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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XIV 有無を言わさず
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第562話 怒ってます


「わたし、怒ってますからね」


 家を出るや否や発せられたその声は、少なからず怒気を孕んでいたものの。


「というと、さっきの厳しいかどうかの話で?」

「違いますよっ! それもありますけど!」


 決してそれだけと言うわけでもないらしかった。


 ユッカがまき散らしている『怒っています』オーラは確かに本物。

 そこに少し、わざとらしさを感じてしまうというだけで。


「前のチームの話なら、ちゃんと言っただろう? あいつらはあいつらで、ユッカ達はユッカ達だと。外面は勿論、内面だって違う。それなのに同じように接するなんて……頼まれても、やりたくはないな」

「そこですよ」


 ただ、やはり、ユッカ自身は先程までの話でも納得できてはいなかったようで。


 一般論だからというだけでなく、俺自身がそう思っていると伝えても、あまり反応は芳しくない。

 納得しないどころか食いついてきた。


 しかも。


「……そこ、と言うと」

「キリハさん、さっきから『あいつら』って呼んでるじゃないですか! 何回も何回も!」

「まあ……確かに?」


 勢いに乗ったまま口にしたのは、なんとも反応に困る内容だった。


 ……いよいよユッカの感覚が分からなくなってきた。

 隣の芝生は青く見えるとも言うが、それにしてもだ。


 正直、羨ましがられるような呼称ではないだろう。本人たちに文句を言われる程のものでもないとは思うが。

 そんなものを親しさの証明と言われてもさすがに困る。


 確かにユッカは勿論、アイシャ達に使うこともまずないと言っていい。

 あるとしたら……レイスとトーリャに対して、だろうか。


 最初から『あいつら』側に含まれているヘレンは当然、対象外として。


「それが、一体……? まさか、そんな呼び方をしてほしいわけではないだろう……?」


 そんなことにあれやこれやと言われても、一体どうしたらいいのか俺には分からない。


 こんな要望を受けたのは初めて。

 名前で呼び合おうだとか、そういう話ともいまひとつ違うような気がしてならない。


(ユッカ達をそう呼べと言われても……)


 何より、俺自身がやりづらい。

 ユッカ達に向かってそう呼ぶ自分自身を想像してはみたものの、違和感が凄まじい。


 無論、その原因は付き合いの長さなどではない。


「そ、それは……まあ、そうですけど……」


 やはりというか、ユッカもいまひとつ自分の中で処理しきれていないらしかった。


 ただ気に食わないと表現するのが、一番適切かもしれない。

 それにしても、違和感がないと言ったらうそになるが。


 ヘレンなんて、むしろ『あの子達と同じくらいの優しぃ~対応しようとか、ほんのちょこっとくらい思わないんです?』と馬鹿な冗談を口にする有様なのに。


 確かに、気の置けない関係とも言える。

 とはいえ別に、ユッカ達に心を開いていないだなんてつもりは微塵もなく。


 それでもユッカは、まだ諦めるつもりはないようで。


「で、でも、キリハさんだってありますよね? そういうこと。ほら、わたし、ずっとキリハさんって呼んでるじゃないですか」

「明らかな年上と、異性相手にはほとんどそうだろう。ユッカの場合。……ああ。そういえば、ウェスのことは呼び捨てだったか」


 そんな話の流れで1人、ユッカが言うような条件に当てはまるかもしれない少年のことを思い出した。


「そ、そうです。ウェスがいるじゃないですか。なんだかんだ言って、やっぱりキリハさんも気になって――」


「ただ」


 が、だからと言ってあの子に対してそういう何かを抱いているかと言うと、また別の話。


「悪いが……ユッカの言うような何かはない。正直」

「な、なにもですか?」

「ああ、何も」


 大人げないだとか、そういうものを抜きにしてもそう。

 ……あるとしたら、さっきの件に巻き込みかけてしまった罪悪感だろうか。


「じゃ、じゃあ、リィルが――」


「そろそろ知人友人を手当たり次第に巻き込むのは止めようか?」


 なんとなく先が読めてしまったので、ユッカが言いきる前に止めてしまうことにする。


 最初の話題かられて遠ざかりつつあるのは多分、俺の気のせいではないだろう。

 ユッカ自身がわざとそうしているから、ではなく。


 俺が早々に納得しなかったせだとしても、こじつけが過ぎる。


「……キリハさん、全然慌てませんよね」

「そんな恨みがましく言われても」

「言いたくもなりますよっ」


 そんな俺の反応を見てか、またしてもユッカは頬を膨らませた。


 ユッカが求めているものと言うのが、いまひとつ分からない。

 常に満点の回答を返すというのもそれはそれで不気味だろうが、こうも分からないとそれはそれで引っ掛かる。


 そういう意味なら、ユッカの全然慌てないというのは勘違いと言っていいだろう。

 ……俺の態度を見た本人が納得するかどうかはさておき。


「……キリハさん、欲とかないんですか?」


「また随分とんでもないところまで飛躍してくれたじゃないか」


 そんなことを言うくらいだから、しないだろう。きっと。確実に。


 俺のどこがそんな風に見えるのか。

 見当違いも甚だしい。


 普段のふるまいからして、それとはかけ離れているだろうに。


「ユッカの目に、どういう風に映っているのかまでは分からないが」


 たとえば独占欲だとか、そういうものに限定したとして。


 それも別にユッカと全く同じあり方ではないというだけの話でしかなく。


「たとえば、ユッカ達が――皆があそこから出て行くとなったら……こんな調子ではいられないだろうな。間違いなく」


 何も感じないと思ったら、大間違い。


 そういう風なれたらと臨んだことすらない。


「な、なんですか。いきなりどうしたんですか。らしくないじゃないですか」

「言い出したのはユッカの方だろう」


 ……まさか、そんな反応が返ってくるなんて思いもしなかった。


 一体、俺に対してどんな印象を抱いているというのか。

 冷酷とまではいかないと思いたい。さすがに。できることなら。


 ……もう少し普段のふるまいに気を付けるべきなのだろうかと、本気で悩まずにはいられなかった。



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