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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
III 迷宮探索
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第66話 またどこかで

「最近は随分と大人しかったじゃないか」


 ――会えなくて寂しかったのなら素直にそう言ってくれていいんですよ?


「言い方。言い方どうにかならないのか。このやり取り何回目だよ」


 ――やはりあなたも大概ですね。


「違うそうじゃない。……真面目な話、変なトラブルに巻き込まれてなかったならそれでいい。本当に何の連絡もなかったからないとは思っていたが」


 ――ええ、幸い。それに……不測の事態に巻き込まれる担当はあなたでしょう?


「トラブルに担当も何もあるか。というか、茶化すな」


 ――出向いた先で見事主導権争いに巻き込まれた後では説得力もありませんね。


「うるさい、余計なお世話だ。ただまあ……あんなものを受け取ることになるとは思わなかったのは正直ある」


 ――それに関しては同感です。……迂闊でしたね。相手の周囲すら利用して断りようのない状況を作り上げるとは……姑息な真似を。


「誰もお前の私怨は聞いてない。今だって散々助けてもらっているのにこれ以上頼れるものか」


 ――大したことはしていませんよ。あなたの能力の制御さえ満足にできていないというのに。


「それは俺自身の手で取り戻せばいい。最初に言ったのは他でもないお前だろう」


 ――あなたのように言うのであれば『それはそれ、これはこれ』ですよ。一時的とはいえあの戦闘があなたの力をより引き出したのは事実ですから。


「……あれはまさにお前が言ったような状況だと思うんだが?」


 ――いいえ違います。全く違います。その拡大解釈、あなたの悪い癖ですよ。


「そんな苛立つような事でもないだろうに……」


 ――苛立ってなどいません。ええ、全く。勘違いも甚だしいですね。


「落ち着け。いいから少し落ち着け。……何がそんなに気に入らないんだか」


 ――……言ってみましょうか? 一つ残らず。


「所要時間は。できれば夜が明けるまでのところで抑えてくれ」


 ――忘れましたか? この世界であなた方の時間の概念など意味を持ちません。


「前に長居させられないと言ったのはどの口だと……」


 ――……なるほど。そういうことでしたか。


「今度はどうした。何を一人で勝手に納得しているんだ」


 ――そんなに私に染まりたいのなら今すぐにでもしてあげましょう。本当はもう少し時間を掛けて行うつもりでしたが……あなたが望むのなら拒む理由もありません。


「ちょっと待て。時間を掛けてってお前何するつもりだったんだ。……おい。目を逸らすんじゃない。微笑むんじゃない」


 ――焦らなくても冗談ですよ。今のところは。


「最後の一言で全部台無しだ。……ちなみに、何割?」


 ――さあ、どうでしょう?


 おい待て。


 案の定、抗議の声は届かない。

 本当に顔を見せるついでに不満をぶつけたかっただけらしい。






「ぉおおおおお……!」


 地上に戻る頃にはもう、冒険者の搬送は終わっていたとのことだった。


 簡単な事情聴取と荷物の回収。

 事後処理がようやく片付いたと思えば、レイスが例の剣に目を輝かせていたのだ。


「……迷宮にいた騎士もレイスみたいに素直に喜ぶ相手に渡したかっただろうに」

「あんたまだそんなこと言ってるわけ? いいじゃない。どうしてもっていうなら使い分ければ」


 ぐうの音も出ない正論だった。


 確かに《魔力剣》、引いては魔法を全面的に無効化された時、殴る蹴るなどの暴攻では心許ない。

 あの頃は本当にそうするしかなかっただけだ。


「そうですよ。キリハさんだから勝てたのに」

「まあでもそろそろ本格的に階級詐称を疑われそうだよね。キリハ君」

「言いがかりにも程がある」


 勘違いされているのは年齢だけ。

 そもそもこの世界に置いてキリハを何歳とするべきか、正しい基準も何もない。

 肉体年齢か、中身の年齢か。はたまたこの世界での活動時間か。……最後はないか。


「な、キリハキリハ! これちょっと触ってみてもいいか? いいよな?」

「少し落ち着け、レイス」

「まだよく分かっていないことも多いそうだからあまりおすすめしない」

「そう言うなって。ちょっと持ってみるだけだか――ぁあああっ!?」

「レイス君!?」


 新しいおもちゃを買ってもらった子供のよう。そんな悠長な考えもたちまち吹き飛んだ。


 突然地に膝を着いたレイスを支える。顔色まで悪くなったわけではなかった。


「どうした、何があった? 怪我は?」

「いや、ないけど……なんか、いきなり魔力を吸われて……」

「魔力を……?」


 吸い上げたとでも言うのか。


(確かに鎧には魔法吸収の能力もあったが……)


 地下での戦闘においても、あの剣がそれらしい力を見せた場面はなかった筈。


「使い手を自ら選ぶようね。その剣」


 答えをもたらしたのは席を外していたエルナレイさんだった。


「……知っていたのなら教えてくださってもよかったのでは?」

「今のレイスさんの反応を見て推測しただけよ? 迷宮の主もあなたを選んで戦ったようだし、おかしな話ではないわ」

「つまりあれはペナルティの一環だ、と」

「あなたが触った時は何も起こらなかったんでしょう? その可能性が高いわね」


 盗難防止も万全、と。

 一瞬、手放さないための保険と思ってしまったのは俺の心が歪んでいるからだろう。


「止められたのに無視するからですよバカレイス。これに懲りたら大人しくしとけけってんです」

「ちぇー……」


 一応、念のためどこかで見てもらった方がいいかもしれない。

 こんな世界だ。そう言った職業の人もどこかにはいるだろう。


「鞘を作るならちゃんとしたところに依頼するべきね。まさかこの先ずっとそうやって持ち歩くつもりではないでしょう?」

「同じように影響を受けた鞘でも残っていれば、頭を悩ませることもなかったのですが」

「あら、欲張りね」


 一応協会から貰った布を巻きつけさせてもらったものの、他には何もない。

 色々な面で不安な要素も多い。……今のうちにやれるだけやっておくしかない。


「そういうエルナレイさんはどうなんですか。知ってることとかもうちょっとキリハさんに教えてくれてもいいじゃないですか?」

「そうねぇ……私が普段お世話になっている方を紹介したいところではあるのだけれど……多分、生活に困るわよ?」

「そういうのじゃなくて」


 行くだけでもかなりの時間がかかるだろう。

 どの道、今の俺達には縁のないものだ。


「そういえばエルナレイさん、どこに行ってたんですか? さっき誰かに呼ばれてましたよね」

「ええ、[ラジア・ノスト]の方からね」

「特級の勧誘ってできないんじゃ……」


 協会の規約上、特級に匹敵する能力の持ち主と特級は明確に区別されている。


 それだけの責任と義務を背負うのが特級なのだとエルナレイさんは言っていた。


「基本的にはその通りよ。ただ……今回は私目当てではなかったようね。二、三質問されただけだったわ」

「別に怒るようなことじゃないと思うんですけど」

「? 怒っているように見えたかしら」

「見えましたよ思いっきり。ね、キリハさん」

「いやすまない。そこまで見ていなかった」


 さっきから話声だけはしっかり耳に届いていた。


 声には少なからずそういう感情が混じっていたようにも思えるが、確証はない。

 正直、できる事なら触れたくない。昨日の夜のあれでもう十分だ。


「あなたまで……まあいいわ。ストラに戻るならそろそろお別れね」

「行っちゃう、ですか?」

「ごめんなさい。他にもやらなきゃいけないことがあるの。……大丈夫。きっとまたどこかで会えるわよ」


 リーテンガリアを含んだ一体を主な活動圏内にしていると言っていた。

 ……大きな事件の最中でないことを願うしかない。お互いのためにも。


「あなた達との冒険、楽しかったわ。次に会う日を楽しみにしているわね。……それじゃあ」

「はい、お世話になりました」

「ええ、また」


 そう言ってストラの反対へ歩き出したエルナレイさんは、ふと足を止めた。


「――あなた達に、天上の祝福を」


 祈る瞳は俺と、この場にいないある人物に向けられていた。


「また会いましょう? ……天条桐葉」


 去り際、魔力を込めた一言も決して聞き間違いなどではないだろう。

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