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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
III 迷宮探索
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第64話 そういうつもりなら

 ああいうところが羨ましかった。


 何かあれば誰よりも早く気付いて皆に知らせて。


 その時は誰よりも前に出て攻撃を受け止めて。


 強そうな魔物も、結局なんとかしちゃって。


 ユッカがストラに残ったのも分かる。


 普段は何も言わないけど、あんなに色々魔法を使えるってだけでも普通じゃない。

 最近使い出した雷と氷の複合魔法なんて、特に。

 両方に適性があっても使えない人がほとんどなのに。


 あの日だってそう。


『――《万断》!』


 あいつは寝る間も惜しんでなんとかしようとしてた。

 それでもすぐにあたしに気付いた。


『リィル……? どうしたんだ。こんな時間に』

『それはこっちの台詞よ。アイシャが言ったこと、もう忘れたわけ?』

『まさか。ただ、早く壊せるならそれに越した事はないだろう?』


 その時、本当は少しだけ考えた。

 こいつならそのままこの結界もなんとかしちゃいそう、って。


『だからって何もあんた一人でやらなくたっていいじゃない。あのエルナレイさんだっているのに。あんたの負担が増えたら本末転倒でしょうが』

『それを言われると痛い』


 そのくせ変なところで抜けてるっていうか、戦ってる時とは印象も少し違った。

 困ったように肩をすくめてみたりして。


『もう、勘弁してよね。あんたに何かあったら大騒ぎになるんだから』

『……だな。すまない、気を付ける』

『そう思うなら《魔力剣》を手から放しなさいってば』

『それは待った。一つどうしても試しておきたい事がある』

『いいけど、その一回だけにしなさいよ?』


 元はあたし達みたいに普通の家で生まれ育ったんじゃないかって思うくらい。


『念のため少し離れて……ああ、そのくらいで。――《万断》』


 でも結局、あたし達とは考え方とか、いろんなところが違ってた。


『ちょ、ばっ……! あんた何やってんの!? そんな張り付いて撃って怪我でもしたらどうするのよ!』

『何をと言われても。至近距離から叩き込めば無駄なエネルギーも減らせるから、と……だが駄目だな。こいつ相手には何かが大きく変わるわけでもない』

『そういう問題じゃないでしょ!?』


 あいつみたいな魔法は使えない。でもさすがに分かる。

 壁に張り付いたままあんな魔法を使ったら反動も馬鹿にならないって。


 なのに、あいつは平然としてた。

 撃つ前から迷ってもいなかった。


 まるで今まで、何回もやったことがあるみたいに。


 だから、戦うのが怖いのは当たり前って聞いた時は驚いたけどほっとした。


 そのせいで余計に後の言葉が、雰囲気が怖かった。


 自分が戦うことに何の疑問も持ってない。

 昔の知り合いのことも頼ろうとしない。


 その人達もきっと同じだって言った。


 どうしてそんな悲しい考え方しかできないのよ。


 なんでそれを何とも思わないのよ――!






「しぶといですねあの魔物……!」


 あれだけあいつの攻撃を受けてもまだ魔物は倒れてない。

 あたしの魔法なんてこれっぽっちも効いてなかった。


「ユッカさん、そこまでよ。無暗に魔法を撃ってどうにかなる相手じゃないわ。もしものために魔力は残しておかないと」

「っ、それは――……まあ、そうですけど」

「彼の事なら心配しないで。私が責任をもって援護するから。――雷の精よ」


 そっちを見た時にはもう、触手の魔物を雷が貫いた後だった。

 あいつが《魔斬》で触手を切り落とした後だった。


(……何が『放っておけない』よ)


 結局こうやってあいつに頼ってる。


(分かってたことなのに……っ)


 あんなのあたし達がまともに戦える魔物じゃない。

 それでも、嫌なものは嫌だった。


「リィルちゃん? 大丈夫?」

「な、なんでもない。ちょっとあいつの動き見てたら目が回りそうになっちゃって」

「ならいいんだけど……確かにどうやって避けてるんだろうね、あれ……?」


 速すぎてほとんど見えない。

 まあ、また何かの魔法でも使ってるんでしょうけど。


「あっちこっちに小刻みに動いてるから、です」

「補足すると、合間に手近な触手も切り落としたりもしているみたいよ?」

「撃つか喋るかどっちかにしてくださいよ」

「それよりマユ、あんたよくあんなの目で追えるわね」


 エルナレイさんは特級。

 全然、全然羨ましくなんかない。


「でもさっきからあの魔物、キリハのことばっかり狙って……やっぱり、もう一回……」

「落ち着いてアイシャさん。あれは彼がそう仕向けているからであって、決して――」


「――キリハさん後ろ! 後ろにもっ!!」


「っ、《フレイム》!」

「《アクア》!」


 気付いたら撃ってた。


 あいつが気付いてないなんて思えない。

 あたしやアイシャの魔法が間に合うわけない。


 でもそんなこと、その時は考えられなかった。


「あら……」


 あいつを狙ってた別の触手に当たったのもたまたま。

 焦り過ぎて狙いが逸れたせい。


「大したものね。あそこまで的確に攻撃を防ぐなんて」

「いやっ、今のはそっちじゃなくて……!」

「ふふ、ごめんなさい。からかってしまって。勿論分かっているわ。それより、来るわよ」

「は、はいっ!」


 今ので狙いがあたし達にも向いた。

 それが分かった時には遅かった。


「あっ――」

「うそっ――!?」


 こんなの、避けられるわけない。


 でも、痛くなかった。


「……そのつもりがないなら最初からそう言ってほしかったわね」


 氷の盾に止められて、あたし達のところまで届いてなかった。

 かと思えば、もう全部あいつに斬られてる。


「困ったものね。このままじゃ特級の面目も丸つぶれだわ」

「じゃあキリハさんと交代したらいいじゃないですか今からでも。それか二人がかりで攻めるとか」

「あら、今までの戦いを見た上でそれを言うの?」


 もう十分二人がかりで攻めてるでしょ。

 あの鎧の魔物も合わせたら三人がかりだけど。


「彼の飛行能力は鳥や龍の魔物にも匹敵するものよ。私も含めて、ここにいる誰よりも経験値は豊富な筈。そんなところに割り込むべきではないわ」

「いいんですかそれで……」

「ええ。彼がそういうつもりなら逆に利用させてもらえばいいだけだもの」

「はい?」


 え、利用? まさか本気?


「魔法、ですか?」

「正解。彼が防御まで引き受けるというならその間に力を溜めてとびっきりの一撃をお見舞いしてあげるつもり」

「それなら私も――」

「アイシャさんは待って」


 そういうことならって思ったのに。

 アイシャを止める理由なんてどこにあるのよ。


「いくらなんでも撃ち過ぎよ。あなたは特に体質のこともあるでしょう。冒険者の先輩として、これ以上魔法は使わせられないわ」

「な、なんでそのこと……」

「見ていれば分かるわよ。そこへ彼から相談を受けて、確信したというわけ」

「キリハが……?」


 あいつそんなことまでしてたわけ? ほんとにもう。


(……ほんと、かっこつけちゃって)


 隠そうとしなくたっていいじゃない。別に。


「ただ、解決策を提示することはできなくて……ごめんなさい」

「そ、それはいいんです。そういうことならやっぱり――」

「止めときなさい」


 あいつに言ったのとは、ちょっと違うけど。


「あいつが色々考えてるのにそれを無駄にしてどうするのよ。いいから今は休んどきなさいってば」

「リィルちゃん……でも……」

「『でも』じゃないでしょ。……あんたの分まであたしがやるから。今日だけは預からせてよ」


 あいつのことだから『無理に援護までしくれなくても……いや、ありがとう』とかなんとか言っちゃうんでしょうけど。


「え、リィルが? 大丈夫なんですかそれ?」

「で・き・る・わ・よ! ユッカあんた、いくらなんでもあたしのこと軽く見過ぎなんじゃないの?」

「でも最近あんまり魔法も使ってないじゃないですか」

「それはみんな同じ気が……じゃなくて。リィルちゃん。お願いしても、いい?」

「今はあたしが頼んでるの。あんたはもっと堂々としてるくらいでいいのよ」


 変なところで遠慮しちゃって。あいつの影響だったりするのかしらね。


「そうですよ。いきなりあんなこと言い出したのはリィルなんですから」

「あんたはもうちょっと下手に出てもいいと思うんだけど?」

「そんなの知りませんよーだ」

「足して割るくらいが丁度良さそう、です」

「言えてるわね」

「なんなんですか二人そろって!」


 まあ無理よね。ユッカってば昔からそういうところあるし。


「それはまあいいですけど、いいですけど! ……怪我だけはしないでくださいよ?」

「……ありがと」


 最初から言おうとしないし。


「――空を焦がす爆炎よ」


 でも、それでよかったのかも。


「――こえに応え燃え上がれ。こえに応え今集え」


 いつもと、ほとんど何も変わらない。


「――阻む全てを焼き払え」


 でも、今までよりずっと調子はよかった。


(……見てなさい)


 エルナレイさんみたいな威力は出せないけど。


(あたしだって、これくらい――!)


「――《ブレイズ・キャノン》!!」


 今までで一番の完成度。

 あいつの《万断》と、重なって――

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