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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XIV 有無を言わさず
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第574話 妥当な措置

「……えっ、終わった? もう?」


 間もなくやって来たアイシャ達はそれを聞いて、拍子抜けしたように言った。


 とはいえ、それも仕方のないことかもしれない。

 異変が起きたと騒ぎになっていたのに、いざ集まってみたら()()だったわけだから。


「そうなんですよぅ。この人がまず行っちゃって、その後ユッカちゃんも突撃していってぇー……」


 どうやら協会も、全てを説明したわけではなかったらしい。


 アーコへ向かっていた住人が襲われたという話だけ。

 表向きにはおそらく、護衛と近くとを通りかかった冒険者によって何とか解決されたということになるだろう。


 想定通りと言えば、想定通りの対応。

 ……戻る途中に声をかけられてはいるから、協会が本当にそう思っているわけでないことも確認済み。


「師弟でやることなすこと似通っちゃうのも考え物ですよねー、ほんと」

「誰が師匠だ」

「弟子は違うと思うんですけど」


 おかげで、こんなヘレンの冗談にも付き合うことができている。


 この後は少し厄介な話になるだろうから、このくらい気楽な方が俺としても丁度いい。

 ……その辺りを察しているのだから、もう少し別の話でもいいだろうと思わなくはないが。


「大体、ヘレンはどうなんですか。ヘレンは。ヘレンだって来たじゃないですか」

「あれはこの人に頼まれたからですし」

「俺が頼んだ時にはもう町の外にいただろう」


 おかげで案の定というか、話はそういう方へと向かってしまった。


 アイシャ達が疑問に思っているだろうから、する必要があるというのは分かるが。

 こうなることくらい目に見えていただろうに。


「……なんでこういう時の連携は息ぴったりなんでしょうねー?」

「ほんとのことしか言ってないみたい、ですけど」

「あ、あははは……こういう時だけじゃないと思うけど……」


 何やら不満そうにしているが、自業自得。

 言い出したのは他でもないヘレン本人なのだから。気の毒とは思わない。


「でも……よかった。3人とも、怪我もなくて。他の人も大丈夫……なんだよね?」


 少しはアイシャのこういうところを見習ったら――とも、言わないが。


 ヘレンも、この状況にほっとしていないわけではないだろう。

 怪我人こそ出たものの、最悪の事態は免れたと言っていい。


「そこは安心してくれちゃっていいですよー? この人も大急ぎで向かってましたもん。ねー?」

「さすがに、全員無傷とはいかなかった。……あの様子なら、安静にしていればちゃんと仕事にも復帰できると思うとは思うがな」

「それなら十分だと思う、ですよ?」


 もう少し早ければと言うのは、さすがに贅沢な話。


 そもそもあの連中が余計なことをしなければ、こんなことにはならなかった。

 この一件に関しては、正直、魔物達も被害者だったと言える。


「……まあ、そういうことならいいんだけどさ……それは」

「……そこ以外に、あるだろ。問題が」


 事今回の一件に限っては。


「………………」


 全ての責任はこいつと、こいつを生み出したという博士が背負うべきだろう。


 意気消沈しているが、やらかしたことに比べたら軽いくらい。

 そもそも、そんな振る舞いができる立場でもないだろうと言ってやりたいくらい。


「なんていうか、もう全部諦めましたって感じの顔だよねぇ。何をしたらこんな顔になるのさ。キリハ君」

「どうせいつもみてーに滅茶苦茶やったんでしょーよ。自業自得だとでも思わせときゃいいんじゃねーです?」


 仲間達も気になっていないわけではないらしかったが、同情まではしていなかった。


 俺に向かって『そこまでしなくても』とは思っているだろうがそれはそれ。

 もし俺が倒したと言っていたら、ここまで気に留めることもなかっただろう。


「まあ、そういうことだ。具体的な処遇は協会にも相談して決めることになっているが」

「決めてないのに連れ歩いてるんですか……」

「檻に放り込むよりは誰かが見張っておいた方がいいだろう、と」

「そんな気力も残ってないでしょ。もう」


 むしろ手間のかかる選択をしたと言ってもいい。


 野放しでないとはいえ、いい顔はされないだろう。

 その力が行使できないことを証明するのはあまりに難しい。


「というか、よく怒られずに済んだよね。独断専行みたいなものじゃないの?」


 が、問題と言えばそのくらい。

 レアムが懸念しているような事態にはまずならないだろう。


「その辺は大丈夫ですよー。たまたま近くを通った冒険者が助太刀するのはありありですし? そんなところまでいちいち咎める筈もないですし?」

「たまたま……?」


 実際には偶然などではなかったとしても。


「……まさか、ですけど」

「こいつの処遇を決める必要だってあるのに、余計な話で時間をつぶすわけにはいかないだろう?」

「お前……」

「またそうやってさぁ……」


 そんなことを追求するために時間をかけても、何か得られるものがあるとは言い難く。


「実際、そうじゃなかったことを証明なんてできませんからねー。妥当な措置?」

「それをヘレンに言われるとなんか微妙に納得いかないんですけど」


 そこに付け込むやり方に問題がないとは思わないが、後からばらしたところで余計な火種を作るだけ。


「まあまあまあ。それとなくいい感じに収まったんですからセーフってことにしときません? そんなことまで怒ってたらキリないですよ?」


 とはいえ、ここで話すくらいなら――そんな風に思うべきでは、なかったかもしれない。


「確かにね。怒ったって仕方がないわよね」

「な、なに言ってるんですか。そんなこと――」


 そこまで言いかけて、ユッカは言葉を止めた。


「協会に言ったって、いいことなんてないものねぇ? それはそうよ。だと思うわよ」


 何せ、そこにいたのは。


「…………で、何か言い訳は?」


 やけに固い笑顔のリィルだったのだから。


「「「……あー…………」」」


 全てを察したように、無関係だと仲間たちが遠ざかる。


「ま、待ってください! 違うんですよ! わたしは、ただ……!」

「遠慮することありませんよぅ。あんな勇敢に立ち向かったのに♪」

「ヘレンは黙っててくださいっ!!」


 残されたのは、それぞれのタイミングで実際に赴いた俺達3人。


「……なんてね。怒らないわよ。別に」


 ――が、その時リィルは体から力を抜いた。


「……えっ」

「あんたがしてほしいなら後でいくらでもやってあげるけど?」

「い、いいいいです! 全然、いりませんから!」


 必死に拒否するユッカを見て、リィルは一度ため息をつくと。


「それより、話してきなさいよ。……逃げることなんて何もないでしょ」


 視線を後ろに――ユッカのご両親がいる方へと向けた。



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