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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XV その場所は遠いけど
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第594話 慌てることなく

「まあまあまあ。1回目から完璧にやらなくたってよくないです? いざって時はこの人に責任丸投げできますし」


 疑り深いリィルを諭すように、ヘレンは言った。


 サーシャさんが戻らない理由を隠さないのは、ある意味当然。

 確信に近いものを抱いているリィル相手にはその必要もないだろう。


 俺に責任を擦り付けるという部分に関しては同意しかねるが。


「一発芸の件でお前も同罪だろう」

「そこのところは大丈夫ですよぅ。あの子がターゲットにしてるのはリーダーさんですから」

「どこがどう大丈夫なのよ」


 度々睨まれてもお構いなしのヘレンに言っても響かないだろう。

 火に油を注ぎかねない発言がいい証拠。


 失礼極まりないというか、なんというか。

 睨まれる原因の原因を作ったその瞬間がなんとなく想像できてしまう。


 せめて少しでも気にする素振りを見せていたらまた違っていただろうに。


 妙なところばかり真似しなくても――なんて考えが頭に浮かぶ。


「とにかく、危ないことになってるわけじゃないのね? ……大丈夫なのよね?」


 おかげで、頭の中で猛抗議を受けながら頷く羽目になってしまった。


 こういうところは、後で報告しておくべきなのだろうか。

 定期的に扉の方へ視線を向けているアイシャのことも。


「まあぶっちゃけちゃえばそうなりますねー。次がそうとは限りませんけど」

「不安を煽るようなことを言うんじゃない」


 ……ヘレンの余計な発言も、報告しておいた方がいいかもしれない。


 次の可能性まで示唆してしまって。

 あると分かり切っているにしても、わざわざ言わなくていいだろうに。


「(でも実際、このくらいの反応は予想してるんじゃないです? むしろここで『誘拐された!』とか言って焦る子いたら逆に心配ですよ?)」

「(だろうな、多分。……状況次第で、もう少し危機感を持たせることもできたとは思うが)」


 幸いというか、皆に焦った様子は見られない。


「(その辺りは追々って感じなんですかねー。方針的に無理はさせなさそうですけど。聞いてないんです? 何も)」

「(生憎これっぽっちも。俺達に知られていない方がいいこともあるんだろう)」

「(誰かさんが当日まで黙ってたせいだと思いますよー)」


 直接動いていないだけで、リィルのように何かは感じているのかもしれない。


「怪しいわね……」


 ……それでもと思って声を抑えた結果、見事リィルに疑いの目を向けられてしまった。


「いやいやいや、振っても叩いても何も出ませんよー? 疑うだけならこの人だけにしてくれません?」

「またそうやって矛先を逸らす」


 しかも先程まで相談していた筈のヘレンはこの調子。


「……あんた達がその調子なら、大丈夫なんでしょうね。本当に」


 リィルが納得してくれていなければ、どうなっていたことか。


「いえいえいえ、分かりませんよー? 脅されてるかもしれませんし?」

「相手をその場で叩きのめしそうなやつが今さら何を」

「その言葉、そっくりそのまま丁寧にラッピングして送り返しておきますね?」


 おかげで()()、お口が悪くなってしまって。


「……どっちも脅す側でショ……」


 沈黙を決め込んでいたそいつにまで、ため息をつかれる始末。


「人聞きの悪い」

「そうやってすぐ反応するからだヨ!」


 そんなことはないと返しても、納得する筈がなく。


「あの時だって好き放題やってたじゃなイ! 怖い顔して詰め寄って来たシ!」


 結果、またしてもあの時のことを掘り返された。


「なんのことだか」

「しらばっくれても無駄だヨ!」


 そこでつい、惚けてしまったせいか。


「大体、こんなおっかいないのを脅すなんて頼まれてもやりたくないネ! どんな報復をされるかも分からないのニ!」


 監視対象となったそいつの悪態は止まらない。


「さすがっていうか、すっかり悪評が定着しちゃった感じですよねー。これで少しは分かったんじゃないです? いろいろ」

「他人事のような顔をしている場合か?」


 が、せめてヘレンが便乗しなければ――なんて言っている場合ではなかった。


「おっかないの、ねぇ……」


 まさに今、話を聞いたリィルがもの言いたげな視線を向けていたから。


 その目が監視対象のそいつに向けられる筈もなく。

 お説教の前触れを感じずにはいられない半眼で俺を見ている。


「無実だ」


 その姿を見て、反射的に白旗を挙げ――


「まだそこまで言ってないでしょうが」


 それが愚かな反応だということをすぐさま思い知らされた。


「聞かなくたってなんとなくは分かるわよ。前に言ったこと、まさかもう忘れたんじゃないでしょうね」

「……そうだった」


 ……むしろ、分からないわけがないか。


 天条桐葉について知る襲撃者のことを除いても。

 自然と見えてくるものがあるのだろう。


 あの迷宮での一件から時間が経った今なら、なおさら。


 なんともありがたい話。


「……露骨に態度を変えたネ」

「何を当たり前のことを」


 外野に何を言われようと、痛くもかゆくもない。

 邪魔をされたという感覚が残るだけで。


 こいつや、たとえばギルバリグルスのような相手にそんな態度をとれるわけがない。とりたくもない。

 リィル達に向かって、敵へ向けるそれをぶつけることがないのと同様に。


 頼まれたところで御免こうむる。

 さすがにそんな輩はいないと思うが。


「こういう性格だからかえっておっかないんですよぅ。嫌なら止めてくださいね? 余計なこととか」

「できないようにしたのはそっちでショ……」


 ……おちょくるように『おっかない』と言う輩もそうそうないだろう。


 割り込んできた相手を見てげんなりした青い目のそいつの気持ちも分からなくない。

 理由は同じでなくても、最終的に抱いたものは似通っているだろうという確信があった。


「落ち込まない落ち込まない。態度次第でちょこっと緩めるくらいならあるかもしれませんから♪」

「そういうのが脅しだって言ってるんだヨ! 怖いんだってバ!」


 だから正直、同情しないでもない。


 ヘレンの言い分もうなずけるから、全面的に味方するつもりもないが。


「んもぅ、なんでそんなひねくれた受け取り方しちゃうんです? 別に取って食おうってわけじゃないのに」

「そんな言葉信じられるわけないじゃなイ!」


 実際、大人しくしておけという意味も含まれてはいただろう。


 現状、こいつにそこまでの力はないものの。

 釘をさしておく意味くらいはある。


 ……やり方が適切かどうかはまた別の話。


「な、なんの話をしてるの……?」


 ――そんなやり取りが続いていたのだから、アイシャが困惑するのも当然だろう。



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