第67話 探り合い
(そろそろ、ですか……)
姉さまの頼みとはいえまさかこんな町まで向かうことになるとは思いませんでしたよ。
(特大の魔力が一つ、二つ、三つ……一カ所に集中し過ぎでは?)
均衡も何もありませんね。
協会の職員でもなければいつ監視対象になってもおかしくありませんよこれは。魔力危険域ですかここは。
(町の中心の巨大な反応は言わずもがな……その近くは“灼砲”のルークさんでしょう。となれば――)
外の一人。
他に《索魔の灯し盤》に設定した条件を満たすような方はおられないようですし――
「ふむ……?」
計測の結果が安定していませんね。
最低値を下回らないのは結構ですが、普通ここまで変動するようなものでは……
(減点五……には、まだ早いですね)
その程度の基礎すらできていない素人の戦績とは思えません。
裏が取れているものだけでも十分でしょう。
(精々がっかりさせないでくださいね? “ストラの新星”さん?)
あの姉さまが直々に指名したんですから。
「――《魔斬》」
「ぅおりゃっ!」
残った二匹。
レイスと同時に仕留める。
今回の相手はゴブリン五体。いよいよ正常な状態に近づいているのだろう。
ライザが魔物を集めていた頃は最低でも今の一〇倍。他の魔物も少なからず混じっていた。
「よっしゃカンペキ! どうよキリハ。今日のオレ絶好調だろ?」
「だが、討伐数は、キリハが上だ」
「トーリャこそ上手い具合に倒していたじゃないか。レイスもお疲れ」
他に魔物の気配はない。
やはり現状、過度の討伐をするべきではないだろう。
魔物という存在も含めて一つの環境として成り立っていたのであれば猶更。……ライザも余計な事をしてくれたものだ。
「ほらこういうとこだって。キリハの話が聞いてもらいやすくなる理由」
「お前は何を言っているんだ」
「気にするな。いつもの、ことだ」
さっきのトーリャと同じような言い方をする事だって珍しくない。
より信頼している相手の話に耳を傾けると言うのは分かるのだが……俺はそこまででもないような。
「それより、キリハ。今の《魔斬》は、必要だったのか? ゴブリンくらい、お前なら」
「念のためだ。こいつで魔法を使った時の違和感が拭えていない」
「……まだ、駄目なのか」
「悲観する程じゃない。《魔力剣》ばかり使っていたツケと思えば安いものだ」
確かにこの剣自体は相当のもの。
使い方次第では《魔力剣》以上の火力を発揮できる場合もあるだろう。
だからこそ余計に申し訳なかった。
ある程度、魔法そのものを調整してやる必要があるかもしれない。
今までは《魔力剣》を使う前提で覚えていた。その辺りもおそらく原因の一端を担っている。
「トーリャは考えすぎなんだって。今の見ただろ? いつもとほとんど変わらなかったじゃんか」
「「それはない」」
「あり?」
フォローしようとしてくれたのだろう。
多少威力を抑えたとはいえ、残念ながらレイスが思っているような状態ではない。
「いつもの半分くらい、か?」
「ああ、おそらく。この調子だと《万断》を使えるようになるまでしばらくかかりそうだ」
「そこで、使い分けか。強敵には、《魔力剣》を」
「わざわざ俺を選んだあの鎧には悪いがな」
いかに《魔力剣》ありきの戦い方をしていたのか分かる。
それ以外も体術とは名ばかりの乱闘がほとんど。
あの投げ飛ばしに至っては終わった後で総ツッコミを食らう始末。
気付けば何故かユッカと短剣同士の模擬戦が決まり、リィルのお説教は勢いと頻度を増して……一体全体、どうしてあんなことに。
「まあまあいいじゃん。そんな小難しい話はさ。折角また魔物も出るようになったのに話し込んでばっかってどうなんだよ」
「だが、狩り過ぎには、気を付けないと」
「分かってる分かってる。キリハがいるとやりやすいし」
「……それは、本来分担するところを、キリハが一人で担っているからだ」
止めてくれ。これ以上その手の話題を続けるのは。
たまには男三人でと言うから気軽にホイホイついて行ったのにここでもその話か。
「あー確かに。いつも索敵に盾役に攻撃とあれこれやってくれてるもんなー。こういうのなんて言うんだっけ。器用貧乏?」
「それは誉め言葉じゃ、ない」
あながち間違いでもない。少なくとも万能には程遠い。
魔戦時代に組織もさじを投げた治療の魔法は勿論、支援魔法もそうだ。
こちらの世界では飛び抜けて珍しいものではない、らしい。
アイシャは『ほとんど使えない』と言っていたがひょっとすると……
「その言い方はともかく限度はある。それこそ個人の防御力だけを瞬間的に高めるなんて真似はできない」
「でもキリハ《氷壁》とか色々あるじゃん」
「そもそも、お前は本来、前衛アタッカーの筈だ。魔法使いとしては、比較的稀な」
「だからこそだ。前に出過ぎて敵に囲まれたら話にならない」
わざと囲ませて一匹残らず消し飛ばすのであれば話は変わる。
ただそれを待つくらいなら適当に潰した方が早い。難しいところだ。
「器用に避けるヤツが言ってもなぁ……」
「前に出ていたのは、お前も同じだ」
「そこはあれだよ。キリハも同罪ってことで」
「盾役もこなす器用貧乏、だろ」
「あーっ! トーリャそれ掘り返すのかよ!」
「そのくらいにしておけ二人とも」
大きい。さすがに声が大きい。ああ、何処かからバーリィが飛び去って行った。
「全くだ。魔物を引き寄せたら、どうする」
「トーリャも。トーリャもだかんな? いくらキリハが倒してくれるからってさ」
「おい、レイス。それは……」
「ない。ないから。オレだってヤだよ。またアイシャちゃんにあんな目で見られるの」
「アイシャのことをなんだと思っているんだ……」
ユッカもそうだったが、本当に。
あれは確かに過剰反応だったような気もしたが。
「お、やっぱキリハはアイシャちゃんの味方かー? まぁそうだよなー。そうなるよなー」
「何がだ。これ以上変なことを言うようならレアムにそのまま伝えておくが?」
「おまっ、卑怯だろそれ! 男なら正々堂々――……いや無理じゃん。あれこれ詰んでね?」
「今更、気付いたか」
「そもそも力で解決しようとするな」
三下のチンピラじゃあるまいし。
「ちょ、待った。お前あの変な男には容赦なくやってたじゃん。なんなら魔法で話遮ったじゃん」
「当たり前だあんな中身のない話。……思い出すだけでも腹立たしい」
「「おい」」
上辺だけを見た挙句に自身の妄想で捻じ曲げたようなものを聞いてやるほど俺も心は広くない。
まして、あいつやあの人達を貶すような内容など言語道断。
「やるなよ。やらなくていいからな? その辺の木とかへし折るなよ?」
「誰がそんなこと。やる意味がない」
「……そこは、『できない』と答えるところじゃないのか」
「《蝕む熱銀》の束よりはマシだろう。さすがに」
あのときは否定したが何かしらの使い道くらいあるだろう。他者へ不必要に危害を加えない方法くらい。
「あんなやつの話はどうでもいい。そろそろ帰らないと――……」
また妙なものを。どこのどいつの仕業だ今度は。
「帰らないと? アイシャちゃんに心配かける?」
「もしくは遅いと文句を言われる」
「そりゃイルエだろ。『どこほっつき歩いてやがったですかこのバカども』とかって」
「……いいのか? 俺達の前でそんな事を言って」
「や、やめろよそんな。……やらないよな? な??」
そんなに怯えなくてもいいだろう。
それなら最初からやらなければよかったろうに。
「冗談。ただ、気の知れた相手でも少しくらい、言葉に気を遣ってもいいんじゃないか?」
「いいんだな、信じるからな!?」
聞いちゃいないか。
まあ一応、告げ口は最後まで取っておこう。
「何か、あったか?」
「……いや、ちょっと小石を踏んだだけだ」
今は他に考える事がある。
(思いの外早く気付きましたね?)
あれだけ露骨に狙っていたのですからまさか偶然ということはないでしょう。
(わざわざこんなものを寄越すくらいですし。ちょっと想定外ですね)
こちらの居所まで掴まれるとは思いませんでした。……なんでしょう。この鳥のような物体は。
ご友人達の目には捉えられなかったでしょうね。指先だけで器用に飛ばすところなんて。
「……加点、一♪」
鍛えてあげれば、かなりのものになりそうですね?




