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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
III 迷宮探索
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第60話 嫉妬みたい

「え、硬っ。なんですかこれ。おかしくないですか? なんか変な香りするんですけど!?」


 次の日は全員が起きるのを待ってから出発した。


 外の光もないから今の時間も分かんない。

 あいつは『普段なら大体支部に集まっている頃』なんて言ってたけど、時間が分かる道具なんて持ってなかった。


(……あんなにはっきり言うくらいだから大外れってことはないでしょうけど)


 結局あいつからあれ以上の話は聞けてない。

 あんなことを考えるようになった原因も分からないままだった。


 長寿のエルフで本当は何歳も年上だっていうならまだ分かるけど、あいつどう見ても人間なのよね……


「だから迂闊に触るなと……怪我は? 念のため水で洗っておいた方がいい。《水流》」

「あ、弱い……そういう使い方してもいいんだ……?」


 ああやって器用に色々魔法使うことも説明できると思ったんだけど。


 変な幽霊を呼び出したり。

 小鳥を大量に飛ばしてみたり。


 かと思えば素手で鎧を壊しちゃうし。ほんとなんなのよあいつ。


「あの、キリハさん? 洗わせてもらって言うのもなんですけど、怒られません? 他の魔法使いから」

「勢いの強弱は基本中の基本だろう。それを利用して何が悪い。飲み水の節約にもなる」

「普通は魔力の残りを考えるのよ普通は。なくなったら最悪あそこの泉に採りに行けばいいじゃないの」

「それはそれ、これはこれだ」

「どれがどれなのよ」


 ……全然気にしてなさそうなのがムカつく。


 昨日みたいにならなくなったからまだいいけど、何かないわけ? これじゃ本当に前までと同じじゃない。


「その議論はまた今度にね。……それにしても、何かしら? こんなに分かりやすいものなら既に見つかっていそうなものだけれど」

「では今まで見つかっていなかったんでしょう。例の干渉攻撃の後で起きた、とか」

「あなたもそう思う? 補強が目的とは思えないのだけれど、妙なものね」


 どうせ顔に出さないとは思ってたけどまさかほんとに平然としてるなんて。

 別に困った顔が見たかったわけじゃないけど、ないけど!


(まさか忘れたわけじゃないでしょうね……)


 あいつに限ってそんなことないと思うけど。


「そういえばこんな色してませんでした? イルエさんが見つけたあのニュルニュル」

「透けてたってキリハが言ってなかったっけ。でも固まったらこんな感じ、かも……?」

「ですよね、ですよね? リィルもそう思いませんか?」


 昨日の夜みたいな顔されるのは嫌だけど、もうちょっと分かりやすく反応してくれたっていいじゃない。


(……勇気出したのに。バカ)


 こんなことで怒って……まるで嫉妬してるみたいじゃない。


「リィル? リィルー? もしもーし?」


 ない。そんなのない。絶対違う。

 確かに頼りにはなるけど別にそんなつもりで言ったわけじゃ――


「リィル、さん? 聞いてる、ですか?」

「ぅえっ!? な、何!?」


 あいつに聞かれて――ないわよね。ん、大丈夫。

 ……なんでこんなことで安心しなきゃいけないのよ。


「うわ、全然聞いてないじゃないですか。あそこですよあそこ。イルエさんが見つけた魔物っぽくないですか?」

「へ? って、あたし見てないでしょそれ。聞かれても分かんないわよ」


 なんか奥にいた本体も凍らせたとか言ってた。

 遠くまで届かせようと思ったら色々やらなきゃいけない筈なんだけど、あいつ低級魔法使ってたみたいなのよね……


「そういえば、爆発しない、ですか?」

「……はい?」

「昨日、ユッカさんがそう言ってた、です」


「「「…………あぁっ!?」」」


「ききききキリハさん! 頼んでばっかりで悪いんですけどそれ――!」

「大丈夫だ。防壁で囲っても活性化する素振りも見せない。魔力もほとんど残ってなさそうだ」

「あ、だから固まって……」

「だろうな。おそらく」


 こういう時の仕事の早さはさすがだわ……いつの間にやったのよそんなこと。


「これ、結局どうしますか? 一応持ち帰ることも出来そうですが」

「壁ごと切り出しましょう。お願いしていい?」


 ……なんで《魔力剣》を壁に刺してるのよ。なんでそのまま削ってるのよ。


「ちょっとあれ大丈夫なの? 今の音」

「壁が崩れてないから大丈夫なんじゃないですか? 心配性ですねリィルは」

「ならいいんだけど。って、誰が心配性よ」

「いつものこと思い出せばわかりますよ」

「その言葉はあんたにそのまま返すわ」


 ちょっと目を離したらすぐ危ないことに首突っ込むくせによく言うわね。


「他の冒険者が見つかればまた何か分かるでしょうけど……どう? あなたの方は」

「今のところは何も。[ラジア・ノスト]も相当急いでいるようです」

「ただ、その割には戦闘の痕跡がないのよね。魔物の姿もあれ以来全く見ていないわ。本当にどうなっているのかしら」


 昨日、鎧を着た魔物と戦ったきり。

 あいつはそうでもないんでしょうけど、ずっとこのままでもよかった。


「……この下は丁度通路が……」


 ……なんで地面なんて叩いてるの。あいつ。


「き、キリハ? ここを壊すつもりじゃないよね……?」

「あまりおすすめしないわ。あの壁のように修復される保証もないでしょう?」

「分かっています。少し試してみただけです」


 ……ああいうところから直させた方がいいかもしれないわね。


 前もそう。奥の様子を調べる岩が欲しいからって壁を壊そうとして。

 普段はいろいろ気を付けてるくせに。なんでこういうところで突飛なことするのよ。


「ところでリィル」

「今度はなによ」


「昨日、キリハさんとなに話してたんですか?」


「…………ぅん?」


 え? え??


 何。なんで。昨日はみんな寝てた筈でしょ!?


「だから夜ですよ昨日の夜。夜中に起きてこっそり話してたんですよね?」

「ま、まさかあいつ!?」

「違う、です」

「マユちゃんがね、リィルちゃんが夜中に抜け出すところを見たって……」

「……あたしのせい!?」

「まあそうなりますね」


 嘘、みんな寝てたと思ってたのに。全然気づかなかったんだけど!?


「ほら誤魔化さずに早く話してくださいよ。ほら」

「べ、別に!? 何もなかったわよ、何も!」

「必死なところが怪しい、です」

「ねー」

「そんなことで結託なんてしなくていいから! 頷き合ってるんじゃないわよ!」


 大体、何かあればこんな……じゃなくて!


「とにかく本当に何もなかったから! 何も!!」

「そんなことじゃないと思うよ? キリハ、昨日より雰囲気が柔らかくなったもん。……そうなったのも私達のせいだけど……」

「ほら、アイシャだってこう言ってるんですよ? 早く白状してくださいよ、早く」

「だからほんとに何もなかったんだってば! あいつ見てたら分かるでしょ!?」

「キリハさんなら顔に出さなそう、です」


 そうだけど、そうだけど! ああもう肝心なところで鈍いんだからあいつ!


「隠しごとはよくないですよ? 話せば楽になりますよ? ね?」

「だ~か~ら~!!」


 なんでこんなことになるのよぉ――――っ!!






「まさかここがどこか忘れているわけじゃないだろうな……」


 随分賑やかにやっているようだが。

 SOSには答えられそうにない。……そこで睨まれても。


「あら、結局今日も手厳しいままなのね? いつもならもっと肯定的な言葉が出てくるところでしょう?」

「場所と状況を考えた上での判断です。……あんな光るキノコまで生え出して、いよいよ何が起こるか分からない状況なんですから」


 改めて見てみても何が何だかさっぱり分からない。

 薬花のように魔力を当てたわけでもないのに。


「……繁殖期かしら」

「言ってる場合ですか。あれ、燃やしても構いませんよね?」

「防壁で囲んだ部分以外は、ね。何が起きるか分からないから気を付けて」

「はい、勿論」


 研究用のサンプルとしてどれだけ価値があるのか分からないが。


 俺自身、昨日の宣言の整理がつけられていない。

 曖昧な態度をとったところであの尋問会が収まるとは思えなかった。


「ほ、ほら! あっちで何か見つかったんじゃない!? 行った方がいいわよ!」

「まあそうですね。話の続きなんてあとでいくらでもできますしね」

「もういいでしょ!?」


 ……はっきりさせても場合によっては落ち着かないかもしれない。

 何がそんなに気になるのだろうか。


 特にアイシャは昔の俺のことも多少は知っている筈……いや、むしろだからか?


「それ、食べられる、ですか?」

「ごめんなさい。これは調査用の資料なの。安全性が確認されたらどこかの商店が取り扱い始めるかもしれないけれど……危険があるかもしれないし、残りは彼に燃やしてもらったのよね」

「!?」

「何故そんなこの世の終わりのような目で俺を見る?」


 言っただろう。まだ何も調べられていないと。

 まして何を吐き出すか分からないというのに。


 チャレンジャーにも程がある。未知の毒でも含んでいたらどうするんだ。


「美味しいものならストラに戻ってから食べればいいじゃない。あたしでよかったら付き合うわよ」

「私もいい? 帰ったらおじさんにいいお店聞いておくね」


 マユにそのつもりがあったかは分からない。

 だが結果としてリィルを問い詰めるような雰囲気は完全に消し飛んだ。


 このまま何もなければ、慎重に探索を続けられたのだが。


「…………なんかちょっと暑くないですか?」

「え、そう? ……あれ、言われてみれば……」


 無茶苦茶にも程がある。


「――氷の精よ」

「《冷却》」


 ユッカの指摘した通りだった。

 明らかに温度が急上昇している。全く落ち着いてくれそうにない。


「外に出ないように気を付けてね。温度だけならレトムア砂漠にも負けないわ」


 間違いない。

 原理は不明だがこの急上昇、はっきり言って異常だ。


「……防衛機能が今更働き始めたのかしら」

「俺達が対象、とも限りませんよ。この様子を見るに」


 それどころか冒険者に向けたものかも疑わしい。


「少し急ぎましょう。どうにも嫌な予感がするわ」

「同感です。地上でも何が起きているか……」


 少なくとも《小用鳥》は無事。

 だがそれ以外に目安はない。


「あの、皆さん」


 ある相談を持ち掛けようとしたところでマユの声。


「あそこに穴がある、ですよ?」


 見れば、丁度人一人通れそうな小道がそこにはあった。

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