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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
III 迷宮探索
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第58話 元凶を探して

 一度綻び始めてしまえばあとは簡単だった。


 元々、周囲への影響やその他諸々を踏まえた上で出力の高い魔法を選んでいた。

 多少時間がかかろうと、壊せない理由はどこにもない。


「「「…………」」」


 ルークさん達は既に出発した後。

 どんなに急いでも一日二日で戻るのは不可能。


 その間に最低限、今回の事態を引き起こした元凶を叩くことさえできれば。


 冒険者達が目を覚ました時のために残っていた物資を少し整理しておいた。

 集まった内の大多数は手持ちの食料と飲料でどうにかなるだろうから、余計な心配かもしれないが。


(……まだ何の連絡もなしか)


 手元の《魔灯晶》だけを頼りに進む薄暗い洞窟の中。小さな凹凸の激しい道のり。


 未だに[ラジア・ノスト]の姿はなかった。

 追いついていないのは勿論、向こうが引き返していないということ。

 元々はおおよその調査のみを依頼していたそうだが、もうそれでは済まないだろう。


 最深部への到達を以て世間的には踏破という扱いをされるが、実際にはその限りではない。


 最奥部に怪物の姿をした主が待ち構えている事もあれば、変質した特異な物質等が発見されることもある。

 更には一通り調査し尽した筈の迷宮から後日、全く別のルートが見つかることも決して珍しくはない。


 迷宮内で発動した魔法の残滓すら養分に変え生きながらえるという奇々怪々のデパート。

 力を糧に前述の主すら時には蘇らせてしまう。

 特定の物資を変質させてしまうことまで。


 リソースが完全に底を突いた時には緩やかに崩壊し、やがて完全に姿を消す。

 それもあってか、全てを語れる程の論説は未だに存在していないのが実情だそう。


「えっ、と……その、怒ってる?」

「怒る? 何に対して。まだ元凶も見つかっていないのに」


 そんな不安げに声をかけられる理由が分からない。

 怒りを向けるような相手は今のところどこにもいない。

 たかが予定が狂った程度で。何を今更。


「(……どっちですかね?)」

「(どう見ても怒ってるでしょあれ。ほら見なさいよ。だから止めようって言ったのに)」

「(なんですか。そういうリィルだってこっちに来てるじゃないですか。今さら一人だけ助かる気じゃないですよね?)」

「(ないわよ。あんたあたしをなんだと思ってるわけ?)」

「(どっちにしても怒るのは仕方ない、です)」


 強いて言えば、一人。

 無謀な提案を退けるどころか受け入れ、挙句わざわざ人を先に行かせて妙なサプライズを仕掛けようとした特級冒険者くらいのもの。


「結局、何のためにこんな事を? 危険性を先に提示したのはエルナレイさんだった筈ですが」

「私も最初は断ろうと思っていたわ。でもあんな真剣な表情を見せられてしまったんだもの。協力してあげたくなるものよ」


 確かにエルナレイさん程の能力があれば多少人数が増えたところで後れを取るような事はないだろう。

 まして今回は以前の鎧の姿も見当たらない。当然、他の魔物も。


 おそらく[ラジア・ノスト]によって討伐されたのだろう。最初からいなかったとは思えない。

 見かけ上は安全と言えなくもない。確かにそれはそうだ。

 怪我をする可能性は著しく低い。逆に、よくてそれだけ。


「……どれだけ決意を固めても、見合うだけの力がなければその差に打ちのめされるだけですよ」


 現実を見せつけられてしまうことに何ら変わりはない。


 下らない興味本位でない事くらい分かる。

 だがそれならそれで他にやりようは幾らでもあった。

 少なくとも、最前線で力を振るうことだけが戦いではない。


「あの場で力を託したのはその差を埋めるためだったと……そう言いたいのかしら?」

「だとしたら、何か? あの時はそうするしかなかっただけです」

「あぁ、ごめんなさい。責めているわけじゃないの。ただ……遠ざけてばかりいても、何も変わらないわよ?」

「何にでも巻き込めばいいというわけでもないでしょう」


 今回のような件は特に。魔戦ともなれば最早論外。


「《魔力剣》」


 いつどのタイミングで攻撃を仕掛けられるかも分からないというのに。


(矢……? 撃ってきたのは――)


 斜め先。見覚えのない小さな窪み。


「《流穿》」

「《水流》!」


 おそらく変化し新たに作り上げられた迎撃装置。

 わざわざ壁の一部を削り出してまで撃ち出していたのだ。


「あんなところから……え、なにかいました?」

「あ、ううん。そういうのが見えたわけじゃなかったんだけど……あそこから飛んで来たみたいだったから」

「よく分かりましたねあんな一瞬で」


 射手の姿はない。発射される前に捕捉しようにも地味に難しい。

 二本の水流で破壊はできただろう。他に同じ罠が仕掛けられていても同じように対処してやればいい。

 探索用の小鳥が見逃されている理由はよく分からないが。


「ね? 彼女達もあなたが思っているほど弱くはないでしょう?」

「……確かにそうなのかもしれませんね。ですが――」

「心配しなくても責任は私がとるわ。……まさかそのままになんて、しないわよね?」


 どうにも考えが読めなかった。


 少なくともエルナレイさんにメリットがあるとは思えない。

 真剣な表情だったから、と言われてああそうですかと流せる筈がなかった。

 何かしらの目的はある筈。まさか本当に情に絆されたわけでは――


(……お出ましか)


 視線の先。

 奥へ続く道を塞ぐ様に佇む人型の白炎。

 一太刀でたちまち消えてしまいそうな、不安定な存在。しかし内包する魔力はそこらの冒険者の比ではない。

 おぼろげな炎も所詮は姿を隠すための偽りの姿。


「……蓑の下に隠れた本体次第、と言ったところかしらね」

「分かっていますよ」


 着実にこちらへ近付いていることも。

 警告をするでもなく一直線に。


 以前、地底湖に現れた幽霊の色違いに見えないこともない。


「……大した速度だ」


 もっともあの霊体も、一気に詰めて刃物を突き出すような事はしなかったが。


 おそらく刀剣類。

 すぐ退かれてしまったが、斧にしては軽く、槍にしては刃が長かった。


 いずれにせよ、あの衣を引き剥がさない事には始まらない。


「後ろは頼みます」


 刃を潜り風を撃つ。


 火の粉を散らすがそれ以上の変化はない。

 遠ざかる白炎目掛けて降り注がせた雨も大した効果は得られないまま。


「《魔斬》」


 こちらの斬撃も見切られる。

 まるで既に何度も目にしていたかのように。


 そして、また迫る。


「《渦水噴かすいふん》」


 地面から、壁から噴き出し交差する激流の元へ。


 更に氷の壁で進路を塞ぎ、結果白炎は地に伏した。


 本来は屋外での使用を想定していたらしい魔法。

 実際、あの教団の施設の天井を怪物諸共貫いた事もあった。

 理解の浅さは《小用鳥》にも劣らないが、威力の調整は難しいものではない。


 蓑を引き剥がすことこそできなかったものの、これ以上の威力は出せない。洞窟に被害が出てしまう。


「《斬水》」


 そもそも捕らえた時点であの魔法の役目は終わっている。


 しかし、水の刃が白炎を裂くことはなかった。


「ち……っ」


 突如現れた銀の剣。

 首元を狙った刃を《魔力剣》で弾く。


 自身を押し潰そうとしていた激流すら押し退けた空洞の鎧はすかさず飛び退いた。

 追撃の《火炎》も鎧の吐く焔にかき消されていく。


 背後からの斬撃も、しっかり受け止めて見せた。


(この反応速度……以前の鎧とはまた別の……)


 より的確に、より速く。


 お互いの刃が何度もぶつかる。


 潜り、流し、また衝突。

 その間にも鎧は器用に俺の眼を狙っていた。


「《雷雹流渦》」


 自身の隙を晒してでも。


 剣を受け止め腹部に当てた左手。

 轟雷と吹雪が混じり合って鎧を襲う。


 踏ん張りも効かず、押し出される白の鎧。


「えっ……」


 おかげであそこまで攻めの姿勢を崩さない理由もすぐに分かった。


(……また随分と上等な能力を)


 魔法の吸収。


 起き上がった鎧には傷のひとつもなかった。

 それだけなら単に異常な強度の持ち主で片付いただろう。


 しかし、波紋を浮かべ揺らぐ表面に小さな電流を見てしまった今、単に防御力が高いからでは済まされない。


 あの《渦水噴》も単に押し返したというわけではなかったのだろう。

 番人一体になかなかの大盤振る舞いだ。


(《魔力剣》が打ち合えている以上、あの剣はおそらく別……)


 それか、中途半端に魔力の状態を保っているおかげか。


「《加速》」


 判断はできない。が、こんな状況で吸収の限界を探っても仕方がない。

 最悪の場合、洞窟に養分を与えてしまうだけなんてことも十分にあり得る。


「……そういうことなら」


 力任せにぶん殴る。ただそれだけ。


 鎧が剣を構える寸前。最低限の防護を受けた右手が白の鎧を貫いた。

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