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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
III 迷宮探索
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第65話 至近距離からの一太刀

 燃え盛り、駆け上がる業火。


 辺りを照らしながら突き進む閃光。


 ゼロ距離で叩きつけた一太刀。


 さすがの大クラゲと言えど、それらを耐えきることはできなかった。


 裂かれ、焼かれ、光を受けて完全に消え去った。

 どこを見てもその姿はない。触手の一本さえ残っていなかった。


「……あとはお前か」


 振り向く間も黒鉄の巨人は微動だにしない。

 余裕のつもりか、俺が地面に降りる様をただじっと眺めている。


「まあ待ちましょう。あなたもある程度察しはついている筈よ?」

「わざわざその話をするためだけに瞬間移動しなくても」

「生憎、そんな大それたことはしていないわ」


 風の精霊に力を借りた、或いは魔法を使った高速移動。

 そのどちらであっても傍目からは大差ない。

 アイシャ達の元へ戻るところまで含めて。


「おつかれ。思ったより平気そうね」

「それを言うならリィルこそ。皆もありがとう。おかげで助かった」

「キリハさんみたいに触手を避けたわけじゃないですけどね」


 あれは積極的にやるものでもない。

 隙間を見つけ、逆にそこを狙ってくるようなら都度迎撃。

 引き付ける目的があったからやっただけのこと。


「ちなみに……その皆の中に私も含まれていると思っていいのかしら?」

「いえ、エルナレイさんには他にもお礼を言わないといけませんから。その件はまた後程」

「そう? なら、期待させてもらうわね」

「お手柔らかにお願いしますよ」


 何故そんな事を言うのか分からない。

 特段承認欲求が強いようには見えなかったが、第一印象などあてになる筈もなく。


「そんなことより魔物ですよ。どうするんですかあれ。なんかこっちに向かってますけど」

「どんどん小さくなってる、です」


 やっと動き出したかと思えば。

 慎重な足取りで近付く巨体。しかしみるみるうちに鎧は小さくなっていく。

 その間、攻撃の素振りすら見せない。


「本当に力の大部分を集めていたのね。魔物を見かけなくなったのも納得だわ」

「小さくなったところで基礎性能まで下がるわけではないでしょうね。おそらく」


 本体のサイズに合わせた調整が施されるにせよ、弱体化はまずあり得ない。


 俺と背丈が並んだところで鎧は足を止めた。しかも丁度、俺達の目の前で。


「な、なんのつもり? あなたと戦う理由なんてもうないのに」

「……いや、どうやら向こうはそうでもないらしい」


 何も言わずこちらを、俺を指差していた。

 言葉がなくとも意図は分かる。


「自分の身体を小さくしてでも一対一の真剣勝負を望む、と?」


 肯定するように頷き、構えた。


 こちらの言葉を理解しているのは明らか。

 話の通じない獣の類などではなく、その上で勝負を持ち掛けているのだ。


「……俺でいいのか」


 再び首肯。

 何を基準に判断したのか知らないが、そういうことなら受けない理由もない。


「待ってキリハ。さっきだって一番危ないところで戦ってたんだよ? せめて、少し休むとか……」

「消耗しているのは向こうも同じだ。それに、どうせ休むなら外の方がいいだろう?」


 少なくともこんな、痛ましい戦闘の爪痕が残るような場所で休むよりは。


(それに……)


 この勝負の目的はおそらく俺を倒す事ではない。

 勿論、それを理由に手を抜くことはないだろう。


「さ、時間も惜しい。すぐに始めよう。……皆はそこに」


 鎧も頷き、背を向けた。

 目指しているのはおそらく広間の中心。俺としても好都合。


「……《魔力剣》」


 アイシャ達の疲労はかなりのもの。

 当然だ。本来であればもうとっくに休んでいた筈の時間なのだから。


 多少動き回りはするだろうが、皆に被害が及ばないというだけでも話は大分変わる。


 そうしていよいよ、鎧がまたこちらを向く。


「《魔斬》」


 始まりの合図はそれで十分だった。

 初撃はたちまち鎧に座れて消えていく。


(魔法吸収……)


 当然だ。今更それを捨てる筈もない。


 次の瞬間、眼前には鎧の姿。受け止めすぐさま押し返す。


 一歩引いた鼻の先を刃先が駆け抜け、槍に形を変えた魔力は虚空を穿つ。


 即座に退かせて逆手持ちの短剣に。左前方からの斬り下ろしを受け止める。


 そのまま蹴り飛ばすが、硬い。

 この世界で今まで味わったことのないものだった。


(……しかも)


 また速度を上げている。


「《硬化》」


 蹴り飛ばして二秒。もう目の前にいる。


 お互い弾く。続く斬撃は×字に交じった。


 水平に振るうも紙一重。首を傾け刺突を躱す。


 再び蹴り飛ばすと今度は空中で両手持ち。そのまま、


「《魔斬》」


 斬撃に魔力を込めて来た。


 縦の一振りを《魔斬》で相殺。

 宙を舞う鎧の足が地に着く寸前、それ以上は一切込めずに《魔力剣》叩きつける。


「《吸奪》――《薙炎》!」


 転がり撥ねた鎧の手元からまた斬撃が飛び出した。


 掬い上げた一撃を吸った《薙炎》の狙いは足元。動きを止めた一瞬に膝を真正面から叩き込む。


(本当に硬い……っ)


 仰け反らせるが次の拳は届かない。

 掴まれる前に退き、役目のなかった左手で刃を弾く。


 反撃の刃を逃れたその姿は既に散乱する岩の中。

 空いていた筈の左手には兜ほどの岩石。


「《斬水》」


 投げた直後を切り裂いて、


「《旋風》!」


 隠れ蓑を一気に剥がす。

 岩石の雨が降り注ぐであろうその場所に留まる筈がない。


 そして、再び刃がぶつかり合った。


 刃が虚を裂き、立ち位置が何度も入れ替わる。


 屈んだ頭上を。引いた手前を。傾けた身体の紙一重を。


(今――!)


 しかし、蹴りを割り込ませる隙を見つけるのはそう難しい事ではなかった。


「ぉ……!」


 仰け反った黒鉄の騎士。

 その胸部目掛けて突き出した拳がとうとう受け止められる。


(やはり――)


 そろそろ来る頃だろうと思っていた。

 鎧の左手首を逆に掴み、


「っ、はぁあああああ――――っ!!」

【!?】


 力任せの投げ飛ばし。


 そこでやっと驚愕を露わにした。少なくとも俺にはそう見えた。


 手をかけられる突起もない。刃先も地面に届かない。

 勢いを削ぐ間もなく、鎧は岩の壁にめり込んだ。


 地面からおよそ一〇メートル。

 今の衝撃も合わされば相当のダメージになる。


「《加速》」


 だが、分かっていた。そのまま素直に落ちる筈がない。

 現に詰めていなければ危うく魔力の斬撃が飛ぶところだった。


「……もう、終わりにしよう」


 見たいものはもう見られた筈。大クラゲとの戦闘も含めたら、きっと。


「――《万断》!!」


 おかげで俺も多くのものを得られた。


 神経が次第に研ぎ澄まされていくあの感覚。今の《万断》はその最たる例だ。


 至近距離からの最大火力。壁を斜めに裂いた巨大な爪痕を残した一撃。

 吸収限界を超えたのだろう。鎧も割れる。


 もっとも、それに関してはたちまち修復されてしまったのだが。


 仮にそうでなくともこの戦いをこれ以上続けることはなかっただろう。

 脱力した鎧を支え、地面に降り立つ。


 しかしそこから鎧の騎士が歩みを進めることはなかった。

 それどころか突然、自身の剣を地面に突き立てる。


「? 急に何を……」


 挙句の果てにはその前で跪いた。

 正直なところ、何をしたいのかさっぱり分からない。


「持って行けと言いたいんじゃないかしら。自身に勝った証として、ね」


 そんなことを言われても。


「時間が経てば迷宮としてあるべき姿を取り戻す筈です。その時、最奥部で待ち構えるこの鎧に武器がないなんてことがあったら……」

「二本目もあるみたいですよ」

「しっかり構えてる、です」

「微妙に形が違わないか、これ」


 カタルシスも何もあったものじゃない。いいのかそれで。


「いいじゃない。そういうことなら素直にもらっちゃえば? こんな機会、次はいつになるか分からないんだし」

「そうは言うが……迷宮の主の装備品を持ち出せるのはいかがなものかと」


 それが分からない。てっきりそれらしい何かを作り上げているのだとばかり。

 少なくとも以前戦った鎧の軍団は何も残さなかった筈だ。


「あら? もしかして忘れたのかしら。特定の迷宮でのみ確認された物質の話」

「迷宮の力を受けた結果という話なら覚えていますよ。一応」

「その通りよ。……おそらくこの土地に埋もれていた武具が時間をかけて変質したんでしょうね。迷宮では稀によくある話だわ」


 なんでもありか。いや、元からそうか。


「私も、受け取った方がいいと思うよ? せっかくこうやって渡してくれてるんだし……ね?」

「ぅ、む……」


 なんて、悩んでも仕方がないか。


「……そういうことなら、ありがたく使わせてもらうことにする」


 目線を合わせ、そっと主の剣を引き抜いた――

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