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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XV その場所は遠いけど
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第611話 現状における最善

 挟み撃ちにした魔法が、躱された。


 ほんの少し、キリハが身体を傾けただけで。

 どこか一か所は的を壊せる筈だった魔法は虚空を貫いた。


「っ!?」

「げっ……!」


 もしもに備えて用意した次の一手も、虚空を薙ぐのみだった。


 絶対に一か所は当てるつもりだった魔法が標的をとらえきれなかったら。


 そんなもしもが現実になることを止められず。

 最後の追撃もキリハに届くことはなかった。


(あ、当たらない……!)


 これ以上の追撃を無理に続けるわけにもいかず、誰からともなくキリハから距離をとる。


 円の形を崩し、一か所に集まるように。

 マユ達がやや前。アイシャ達はその後ろに隠れるように。


 それを見たキリハが一瞬だけ口元を緩めたような気がしたが。

 その理由を確かめる余裕は、さすがにない。


 何せ。


「わっ…………!?」

「またですかっ!」


 キリハの側からの反撃はいつ、どこから飛んでくるか未だに読めていないのだ。


 どれだけ気を付けても目で捉えようがない。

 どうにか躱せはしたものの、慣れと幸運あってこそのもの。


 キリハの《土偶》に慣れているのも、彼がやり方に手を加えていないから。

 その気になればひと捻りを加えることも容易だろうという確信がアイシャ達にはあった。


 そうでなくとも、これまで何度捕まったことか。

 痛みがないとはいえ、別に何も感じないわけではないのだ。


「キリハさんさっきからわたしばっかり狙ってません!?」

「一番機動力のある相手を先に狙うのは当然だろう」

「そんなことだろうと思いましたよっ!」


 中でも特に狙われているユッカが、堪らずと言った様子で叫んだ。


 今でこそ大部分を回避してはいるものの。

 捕縛魔法に狙われた回数が多い分、疲労も蓄積している。


 ユッカが引き付けている間に当てることができれば話は変わるが、現状それも難しい。


「っ、と――……っ!?」


 仕掛けても《土偶》を躱そうとする度に勢いを削がれてしまう。

 潜り抜けた辿り着く頃にはもう、キリハが迎撃の態勢を整えた後。


 たかが2回。されど2回。

 今キリハとユッカの間にある距離ならそれだけあれば十分だった。


(ユッカちゃんに、当てないように――……もっと細く、とか……?)


 援護射撃も難しく、アイシャは頭を悩ませる。


「ふと思ったんだけどさ、キリハ君大丈夫? 仲間とはいえ女の子をあんな風に捕まえちゃって。誰かが見たら色々問題にならない?」

「!?」


 しかしそれも、レアムの爆弾発言によって遮られた。


 どういうつもりかとレアムを見ても、彼女は意味深に笑ってまあまあと返すのみ。


(本当に大丈夫……?)


 そんなレアムの様子を見て真っ先にアイシャが抱いたのは不安だった。


 より正確には嫌な予感と言うべきか。

 切羽詰まったようなものではなく、どこかくだらなさのある嫌な予感をアイシャは抱いた。


「……レアムのやつ、今度は精神攻撃を……」

「いいじゃねーですか。使ったもん勝ちですよ。じゃなきゃやってらんねーってんです」

「普通の相手には効かないだろ、アレ……」


(あぁ……)


 果たしてその予感は正しかった。


 あまりにあんまりな真相にアイシャは思わず肩から力が抜けた。

 やっぱり大丈夫じゃなかった、と。


「だから緩く羽交い絞めさせているんだろう」

「そんな理由だったの!?」


 しかし実際には、キリハも負けず劣らずだった。


 さも当然のように彼が語った理由。

 そこにまさかそんなものが含まれていたとは考えもしなかったし、今でも考えたくない。


 身動きを封じるそれが緩いかどうかは置いておくとしても。

 痛みを感じないための配慮だけでないと知ってしまった以上、複雑なものを感じるのは当然だった。


「あんまり変わらないと思うけどなぁ」

「だったら代案を考えておいてくれ。使えそうなら採用させてもらう」

「遠慮しておくよ。そんな余裕ないし」

「それは残念」


 しかし落胆したところでキリハの手が止まるわけではない。動きが鈍るわけでもない。


 軽口を叩いているレアムもさほど余裕はなさそうだった。


 いま狙われていなくともいつ標的となるか分からない。

 どれだけ警戒していてもキリハ相手には足りないのが実情だった。


(でも……なんとかしなきゃ)


 人数的には、圧倒的にアイシャ達の方が有利な筈なのだ。


 何より、キリハとサーシャがどうしようもない無理難題を吹っ掛けるとも思えない。


(ユッカちゃんの動きを妨害されるわけにはいかない、から……)


 実際、アイシャはあることに気付いていた。


(キリハの魔法に捕まると攻撃できなくなっちゃう……けど)


 ――完全に攻撃手段が消えるわけではない。


「リィルちゃん、レアムちゃん、イルエちゃん」


 少なくともアイシャ自身を含めたこの4人に限っては、その筈だと。


「――はっ? ちょっとアイシャ、あんたそれ……」

「分かってるよ。難しいのは。でも、今ならそれが一番だと思う」


 決して簡単なことではない。


 だからと言って、事前に試せるようなものでもない。


「私はいいと思うよ。楽しくない? ルールの抜け穴ついてるみたいで」

「変なとこに興奮してんじゃねーですよ」


 故に、打ち合わせは最低限。


「――大きめの、いくよっ!」


 仲間達にも全てを伝えることはできないが。


「……?」


 キリハに『何かが起こる』と感じさせられるのならそれで十分。


(私、と――)


 アイシャかリィルかレアムかイルエか。


(――リィルちゃん、なら……!)


 誰か、魔法を扱う面々に向けてくれればそれでいい。


「――《水流》ッ!」


 さすがに乱射とまではいかないにせよ。


「っ……」


 キリハが《土偶》を使わせつつ、攻めの人数を保つ。


「今のうちに!」


 実力の差が埋まるわけではないが。


「わかってます……ッ!」


 現状における最善が、それだと信じて。



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