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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
III 迷宮探索
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第61話 奇妙な広間

「……魔灯晶だけじゃほとんどなにも見えませんでしたねきっと」


 小道の温度はいたって平常だった。

 二人がかりの冷却ではかえって風邪をひいてしまいそうな程。

 案外、元いた通路の温度も戻っているのかもしれない。


「ぁ痛っ!? もう、なんなのよさっきから……」


 凹凸の激しいこの道を今更引き返すのか、という別の問題が生じてしまうが。


 簡単に向きを変えることも出来ない。

 先頭にいる俺でさえ詰まりそうになる。


 高さも幅も本当に俺がギリギリ通れる程度。

 荷物の持ち方一つとっても気を使わなければならない。


「……ぁ」


 前は勿論、後ろで何があるか分からない。


「ま、マユちゃん? さっきから何回も屈んでるけど紐が上手く結べてない……? 私がやろっか?」

「そうじゃなくて、これ、です」

「え? これって……」

「うそ、どこにあったの? しかもこんなにたくさん……」

「周り、です」


 マユの手に握られていたのは鋼色の岩だった。

 それだけじゃない。見れば確かに、それらしい部分が露出している箇所が他にもある。

 おそらく両脇の壁を削れば更に。


(……まさか、魔鋼の?)


 いや、そんな筈はないか。

 魔力に満ちたこの世界なら近い物質が自然発生することも十分考えられるがそのものではないだろう。

 あれは扱いやすくするために何度も手を加えられた合金だ。


「ちょっ、そういうことならもっと早く言ってくださいよ! 取り放題って分かってたら……!」

「もしもし、ユッカさん? 今はそんな目的で潜っているわけではないでしょう?」

「それはそうですけど~!」


 ……変に気負うよりはいいか。

 こんなことで少しでも気がまぎれるのなら悪くはない。


「静かに。そろそろ出口だ。……思っていたよりも短かったな」

「まだ他にもありそう、です」


 それはそうだろう。

 そのまま最奥部に辿り着けていたら楽だったが、長さ的にもまずあり得ない。


「わっ、綺麗……」


 そうして姿を現したのは、妖しく光る水晶が点在する広間だった。

 紫や青。寒色系に彩られた空間は神秘的な雰囲気に包まれている。


 上の階層からは想像もつかない世界に心を許しそうにもなってしまうのも仕方の無いだろう。


「……鑑賞会は後になりそうね」


 しかしそれは大きな罠。

 進みだそうとしていたユッカを止める。


「うわっ……」

「何あれ、気持ち悪……」


 天井から落ちて来たイソギンチャクにも見える魔物が雰囲気をぶち壊したおかげで不満を聞く暇もなかった。

 花にも似ているが、景観には悲しいくらいに合っていない。


「刺激しないように移動したいところではあるけれ――どっ! 見逃してくれそうにないわね。キリハ、先をお願い」

「……牽制もそこまで効果はありませんか」


 触手を風で押し返しながら小走りに進む。

 行き過ぎないように、遅過ぎないように。


 入り口に着く頃には二桁を越える魔法を放ったが諦める素振りはなかった。


「……でもどうします? あの魔物、向こうの部屋にもいますよ。どこかで倒さないと……」


 ユッカの言う通り。

 隣の小部屋の中央にも全く同じ魔物がいる。


 部屋の規模はおおよそ同じ。

 更に続くことも十分かが得られる。

 おおよその配置まで同じとはいえなにがあるか分からない。


「とにかくこの部屋を離れましょう。私が攻撃を弾くわ。あなた達はその間に」

「お願いします」


 正面の攻撃は俺が。


 追い詰められる程の脅威ではない。

 だからといって油断していいわけでもないが。


「倒せる、ですか?」

「勿論。様子を見ながらどこかで――……何?」


 ……一体どうなっている?


「……なんであの人もう先にいるんですか」

「そんなわけないでしょ。攻撃を防いでくれるって――ほら、後ろにいるじゃないの」

「でもほら、向こう。こっち見てますよ」

「ほ、ほんとだ……」


 魔物を挟んだ向かい側。

 更に奥の部屋へ続くであろう道の前に何故かエルナレイさんの姿があった。


 かと言って後ろのエルナレイさんが忽然と消え失せたわけでもない。

 向こうも気付いたようで、前で後ろで何度も目が合った。


「《薙炎》」

「《ホーリーセイバー》」


 迫る触手を右手の剣で薙ぎ払っている間にも。


 伸縮自在。

 一つ一つが意志を持っているかのようにうねる。

 耐久の低さが数少ない弱点だった。


「念のためそのまま後ろに。あの触手は俺達で捌く」


 現状、別の魔法を迎撃に回さなくても十分対処できていた。


 もっともこちらの《火炎》も延びて縮んで形を変える魔物に上手く躱されていたのだが。


(……数を増やすか)


 長々様子見を続けても仕方がない。

 歪んだ空間の謎も分からないままだった。天井から逃げる隙間もないくらいに乱射してやればいい。


「水よ一つに――《アクア》!!」


 アイシャが、皆が、こんなところで消耗しないためにも。


 以前、苦手としていた一発撃ち切りの魔法。

 横に伸びる水の砲弾。


 早撃ちしたために威力は多少下がってしまっていた。

 それでもおそらく瞬間的には《水流》を上回る。


「あっ……!?」


 着弾していれば、その筈だった。

 避けた先には大きく傾けた《魔斬》。しかし。


「と、跳んだ!?」

「……触手を足のように使ったのか」

「感心してる場合じゃないでしょ!? あんた今のエルナレイさんに――!」


 ――心配しないで。


 真っ直ぐこちらを見つめる瞳。落ち着いた表情が全てを語っていた。

 その時にはもう、俺の魔法は消えた後。


「う、打ち消した……?」

「正解。向こうの攻撃も俺が対処するから心配しなくていい。と言っても――」


 既に地上を降りた魔物に再び魔力の斬撃。


「――あくまでそうなったときの話だ」


 標的を逃したそれを同様に相殺。残滓を集め再び《魔斬》。


 さっきは壁に張り付けた触手で無理矢理射線を逃れていた。

 かと思えば壁を打った反動で大きく跳ね返る。一体どんな身体をしているのか。


 この位置で固定砲台を続けたところで見切られるだろうから。


「《万断》」


 隙があれば、攻める。


 手早く仕留めた方がいい事に変わりはない。

 正面から少し外して壁を狙えばいいだろう。


 てっきり空中にいようと触手を地面に刺すくらいの事はやると思っていたのだが。


「一撃って……」

「まだだ」


 真っ二つに裂かれた体は叩きつけられた水風船のように弾け飛んだ。

 しかし地面に散った液体はすぐに集まり、元の形を取り戻す


「……なんか復活したんですけど」

「新しく生えてきたみたい、です」

「あの水なんとかしなきゃダメなのかな……全部凍らせちゃうとか……」

「さらっと怖いこと言うわねアイシャも」


 あながち間違いでもないだろう。

 同じように爆散してくれるか分からないが、もう一度やってみる価値はある。

 エルナレイさんの方も精霊に呼びかけて――


「……?」


 そこで気付いた。


(今、一瞬揺らいで……)


 見間違いだろうか?

 目を凝らしてみたが変わらず俺達の後ろ姿が映っている。


 本来はそれ自体奇妙なことだがその原因は分からないまま。

 妙な力が働いているのは分かるが無茶苦茶に詰め込まれているせいですぐには判別がつかない。


「キリハ、さん。今、向こうのマユ達が消えた、です」

「……マユもか」


 それなら話は変わってくる。

 単なる見間違いでは済まされない。


(試してみる価値はある……)


 手始めにその辺りの石ころ。それと《小用鳥》。


「《斬水》」


 触手を切り裂くと同時に踵で蹴る。

 見逃さないよう目を凝らす。続けて、大袈裟に《小用鳥》を羽ばたかせた。


(ほう……)


 しかし、現れたのは小石と枝のみ。

 鳥の形を保っていなかった。


 エルナレイさんがすかさず魔力を球体に変えて後ろに放るが俺達の元へは一向に現れない。


(……成程な)

(そういうことだったのね)


 確信を抱くには十分だった。

 腑に落ちたような顔を見るに、おそらく同じことを考えている。

 便利なんだか不便なんだか。


「皆、合図をしたらそこの通路を開けてくれないか。あの触手の塊の上で《火炎》を爆発させるから、その時に」

「い、いいけど……何する気?」

「決まっているだろう。このふざけた部屋から脱出する」


 エルナレイさんとタイミングを合わせる必要まではないかもしれない。

 あくまで表向きは魔法を絶やすことなく静かに待つ。


 迫る触手を片っ端から切り落とし、そして。


「――今!」


 刃を振り切ったその瞬間。

 魔物が仰け反ったその瞬間。


「《雷雹流渦》」

「《ジャッジア》」


 振り向きざまに魔法を放つ。


 丁度正面。特級冒険者の幻影に向かって。


「ちょっ――!?」


 しかしその攻撃がお互いに届くことはなかった。


「……へ?」

「あれって……」


 エルナレイさんの姿が揺らぎ、たちまち消える。

 後に残ったのは青い身体をしたゴブリンのような魔物。


 それもたちまち爆散し、部屋の中心を陣取っていた触手の塊も姿を消した。


「……正体見たり、か」


 なんてことはない。

 背後の情景はただ魔物達が見ていたものを見せられていただけのことだった。


 魔法だけは通せるようにしておかなければならない理由があったのだろう。結果、それが仇になった。

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