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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XIV 有無を言わさず
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第561話 苦し紛れの

「……俺の記憶が正しければ、ユッカさんへのお話も終わっていなかった筈なのですが……」


 苦し紛れとは思いつつ、話を変えにかかる。


「じー…………」


 勿論、隣からのユッカの視線が一番の理由。

 話せば話すほど刺々しさを増しているようにすら感じられる。


 以前の仲間と言うフレーズに引っかかったのは、分からなくもない。

 それは分かるが、この反応はいくらなんでも予想外。


 当時のメンバーが、自分達よりも――なんて、思ったのだろうか。


 確かに、あいつらとしていたようなことをやっているかと言われると俺も首を横に振らざるを得ない。


 が、それに関してはユッカ達もそう。


 ひとつ屋根の下で暮らすなんてことはなかった。いくらなんでも。

 一時的な合宿は当然例外として、生活を共にしていたのはイリアくらい。


 拠点に泊まり込みする羽目になったあれやこれやを羨ましいなんて言われても、とんでもないと答えるほかなく。


(……ヘレンには訊かないようにとだけ言っておくか)


 俺がすぐにできることと言えば、無自覚にユッカが特大の地雷を踏み抜かないように言っておくくらいのもの。


 ひょっとしたらユッカも、なんとなくは察しているかもしれないが。

 たとえばかつてのチームメイトと例の協力者が、全くの別人であることとか。


 何にせよ、この話を深く掘り下げられるのは俺としても避けたいところ。


 苦し紛れの話題転換は、ユッカのご両親への救援要請でもあった。


「そうですね……いっそ、リィルちゃんと協力して連れ帰ってくれてもいいんですよ?」

「よくないですよっ! それにあれはアイシャが……!」


 ……どうやらひとまず、届いたと思っていいのだろうか。


「アイシャさん……と言うと、昨日の」

「あっ……!?」


 少しに悩む素振りを見せたかと思えば、この言いよう。

 ユッカもユッカでどうして正直に答えてしまうのか。


 いくらご両親にこの場で全てを完結させるつもりがないからといって、そんなことまで言わなくてもいいだろうに。


「や、やっぱり関係ないです! アイシャは全然! ほんと、なんでもないですから!」

「そう言われてそうなのと言うわけがないでしょう」

「あぁ…………」


 あのリィルでさえ、もしもの時は頼もうかとぼやいていた。

 すぐに冗談だと訂正していたが、あの目は明らかに本気のそれ。


 さすがにアイシャも好き放題に圧をかけて回ることはない。

 本人の性格的にあり得ない。


 しかし、それがないからこその迫力とも言える。


 以前から、そういう片鱗がなかったわけではないが。

 あれ程までに使いこなすとは、正直、恐れ入った。


 しかも無自覚に。


 そう遠くないうちにまた見ることになりそうな気はしなくもないが、それを面と向かって言葉にするのはあまりに酷だろう。


「必要があればその時はどうにかしますから、そこまでなさらなくても……」

「キリハさん……」


 今のユッカに向かって、そんなことを言えるわけがない。


 すると。


「まあ、それは半分冗談ですけれど」

「半分!?」

「……わざわざ言わなくてもいいだろうよ」


 安心してもいいのか悪いのか。

 なんとも判断しづらい答えが返ってきた。


 ユッカが突っ込みたくなるのも、当たり前と言えば当たり前。


「どういう形であれ、顔を見せたので良しとしますよ。……ね?」

「…………。……まあ、な」

「はい!?」


 しかしどうやら、そんな心配をする必要はなさそうだった。


「なんですか。なんなんですか! あれだけ色々言ったくせにぃ~~……!!」


 納得していなかったのは、ユッカくらい。


 けろりとしたことに思うところがないと言えば、嘘にはなるが。

 ご両親の反応は、予想から大きく外れたものでもなく。


「それとこれとはまた別の話ですもの。……キリハさんも、そう思いません?」

「部分的には、確かに」

「キリハさん!?」


 その辺りは、全面的とまではいわないにせよ同意。


 そういうことなら、仕方がない部分もあるとは思う。

 結局のところ、これ以上文句を言うつもりもないという話であって。


「なんなんですかさっきから! あんなこと言ってみたり! お願いごとの回数増えてもいいんですか!?」

「またやけに斬新な脅迫を……」


 ……妙な脅迫を受けて、誰かが損をするわけでもない。


 どことなくサーシャさんめいたものを感じる――などと口走ろうものなら両名からそれはもうすさまじい勢いで糾弾されるだろうが――というのはいいとして。


「……お願い事?」

「貸しひとつ、というやつですよ。普通に頼むのはちょっと気が引けてしまうようなこととか」


 先の脅迫によって生じる一番の問題は、そこではない。


 別に俺やユッカのわがままというわけではないという一点だけは、なんとしても納得してもらわなければ。

 ここまで来て今更なんてシャレにならない。


 そのユッカはと言えば、深く注意する様子もなく。


「でもキリハさん、そんなこと言って全然使わせてくれないじゃないですか。そんなことなら使わなくてもいい、とか言って」

「それはそうだろう。……ここへ向かう途中に『このまま逃げよう』なんて言われるくらいなら、あの辺りのどれかで消費しておくべきだったかもしれないが」

「ちょっ!?」


 わざと口を滑らせると、ようやくその顔色を変えてくれた。


 ……少し行き過ぎと思えるくらいに。


「いいい、いいじゃないですか! キリハさんならそんなこと引き受けないってわかってましたから! 冗談ですよ、冗談!」

「……その割には随ぶ――んむっ……?」

「そんなことないですから! ありませんから!! キリハさんなんかさっきからわたしに厳しくないですか!?」


 そんなつもりはない――そう伝えようにも、口を塞がれては声も出せず。


 抑える手を払おうとしても、すぐにまた塞ぎにかかる。

 ……こんなところでまで俊敏性を発揮してくれなくてもいいだろうに。


「……心当たりのひとつやふたつ、あるんじゃないのか」

「ありませんよっ! さっきのお願いだってキリハさんが先に言ったことなんですから!」


 それでいて、母親への反論は問題なくこなしていた。


 そんな能力を開花させなくても――なんて、思ってはいけない。


「……そうだったんですか?」


 口が開けない代わりに、全力で頷く。


 口の中に食べ物をねじ込まれるよりやりづらい。


 だからといって、ユッカの手を強引に払いのけるわけにもいかなかった。



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