表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XIV 有無を言わさず
577/691

第577話 両親へ向けた

「もう1回帰っていいですか?」


 以前の態度からは想像もつかない言葉がユッカの口から飛び出したのは、ストラに戻った翌日のことだった。


 昼食には少し早いこの時間。

 特に理由もなくリビングに集合していたところに、ユッカがやって来たのだ。


 当然、ホームシックなどではない。

 座り切ったその目を見れば、碌でもない理由であることはすぐに分かる。


「ど、どうしたの? 昨日帰ってきたばっかりなんだし、もうちょっと待ってもいいんじゃ……」


 ユッカの様子に気付いた上で、それでもアイシャは訊ねた。


 ユッカの変貌の原因を、なんとなく察した上で。

 あくまで宥めるための前振りとして、ユッカに訊ねた。


「だめです。今すぐ行きます」

「そこまで!?」


 しかし今のユッカが、言葉で止まるとは思えない。


 やたらと力のこもった声に、アイシャは愕然としていた。

 リィルもマユも、口を挿むに挿めないといった様子。


 絶賛大暴走中のユッカは何を思ったか、俺の方を見ると。


「そうだ、キリハさん。今日こそ使わせてくださいよ、あの権利。キリハさんなら今日中に着けますよね?」


 先日とはある意味真逆とも言える提案を持ちかけてきた。


「門の上を通れば気付かれないですし。ちょっとの速度なら我慢しますから。いいですよね? ね?」


 ユッカの迫力は、あの時の比ではない。


 ようやく折り合いをつけられたと思ていたのに。

 一体どうしてこんなことになってしまったのか。


「でもでも、降下したらどうしても人目に付いちゃいますよー? 騒ぎになったらおうちに帰るどころじゃなくないです?」


 見かねたヘレンがやんわり釘を刺そうとしてくれたものの。


「そこはヘレンも協力してください」

「えぇえええ~……?」


 そのヘレンにすら堂々と協力を求める始末。


 これにはさすがのヘレンも引き気味だった。

 させた本人の目に映り込んでいないのが悔やまれる。


 ……なんて、悠長なことを言っていられる場合ではなく。


「いま言ったやり方なら大丈夫ですよね、キリハさん。……できますよね?」

「その前に少し落ち着いた方がいいだろう……」


 せめてと思って、そんな言葉をかけてはみたものの。


「これが落ち着いていられますか!!」


 むしろその言葉が、最後の一押しになってしまったらしかった。


「なんですか。なんなんですか、これ!!」


 我慢の限界だと叫んだユッカの腕には、覚えのない木箱が抱えられていた。


 決して大きくはない。

 抱えるユッカの顔が隠れるようなこともなかった。


 ただ、ユッカにとって問題のある中身であることに変わりはなかったらしく。


「おかしくないですか。いくらなんでもおかしくないですか!? なんでわたしたちが着いた次の日に届くんですか!?」


 拠点に戻った翌日に届いたということも、ユッカにとっては見過ごせないようだった。


 計算しておけば、できないことはないだろう。

 帰りも徒歩だったわけだから、その気になれば俺達が帰る前に着くよう依頼することもできた筈。


「ま、まあまあ……。ユッカちゃんのことが心配だったからだよ、きっと」

「心配……?」


 復活したアイシャが宥めようとしたものの、やはり効果はない。


 それどころかアイシャの言葉に全力で首を傾げていた。

 誰も止めなければそのまま投げ捨ててしまいそうな勢い。


 さすがに投げ捨てるようなことはしなかったものの、代わりに。


「封筒が入ってるんですけど、なんの心配なんですか? これ」


 乱暴な手つきで、中身の一部を取り出した。


「「「……」」」


 嫌そうな顔のユッカに、かけるべき言葉が浮かばない。


 ご両親による嫌がらせなんてことはないにしても、反応に困る。

 何故それをと思わずにはいられない。


「えっ、と……他のものにお金を使ってほしかったから……とか?」


 どうにか、アイシャがそれらしいものを絞り出しはしたものの。


「だからって入れます? こんなにたくさん」

「…………」


 続けて取り出された量には、開いた口が塞がらないようだった。


 見えただけでも、20通分はあったと思う。

 何故こんなにと思うユッカの気持ちも、なんとなく分かってしまった。


 生の食材を入れるのは難しかったにしても。

 他に何かあっただろうという気持ちは、さすがに分かる。


「で、でも、他にもあったんだよね? なんか、こう……いろいろと」

「聞きます? 全部」


 ユッカの笑顔は、暗かった。


 にこやかとしか言いようがない筈なのに、ひどく冷たい。

 自然と背筋が冷たくなる、不気味な笑み。


「……リィル? これは一体」

「…………知らないわよ」


 それを見てとうとうリィルまで匙を投げてしまった。


 この反応、心当たりがないわけではないだろう。

 むしろ、心当たりしかないからこその反応か。


 ふいっと顔を背け、仕舞いには耳まで塞いでしまう。


 そんな幼馴染の様子には目もくれず、ユッカはまたしても距離を詰めてくる・


「とにかく、そういうわけですから。いいですよね? キリハさん」

「さすがに却下」


 が、さすがにそんな提案を受けるわけにはいかない。


 すぐには引き下がらないかもしれな――


「いいですよね?」

「だから却下と」


「い・い・で・す・よ・ね?」


「何故そこまでして……」


 ……引き下がらないどころではなかった。


 有無を言わさず連れ出されたことへの報復だろうか。


 まるであの時のアイシャを彷彿させる態度。


「あの、ユッカさん。そこまで、しなくても」

「だめです。やっておかないといけないんです」


 マユの静止も、やはりというか届かない。


(……どうするんです? この状況)

(どうしようもないだろう。ここまでくると)


 ヘレンが視線で訴えてきたが、さすがにこの状況をどうにかできるような手段が頭にある筈もなく。


 ある程度、好きにしてもらうしかないだろう。

 さすがにこれからフルトへとんぼ返りするわけにもいかない。


 ご近所に届くこともないそうだから、無理に止めない方がむしろ賢明。


「なにを考えてるんですかぁああああっ!!」


 故郷の両親に向けたユッカの叫びを止める術は、俺達も持ち合わせていないのだった――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ