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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XV その場所は遠いけど
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第603話 盗人をけしかけたのは

「ひぃ、ふぅ、みぃ……見た感じ、なくなってるものはなさそうだね?」


 落下地点を正確に予測し走り込んだレアムが、安堵のため息をついた。


 盗人の姿はどこにもない。

 アイシャとリィルの魔法が消えたそこには、奪われた荷物だけが残されていた。


「迷惑なクセして魔結晶のひとつも落とさないなんてしけたヤローですね、ったく」

「そういう色々台無しな発言は控えようね。まあ気持ちはわかるけど」


 イルエの悪態に苦笑しつつも念のため、アイシャは周囲を探った。


 魔物でないのはほぼ確実。

 故にアイシャは誰かによって呼び出されたのではないかと考えたのだ。


(なんだったんだろう……あれ……)


 しかし『誰か』の姿はなく、アイシャはただただ首をかしげる。


 魔物でないナニカはあまりに妙だった。

 攻撃もせず、荷物を奪って走るのみ。


 アイシャ達の妨害をする機会はいくらでもあった筈なのに、だ。


「それより、どうしようか? サーシャさんもいるから多分信じてもらえるだろうけど……この件、どう報告します? 先生」

「ええ、もう少しでまとまります」


 サーシャに訊ねようにも、彼女は腕を組んだまま。

 レアムの呼称にも触れず、生返事を返すだけだった。


(まとまる……?)


 眉間にしわを寄せて考え込んでいるところを見た後では、聞くに聞けない。


「い、いいじゃないですか……今、そんな話、しなくても」


 走り疲れた様子のユッカが戻ってきたのは、その時だった。


「ご、ごめんね? ユッカちゃんじゃないと追いつけそうになくて……」

「い、いいんですよ……大丈夫ですし、謝ってもらうようなことじゃ、ありませんから……ぜぇ、ぜぇ……」


 ――とても大丈夫には見えない。


 強がっているのは明らかだった。

 肩で息をしているユッカに余力などある筈がない。


「でも、ほんとにすごかった、ですよ? ……お疲れ様、です」

「あ、ありぁとうぉざいぁす…………んきゅっ」


 呂律も回らず、マユから受け取った水を一気に流し込んでいた。


 ユッカがそこまでして、ようやく。

 まるで激戦を乗り越えたようなユッカの様子に、改めて盗人の能力の高さを思い知らされた。


「でも、よく首にかけられたよねぇ。わざわざあんな難易度の高いところ選ばなくても」

「仕方がなかったんですよ……あそこだけ、だったんですから……」

「あー、確かにあの腕はね……」


 荷物を掴ませまいと腕を振り回していた盗人の姿を、アイシャは思い出す。


 傍目から見る分には、奇妙としか言いようのない行動。

 が、しかし、実際にはユッカが伸ばした手を何度も器用に躱していた。


「ほんと、おかしいですよ。おかしいんですよ、あの魔物……荷物だけをとろうとしても避けますし、全然遅くならないですし……なんなんですか、もう……」

「アイシャさんの氷の壁も壊してた、ですし。無茶苦茶、です」


 ――もし、あの盗人と戦うことになっていたら。


 マユの一言で、アイシャは思い出す。

 咄嗟に作り出した壁を強行突破したその姿を。


 最初こそ、見た目のおかしさに気を取られてしまったものの。

 当たりの岩も軽々破壊してしまいそうな破壊力を持ち合わせていたのは確かだ。


「そういう不満は後でいいから。今はとにかく休みなさいってば。……おかげでちゃんと荷物も帰ってきたんだから」


 それが自分たちに向けられなかったことに、今は安堵するしかない。


「皆も、ありがと。取り返すの手伝ってくれて」


 何よりアイシャ自身、先程までの追跡劇ですっかり体力を披露してしまっていた。


「まあフィニッシュはアイシャちゃんとリィルちゃん任せだったし。私なんて拾いに行ったくらいだよ。うん」

「あれ思いついたのもマユちゃんだったしなぁ」

「……そういうことでは、ないだろ。リィルが言いたいのは」

「身の程わきまえてるってことでしょーよ」

「あ、あははは……」


 レアム達も口調こそいつも通りではあったが、あまり余裕はなさそうだった。


 浮かせようとしていたイルエの魔力は目に見えて減っていたし、普段の倍以上の勢いで飛び込んだレアムも額に汗を浮かべている。


 縄を引いていたレイスやトーリャにいたっては、そのまま地面にへたり込んでしまいそう。


「でも、よかった。縄を壊したら台無しになっちゃうから、ちょっと不安だったんだけど……上手くいって」


 魔物の気配がないことにアイシャは胸を撫で下ろし――


「ですねー。あの距離狙うなんて大変どころじゃないですし? 早くも出ちゃいましたねー、成果」


 ――思わず、固まった。


「へ?」

「……出ましたね」


 唐突に割り込んできた声。

 それが誰のものなのかは、さすがに分かる。


「そんな冷たい目しないでくださいよぅ。怪我もなく、順風満帆。もっと喜ぶところじゃありません? これ」

「あなたがそうなるように手を回したから。それ以上の理由が必要ですか?」


 およそ両行には程遠い関係――というよりは、一方的に苦手意識を抱いているようにも見える――のだから、サーシャの反応もおかしなものではない。


「はい……?」

「なんの話、ですか?」


 だがしかし、とんでもなく嫌な予感がした。


「単純な話ですよ」


 誰かに聞かれたところで、答えられるものではない。


「先ほどの魔物をけしかけたのが彼女だったと、そう言っているんです」


 そんなアイシャの予感は、見事に的中した。


「あっ――」

「は?」


 ゆえに、爆発寸前のサーシャの怒りにも気付いた。気付いてしまった。


「んもぅ、答え合わせが早すぎますってば。いいんです? そんなあっさり言っちゃって」

「彼女達だけに向けていたのならそうですね。確かに。そこまでする必要はなかったでしょうね」


 ――止めなければ。そう思っても、この場を収められる言葉はひとつも浮かばず。


「あー……」

「そういうことかぁ……」

「……んなこったろうと思ったですよ」

「……言われてみれば、確かにな」


 おそらく先の展開を察知した4名が、何食わぬ顔で距離を取り始める。


「ユッカちゃんもリィルちゃんも大丈夫です? 怪我とかいろいろ。あれば言ってくださいねー?」


 自覚している筈のヘレンは案の定というか、慌てる素振りも見せず。


「い、いや……」

「ありません、けど……」


 話を振られたユッカもリィルも、困惑するのみ。


「ね、ねぇ。ヘレンちゃん?」

「なんです?」


 どうにか時間を稼がなければと、アイシャが間に割り込んだものの。


「今の話って……」

「んー、9割正解?」


 話題を逸らすことはかなわない。


「何割だろうと構いません」


 ――そうしてとうとう、その時がやって来てしまった。


「……予定を変更しましょう。皆さん」


 思わず震えあがってしまいそうな、冷たい声。


 女神のような微笑みがかえって恐ろしい。


「さ、サーシャちゃ――」


 どうにか思いとどまってもらおうとしたが、間に合わない。


「あのたわけものを叩きのめしなさい!」


「待って!?」


 助けてキリハと、叫ばずにはいられなかった。






 ――もっとも、その当人はというと。


「……間に合いそうにないな。あの様子だと」


 預かっている砂時計の様子を見て、困り果てたように頬をかく。


 こんなことになるなら役割を逆にするべきだったと後悔しながら。



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