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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
III 迷宮探索
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第63話 争う魔物

 響く音からして[ラジア・ノスト]ではない。


(片一方がここの主だとして、もう一方は一体……?)


 何故争わなければならないのか。

 魔物――正確にはそれに近い存在――同士だというなら猶更分からない。


 既に防壁は五重に展開しておいた。

 エルナレイさんのものと合わせれば高出力の魔法だろうと余裕を持って耐えられる。


「……は?」


 それでも、さすがに周囲の地面や壁までは守れない。

 最初からそんな事態の想定などしていなかった。


「え――」

「ちょっ――」


 地面が消え、二体の巨大な魔物が顔を覗かせる。


 一方はおそらく、以前見た鎧の騎士を巨大化させたもの。

 もう一方は何処かクラゲにも似た巨大生物。こじ開けられた大穴からもその全身を見ることはできない。


 どちらも二〇メートルは下らないのだから当然だろう。


「――《駕籠》!」


 剣と触手の衝撃に耐え切れず、崩れる地面。

 散り散りになってしまう前に皆を即席の小部屋へ。狭さはひとまず我慢してもらうしかない。


「皆、無事か?」

「ぇ……ぁ……?」


 アイシャ、ユッカ、リィル、マユ。……全員いる。

 返答はない。あまりに出鱈目な光景を前に言葉を失っているようだった。


 エルナレイさんは風の精に力を借りて、隣を優雅に降りていく。

 あれなら危険に陥ることもないだろう。刃と触手、両方の射程から外れていた。


 斬撃と乱打。

 文字通り規模の違う両者の攻撃は強固な壁を砂山のように容易く崩してしまう程のものだった。

 時折転がり落ちてくる岩には俺より巨大なものが少なからず混じっている。


 鎧が刃を振るえばたちまち壁が崩れ去る。

 触手の反撃が鎧を打ち、押し退けられた巨体は周囲を巻き込み倒れ込んだ。


 本来休息に使う筈だった部屋は最早原形を留めていない。

 魔物達の争いの舞台となってしまった以上、長くはもたないだろう。


「私もその中に入れてくれてよかったのに」

「自力で降りられるエルナレイさんまで巻き込むのはかえって失礼かと思いまして」

「この子達にもう少し待ってもらうべきだったかしら。ふふ、残念ね」


 言葉の割に不満のようなものは大して感じられなかった。

 ちょっとした冗談だったのだろう。


 残念ながらアイシャ達にその気遣いを察せられるだけの心の余裕はなさそうだった。

 それどころか今のやり取りすら耳に届いていないように見える。

 上から響く破砕音も。


 鎧に押し込まれたのだろう。大クラゲの姿が消えた。

 壁に触手をかけ抵抗したようだが程なくそれも引っ込んでしまう。


「「「……」」」


 地面に降り立っても皆の唖然とした表情は変わらない。

 呆然と瞬きを繰り返し、魔物達が消えた方を見上げている。


「それにしても、随分派手に壊してくれたいみたいね。おかげで何もかも滅茶苦茶だわ」

「現在進行形で続いていますよ。この地図もほとんどが無駄になりそうです」


 本来であれば幾つかの部屋があったのだろう。

 所々に残った不自然な凹凸はおそらくその名残。


 更に下へ意識を向けても空洞は見当たらない。

 つまりはここが最下層。二体の激闘が始まった場所でもあるのだろう。


 結果として飛び抜けて広大な空間が形成されていた。

 岩が散乱していなければ本格的な球場だって作れただろう。高さも相当のものだ。


「まるで危険指定種同士が戦った後みたい。……困ったものね。暴れん坊ばっかりだなんて」

「その割にはまだ余裕ありげな表情をしておられますが」

「あら、全く取り乱していないあなたがそれを言うの?」

「驚きはしましたよ。さすがに」


 見上げる程に巨大な魔物同士の殴り合い。

 そんな連中の巻き添えを食らえばひとたまりもない。


 あちこちの地面が、壁が大きく崩れてしまっているのがここからでも分かる。

 今こうしている間にも一つ、また一つと《小用鳥》の反応が消えていく。


「さっきの魔物達はまだ上のようね?」

「どうせすぐに降って来ますよ。ほら、言った傍から」


 地面に叩きつけられたのは漆黒の鎧。

 周囲を大きく揺さぶる衝撃で巻き上がった土煙の向こう。地に伏す姿を嘲るように大クラゲが舞い降りる。


 両者の関係性を推察するのはそう難しい事ではなかった。


「参考までに聞かせて頂戴。この状況、あなただったらどちらに加勢する?」

「両方止める以外ありませんよ。下手にどちらかを残したところでそいつに暴れられるだけです」

「気が合うわね」


 挨拶代わりにそれぞれ一撃。


 触手は素直に切り落とされたが即座に再生。

 鎧は例によって魔法吸収を備えていた。


「《薙炎》」

「――炎の精よ。我が剣に力を」


 迫る触手を炎の太刀で焼き払う。


 うねりながらも矢のような勢いを保っていた。

 あえて一本だけ斬らずに逸らすが、分かったのは一本一本に砕ける威力があるということだけ。

 予想を上回る事もなければ下回る事もない。


 鎧に向けられているものも合わせて攻撃に使っている触手はおおよそ二〇〇。

 本体の支えや動かしていないものも合わせたら二倍どころでは済まないだろう。


「《連氷槍》」


 迎撃だけでは埒が明かない。


 絶え間なく放った氷の槍の槍は次第に触手の連撃を押し返していく。

 触手を千切られ、潰された大クラゲが今度は逆に自己防衛に回りつつあった。


 再生能力がある事くらい分かっている。

 今はただ大クラゲに攻撃するだけの余地を与えなければそれでいい。何本砕かれようと構わない。


「――風の精よ。迷える岩を、空へ」


 邪魔さえされなければ、なんでも。


 魔法を取り込む鎧への対抗策がないわけではなかった。

 散乱している岩石は全てこの迷宮を形成していたもの。


 少なくとも魔法の類ではない。

 先日拳を叩きつけた時と同様、吸収される事はない。


 右手に握った剣で斬り裂かれてしまうとしても。


「《旋風》」


 弾は幾らでも転がっている。エルナレイさんと精霊に頼ってばかりはいられない。

 しかし、鎧が最初の一回以降岩に剣を振るうことはなかった。


「きゃっ……!?」


 巨鎧の突進。

 岩の砲弾や氷の槍には目もくれず、大クラゲを突き飛ばして更にその上にのしかかる。


 その余波は俺達まで届いていた。

 またも土煙が舞い上がる。

 鎧が邪魔で《連氷槍》もこれまでのように当てられない。


 わけが分からなかった。

 鎧の魔物に理由がないとまでは言わない。

 敵の敵。それを利用して倒そうとしたのであれば、一応。


 だが待っていたと言わんばかりの反応にはどうにも違和感がある。


「な……なんですかあれ! 魔物と魔物が戦って……!」

「あら、おかえりなさい。ごめんなさいね。さっきから変な物ばかり見せてしまって」

「い、いえ別に……じゃなくて! 分かるように説明してくれません!?」

「見ての通りよ?」


 剣を突き刺す間もなく今度は鎧が突き飛ばされた。

 辺りを揺らしながらよろめく巨大な人型。


 追撃の触手が届く前に《連炎槍》で一気に押し潰す。


「落ち着いたのなら丁度いい。エルナレイさん、お願いしてもいいですか」

「ええ、勿論。ただ……あまり私の役目を取らないで頂戴ね?」

「善処はします」


 どちらかが前に出るべき。

 それはお互い分かっていたことだ。特に今回はただの早い者勝ちだ。


「《魔斬》」


 割り込み、一撃。


 触手を束ねて本体を庇ったようだが犠牲は少なくなかった。


 大クラゲが怯んだ一瞬、更に騎士の剣が触手の束を裂く。


 巨大な剣が俺の真横を駆け抜けた。

 しかし同時にそこは絶対当たらない位置でもある。

 意図してそうしない限り、外すような距離でもない。


(……あくまでもクラゲに攻撃している間は危害を加えないつもりか)


 ある可能性が浮びはしたが確証はない。


「《炎牙烈風えんがれっぷう》」


 それより今は、空へ逃げようとした大クラゲを叩き落とすのが先だ。


 数百の触手を持つ魔物を包むのではなく、押し潰すように。

 炎の嵐は触手を削ぎ落すが決定打には至らない。


「《加速させるか》」


 再び射線上に割り込む。

 一つ残らず触手を斬り落とすために。


 倒すどころかこの始末。アイシャ達に攻撃を向けてしまった。

 届く前に処理したからといってその事実は変わらない。


 未だに炎から抜け出せない大クラゲへの《雷雹流渦》と巨人の斬撃。

 器用に逃れた大クラゲが体勢を立て直し、


「《ジャッジア》」

「《アクア》!」


 そこへすぐさま光と水が襲い掛かった。


「《魔ざ――……ちっ」


 よろめいたかと思えばたちまち触手が怒り狂う大蛇の群れと化す。


 手近な俺を狙いにしたのだろう。

 上下左右から波のように押し寄せていた。


「《渦炎噴》」


 それら上から見下ろし、まとめて一気に焼き払う。

 辛うじて逃れた数本も結局は巨大な剣に押し潰されていた。

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