはしないでくださいっ」


 これだけ疲れ切った表情をしてまだ言うか。

 ある程度こちらで調整した方がいいかもしれない。そもそも運搬の依頼を前にやり過ぎるわけにはいかなかった。


「やる気があるのは結構だが無理は禁物だぞ?」

「や、休めばなんとかなりますよ。休めば。汗も流したいですし早く行きましょうよ」

「同感だ。……えっと、公衆浴場は――」

「逆です逆。ちゃんとついて来てくださいね。どこで迷うか分からないんですから」


 これっぽっちも否定できない自分が恨めしい。

 ストラ内のおおよその位置取りは最近になってやっと把握できたほどだ。


 しかしトレスには以前の誘拐事件の後に数日滞在した程度。

 おぼろげながらも複雑な道のりを辿ったのを覚えている。


「あのー……」


 そちらにばかり意識を向けていたから、まさかこんなところで声をかけられるとは思ってもみなかった。


 ユッカと同じか少し下。怪しげな気配はない。

 変化の魔法の痕跡もなく、あの時俺を探っていた気配の主とは全く別の反応だった。

 普通に考えればトレスの住民だろう。


「いきなりすみません。冒険者の方ですよね? 少し見てもらいたいものがあるんですけど……ちょっと来てもらえませんか? 本当にすぐそこですから」

「生憎持ち合わせはありませんよ?」

「いえ、そうではなくて。実はちょっとおかしなものが……」

「これは失敬。そういうことならすぐにでも。……ユッカは大丈夫か? 厳しいなら先に宿で――」

「い、いけます。いけますから!」


 場合によってはすぐさま引き返してもらった方がいいかもしれない。

 理想は警備隊との合流だが、見回してみても頼れる鎧姿の人物はどこにもいなかった。


「そちらの方、大丈夫なんですか? 無理はしない方がいいですよ」

「大丈夫ですから。……ほんとですよ?」

「でも確か、この人の方が動いていたような……」

「み、見てたんですか? 仕方ないんですどうしようもないんです。キリハさんはいつもあんな感じなんですから」

「そこまで言うなら相応の体力がつくまでとことん付き合おうか」

「何年やる気ですか!?」

「ユッカにやる気がある限りはいくらでも」


 何も大事なセーフティを壊すレベルまで追い込む必要はない。

 少なくとも今の俺と全く同じ方向性を目指す必要なんてどこにもない。


「い、いくらでもってそんな……あんまり気軽に言わない方がいいですよ。意味わかってます?」

「分かっているとも。とはいえ確かに、年中通してと言うのは厳しいか。どこかでフルトに戻るんだろう?」

「あ、別にそれはいいです」

「リィルとの約束だけは忘れるなよ」


 それ以外でもたまには帰った方がいい――なんていうのはさすがに余計なお世話か。

 特に俺は誰かのことを言える立場じゃない。


 支部に一番近い武器屋の隣。人が一人通れるくらいの細い道。

 先に見える光に真っ直ぐ進まず、右へ左へ。中途半端に曲がった道を進んでいく。


 その足取りはどことなく不安げ。しかも一瞬、紙切れが見えた。

 建物の隙間から差し込む日の光が唯一の明かり。


「――ここです」


 そうして足を止めたのもそんな道の半ば。

 特段変わったものはない。


 不気味で怪しい。そのくらいだ。


「いえ、こちらこそ。知らなかったとはいえ、巻き込んでしまったようなものですし」

「……すみません。本当に」


 やはり。


 そんな事だろうと思った。

 ついこの前にもあんな探りを入れられたばかりだ。誰かの依頼と言われてもおかしくはない。


「今のどういうことですか? 巻き込んだとか言ってましたけど」

「俺に用のある誰かがあの人にここまで連れて来るよう頼んでいたんだろう。……さっきまでは推測だったが、当たりだったか」

「え、じゃあまさか前の……」

「おそらく違う。対応の仕方が分かっている分、その方がやりやすかったんだがな」


 勿論町中でやり合うつもりなんてない。

 この前の能力だけを見てもどれだけの被害を及ぼすか分からなかった。


「――ところで、どこかから見ているんですよね? 声くらい聞かせてくれてもいいんじゃないですか」


 気配はない。近付く反応も、何も。

 だが間違いなく見られている。視線の元までは分からない。

 距離が離れている上にやたらと手の込んだ攪乱をしてくれている。


「いつまで隠れているつもりですか。わざわざ人を使って呼び出しておきながら沈黙を決め込むのはフェアではないと思いますが?」


 やはり答えはない。


「ち――」

「わっ――!?」


 代わりに強烈な光で応じてきた。


 一瞬で収まったかと思えばだだっ広い草原の中。

 陰鬱な裏道とは真逆。


(結界……?)


 また妙なものを。

 発動する瞬間にも全く魔力を感じられなかった。つまり、使われたのはそれ以外の何か。


 青く晴れた空の下。吹き付ける風の心地よさを感じている場合ではなかった。


 正面に何やら妙なものものもある。


「……なんですかこの文字?」

「『ようこそお越しくださいました』……? なんて呑気な……」


 問答無用で閉じ込めてこれか。


 草原に浮かぶ白の文字。

 ストラでは見かけたことのないものだった。


 丁寧に書かれているのは分かるが仕掛け人の姿は未だに見当たらない。


「え、キリハさんこれ読めるんですか? リーテンガリアの言葉じゃないのに……」

「その辺りの説明は後で。まだ続きがあるらしい」


 あまり期待できそうにないが。


『冒険者キリハさん。


 我々はあなたの能力を測りたいと考えています。

 今回このような場を用意したのもそのためです。


 強引に連れ去る形となってしまった事は申し訳ありませんが――』


 続きを読んでいる場合ではなくなった。


 何かが落ちた、鈍く重い音。

 地面を軽く揺さぶった元凶は近い。


「……はい?」

「これは……」


 それどころか俺達を覆いかぶさるように佇んでいる。


 どこかで見たような形状の巨大生物。

 二足歩行。短い手。伸びた尾。前方に突き出た頭部。


『――まず、この個体から一〇分逃げ切っていただきます』


 見下ろす目。

 凶暴で野性的な眼の奥からやる気が肌に伝わるよう。


『――――――!!!』


「ど、どうなってるんですかぁあああっ!!?」


 そんな状況を作り出されては飛び退き身構えるほかなかった。

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