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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
IV ストラの祭日
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第69話 兄妹みたい?

「ご苦労さん。はいこれ、頼まれてたものね」


 あれから数日。

 トレスのとある商店で渡されたのは五〇センチ四方の木箱。

 当然というか、見た目に見合っただけの重量がある。


 たった一店舗分でこれだ。ルークさんが荷車を持って行った方がいいと言った理由も今なら分かる。


「ここまで来て疲れたでしょ? よかったらこれ食べてって。ああ、いいのいいの。ちょっとした余りでついでに作ったものだからさ」


 ……ゴーフル、だろうか?


 店に出すにはやや形が崩れてしまった、しかしついでと言うには妥協からかけ離れた出来。

 全体的な歪さはともかく、網目にほとんどブレがない。


「――はふ(あつ)っ!?」

「ああ、焦って食べるから……ほら、落ち着いて。本体は一旦俺が持っておこうか?」

「ほ、ほへはいひは(おねがいしま)――はふっ!?」


 若干涙目になっていた。

 火傷するような熱さではない。ユッカも猫舌ではなかった筈だ。


「だ、大丈夫かい? すまないね。加減を間違えたかな……」

「へ……平気ですっ。キリハさんも。ほんとに大丈夫ですから!」

「そうは言うが少し冷ました方がいいじゃないか?」

「……ですよね」


 息を吹きかけ冷ます。おそらく誰もが一度はやったことのあるアレ。


「仲がいいねぇ。ひょっとして兄妹さんかな?」

「違いますよ!? なに見てそう思ったんですか!?」

「いやぁてっきりそこの男の子が妹ちゃんの面倒を見てるもんだとばかり……」

「ぅううううう~~!!」

「唸らない唸らない。落ち着いて」


 まさかそんな事を言われるとは思いもしなかった、というのは俺も同じ。


(百歩譲ってそれらしく見えないこともないこともない、か……?)


 しかしそれを言ったらリィルなんてほぼ全員の姉になってしまう。

 ユッカ相手には普段から割とそれらしい振る舞いをしているのは事実だが。


「ところで店長。先程から気になっていたのですが、そこにある は一体……」

「これかい? 珍しいね。冒険者さんがそんなものに興味を持つなんて」

「まだ勉強中の身ですから」

「ほう、関心関心。よかったら見て行くかい?」


 折角だ。ストラにないものもあるだろう。


「まあ冒険者さんには縁がないかもしれないけどね。どう? 気になるものはあるかい?」

「そうですね――」






「別に買い物しなくてもよかったんじゃないですか? せっかくお菓子もらったのに。リィルに怒られますよ無駄遣いするなーって」

「逆だ、逆。サービスしてもらったから買ったんだ」


 向こうもそれを狙っていたのはあるかもしれない。

 この時期は尚更。


「特に今回は、会員証も記録されているだろう? あわよくば名前を覚えてもらおうかと」

「あ、それ。それですよ。別にあれ書かなくてもいいですからね? どうしても気になったら協会で調べてもらえる筈ですし」

「……そういうものか?」

「そういうものです」


 ほぼ間違いなく煩雑な手続きを必要とする案件だろう。


「リィルに注意されたら……まあ、その時はその時か」

「そんなこと言ってると痛い目見ますよ。……あ、でも大丈夫かもしれないですね。キリハさんには甘いですし」

「そこまで言う程ではないだろう……? ただまあ、若干気を遣わせてしまっているのはあるかもしれない」

「それだけじゃないと思いますよ?」


 断言してもいい。俺の勘違いなどではなかった。


 あんな風に言ってきたくらいだ。

 おそらく、俺が思っている以上に心配させてしまっている。


 たったあれだけの話であの反応。

 万一魔戦に関する全てを明かしたとしたら一体どうなるか。間違っても変なことだけは言えない。


「キリハさん知ってます? リィルってば最近町の中の依頼探してるんですよ」

「町の中の……何か問題が? リィルのことだから変な依頼を以って来るなんて事はないだろう、別に」

「忘れました? キリハさんが会ったときのこと」

「ああ、あれは……」


 あったな。確かにあったな。


「つまり、俺に止めて欲しいと? ユッカが言っても駄目だったなら効果はあまり……」

「あ、違います違います。さっきのは関係ないです。むしろキリハさんには知らないふりをしてほしいんですよ」

「なら何故話した」


 最初から何も言わなければよかったんじゃないのか。


「だってキリハさんどうせすぐ気付くじゃないですか。それはちょっと困るっていうか……その、あんまり邪魔はしたくなくて」

「ふむ……?」


 俺に気付かれたら困ること。

 少なくとも俺に無関係ではないだろう。

 今話した以上のことは探るなと言いたいわけだ。


(一体、何をしてくれるつもりなんだろうな?)


 俺なんかのためにとは今更言わない。


 そこまでしてくれる 何か少しでも応えたいと思うのは当然のこと。

 しかし一方で、肝心の"何か"が分からない。


(……頭で考えるものでもない、か)


 錆びまみれの思考回路が導く答えなどたかが知れている。


「そういうことなら了解だ。……それにしても、なんだかんだ言ってやっぱりユッカもリィルのことが気になっているんじゃないか」


 今に始まったことでもないか。


「…………よしっ」

「よ、よし? 一体何が」

「え゛っ。ぁ……ち、違いますよ? なんでもないですよ? ほんとに」


 ……まさかとは思うが。


 そんなことをしてユッカになんの得があるのやら。


「別に文句を言おうと思ったわけじゃない。さっきのも本心だったんだろう?」

「…………キリハさん、ほんとは心読めたりしませんよね?」

「生憎そんな都合のいい魔法は覚えてない」


 そもそも存在すらしていなかった。何度も言ってきたように。


「あまり触れてほしくないのならこれ以上は何も言わないことにする。要はリィルの計画を邪魔しなければいいんだろう?」

「そうしてください。どっちも」


 勿論そのつもりだとも。

 何かあったらその時は上手い具合にやるしかない。

 そもそも何かあるとしたらそれは俺が口を滑らせた時だ。


「キリハさんこそさっきからどうしたんですか。あちこち見てますけど」

「ああ、折角だからよさそうな鞘があればと思っていたんだが……こっちは駄目だな。やはり遠くに足を延ばすしかないか……」

「案外大丈夫なんじゃないですか? この前とりあえず買った鞘でも特に困ってないですよね?」

「……そう見えるだろう?」

「はい?」


 やはり目に見えて何かが変わるというわけではないらしい。

 それもそうか。他でもない俺自身、未だに一度もそれらしい変化を見たことがない。


「一時的だから我慢してくれているだけだ。日に日に不満を溜めているのが手に取るように分かる」


 俺が悪くないと思っても当事者が気に入らなければ意味がない。

 この『とりあえず』の鞘も見つけられた範囲の中で反応を探りに探ってやっと選んだものだ。


「不満って。そんな心があるわけじゃないんですから」

「意志に近いものがあるのは間違いない。言葉で語りかけてくれるわけではないが」


 おかげですぐには気付けなかった。

 むしろこちらから察してやるくらいのつもりでないと感知できない。


 レイスが触れた件も合わせてあの日は本当に苛立っていた。そうとしか言いようがない有様だった。


「たとえば、そうだな。昨日の夜ユッカが触ろうとしただろう。あれだけでもかなり不機嫌になる」

「だからキリハさん止めたんですね。…………待ってくださいわたしそんなに嫌われてるんですか!?」

「ユッカに限った話じゃないんだ、これが」


 レイスは勿論、アイシャにもリィルにもマユにもトーリャにもイルエにもレアムにも等しく同じ。


 気難しいどころの話じゃない。

 剣との付き合いを考えるような機会も今までなかったからこそ余計に悩まされる。


「剣のくせにわがままですね……」

「ユッカの場合は多分そういうところだと思う」

「そういう? どういうところですか?」


 分からないのなら致し方なし。


「大丈夫なんですかその剣。その内キリハさんにも刃向かいそうですけど」

「ああ、剣だけに」

「はい?」


 そこは乗ってくれてもいいじゃないか。


「まあ冗談はいいとして、だ。そうなったらまた全力で語り合うしかない。当面、そのつもりはなさそうだが」

「当面っておっかない剣ですねほんと……」

「ユッカ、そのくらいで」


 あの鎧もまさか本気で持ち主に斬りかかるような代物を渡しはしないだろう。

 扱いに困ったからなんてことはない。多分。きっと。


「まあキリハさんがいいならいいんですけどね。そんなことより次行きましょう、次」

「賛成」


 今日は他にも回る場所がある。






「……まだやる気ですか。あの階級の方が一日に処理する量ではありませんね」


 体力その他は評価してもいいでしょう。加点三。


 ただし時間配分に問題あり。減点一〇。


 付いて行く側のことを考えられないようでは困ります。

 全体に不和をもたらしかねません。……はー疲れた。


 まあ、件の剣との意思疎通を積極的に試みてようですから、今の減点は最初の加点と合わせて帳消しにしてあげないこともありませんけど。


「ふぅ……」


 それにしても迂闊でしたよ。

 まさかバスフェーの前だったなんて……

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