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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
IV ストラの祭日
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第68話 見えてる落とし穴

「どこほっつき歩いてやがったですかこのバカども。……うん? そこの二匹はなんで目逸らしてるですかこっち向けってんですよ」


 全く同じとは恐れ入った。


 戻った俺達を待ち構えていたイルエの言葉はレイスの予想と一語一句違わないものだった。

 いくら幼馴染とはいえ……本当に超能力の類でも備わるのだろうか。少なくとも俺にはない。


「心配しなくても問題が起きたわけじゃない。ただ少しさっきの話を思い出してしまって」

「さっき。ほう。続けろです」

「本当になんてことのない話だ。器用貧乏かどうかの――」


「ぷっ……! ま、マジでそのまんまじゃん……くく、やべ、笑い止まんね……っ」

「わ、笑うなレイス……! お前のせいで、オレまで……ん゛んっ!」


「ほー…………」


 そうやって笑うから。

 つられたとはいえトーリャまで何を……


 これでは黙っていた意味も何もない。

 それとなく別の話題に逸らそうとした労力の分はどこに請求してくれようか。


「よかったですね町中で。外ならその頭黒焦げにしてやるとこですよ?」


 火花のように散る魔力。


 あまりにも予想通りすぎる展開に最早何を言ったらいいのか分からない。


「へ、へーんだ! こっちにはキリハがいるから全然怖くないもんねー!」

「……キリハをなんだと思ってるの……?」

「えっ、あ、いや……」


 わざわざ見えている落とし穴に突っ込むやつがあるか。

 俺を盾にしても何も変わらないだろうに。……いや、これ以上はいよいよ収拾がつかなくなるな。


「そ、それよりアイシャ達はどうだった? 今日は珍しく別行動だっただろう? そこで何かあったとか。どんな些細なことでもいい」

「私? バスフェーが近いし、その関係の依頼ばっかりだねってみんなと話してそのまま……だよね?」

「他所からの募集もあったけどキリハ君じゃなきゃ厳しそうなのばっかりだったからねぇ」


 あの迷宮で大きな騒ぎがあったばかりだというのにまだあるのか。

 一年どころか一か月も経っていない。

 ストラの近辺だけでもあれだけ事件が起き永ることを考えれば決しておかしなことではないのかもしれないが……


(エルナレイさんも溜まったものじゃないだろうな)


 こんなにあっちこっちに駆り出されるのなら。

 あんなふうに言った理由も今なら少し分かる気がする。


 それにしても。


「……バスフェー、というと?」

「あ、あれ? まだ話してなかったっけ?」


 少なくとも聞いた覚えはない。

 ただ最近、どことなく町全体が浮足立っているような感覚はあった。

 何かのイベント、だろうか。


「一年に一回、感謝を伝えるお祭りなの。その日限定のメニューを出すお店もあったりして……前はもうちょっと静かなお祭りだったみたいなんだけどね」

「良いじゃないか。楽しそうで」


 商魂たくましい事で。

 だが言われてみると、なるほど確かに。覚えのないセットを見た気がする。


 しかしアイシャの反応はどことなく微妙なものだった。


「当日は楽しいんだよ? 楽しいんだけど……」

「準備に何か問題が?」


 規模を大きくするのであればなおさらその壁にぶつかってしまう。


 わざわざ協会経由で依頼を出すくらいだ。

 知人の伝手ならともかく、外部からの流入も少なくない冒険者の手も借りたい状況なのだろう。


「注文したものが届かなかったり、どうしても人手が必要だったり……予定通りに進めばいいんだけど……あはは」

「例年何かしらトラブルが起こる、と。アイシャの周りでも何か?」

「あ、うん……去年、ちょっとね……」


 どことなく遠い目をしていたような。

 当日限定のメニューがどんなものか知らないが、そのために別枠で取り寄せているのなら十分あり得る。


 ひとまずそういうことにしておく。

 今の雰囲気からしてあまり触れてほしくないのだろう。


「いいじゃない。運搬系の依頼も多いみたいだし、そっち優先で探しましょ。力仕事だと結局こいつ頼りになりそうだし」

「頼りっていうか、キリハじゃないと無理だよね……?」

「別にそんなことはないだろう。さすがに」


 直接持ち上げるのが駄目だと言うなら風か《念力》を使ってもいい。

 さすがにその辺りの役目を避けるつもりはない。何人いても過剰になることはないだろう。


「え、待って。オレらひょっとして力ないって思われてる? 一応前衛なんだけどな?」

「じゃあ一人でやってくるですよ。明日その辺の依頼五、六件取ってきてやるです」

「はいそこ仲間内で潰し合い手前なこと始めないでねー」


 ほぼ間違いなくさっきの報復だろう。

 そのくらいの件数なら最悪、分担してどうにか片付けられる範囲内。

 それも見越して、だと思いたい。


「マユも手伝うから大丈夫、です」

「マユちゃんが? ……えっ。マユちゃんが?」

「? どうかした、ですか?」


 確かに年齢の割には力も強い。

 しかし常識的に考えて保護している相手にそんな事をさせるなど……


「見過ごしていいんですか、ルークさん?」

「個人的には反対なんだけどね……」

「支部長ですか」

「そんなことする人じゃないよ。……あまり呼ぶのはおすすめしないけどね。特に君は」

「仕事はされているんですよね?」


 悪霊扱いですか。どこに何を仕掛けているんですか。


 そういえば報告を聞いて凹んだとかなんとか……

 俺が《魔力剣》を使わなくなるとでも思っているのだろうか。


 別に支部長に言われる事ではないのは勿論、あの一件一つでそこまで気を落としたという事実が恐ろしい。


「(ところでルークさん、気付いてますか? 今日の昼頃から……)」

「(やっぱり君も感じ取ってたんだね。リットの報告通りなら大丈夫だと思うんだけど、念のため伝えておくかい?)」

「(いえ、協会に面識のある相手なら別に)」

「(ライザ君のような心配はしなくて大丈夫だと思うよ。あそこなら)」


 わざわざ掘り返さなくても。


 実際、敵意はないのだろう。

 そのつもりなら俺が感知するまでの間に何か仕掛けようと思えば仕掛けられた筈。


 それどころかおそらく真逆。

 あの時、俺に気付かれても全く気にしていなかった。

 挨拶代わりの魔法も結局潰されていない。まるでこちらを試しているかのようにも思える。


 何より、ルークさんは『あそこ』と言った。

 普段組織だった行動をしているのならわざわざ一人で強襲するメリットがない。

 あの連中のような例外とも思えなかった。


「そういうわけだからそっちの心配はないと思うよ。何かあったらその時は相談に乗るから」

「お願いします。俺も折角の祭りに余計な諍いは起こしたくありませんから」

「あ、そっか。キリハ君は初めてなんだっけ。そういうことならたまにはゆっくり楽しむといいよ」


 だが、気は抜けない。

 この手のイベントを狙って何かをやらかす馬鹿がいないなんてことはないだろう。

 外部からの出入りも増える今だからこそ。


 連中もそうだった。

 極力気付かれないよう手を回し、より大勢を巻き込もうとした。


 ある時期までは気付かれないよう抑えていたという事実には今でも眩暈がする。

 身を以って味わっていなければすぐには受け止められなかっただろう。


「……なによあいつ……」

「どうしたんですか。そんなキリハさんのこと睨んだりして。なにが気に入らないんですか」

「別に。なんでもないわよ」

「おおありみたい、です」


 ……筒抜けだと伝えるべきだろうか。


「キリハはルークさんといつもあんな感じだよ? ね、キリハ」

「アイシャあんた、それでいいの……?」

「? いいってなにが?」


 少なくともリィルが思っているようなことは何一つない。

 そう思っても本人に言える雰囲気ではなかった。


(……この前のあれだろうな。おそらく……)


 こんな風に悩ませるくらいならいっそ断っておけば――……ああ、こういうこところか。

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