表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XIV 有無を言わさず
557/691

第557話 そして、またしても

「……なんかすっかり、変な方向に行っちゃったけどさ」


 一番年下のウェスに、そのひと言を言わせてしまった。


 冒険者でなければ何者なのか。そもそも故郷に協会はなかったんじゃないのか。一体いつ登録したのかとかとかとか――滝のような質問攻めが、ようやく止まる。


 きっと、見かねていたのもあるだろう。


 この子がそこまでする必要なんてないのに。

 むしろ、俺がするべきことだったのに。


 この子自身がしたかった話をさっきから何一つ出来ずにいるのは気のせいでもなんでもないだろう。


「ユッカ姉も兄ちゃんも、どうしたのさ。協会に昨日の話をしに行くわけじゃないんでしょ?」

「……むしろわたしが聞きたいんですけど。それ」

「できればそれはまた後で。追々。必ず。……そういうわけだから、ひとまず知らない体で頼む」

「そうまでして隠さなくてもいいじゃないですか……」


 ようやく軌道修正ができたと思ったところで、またしてもユッカが食い下がる。


 知っていることはあとでちゃんと話すと言ったのに。

 ユッカとご両親とのあれこれがひと段落着いたその時にはちゃんと話すと、そう言ったのに。


 俺が夜中にこっそり動いていたのもあるだろうが、きっと、一番の原因はイリアの存在だろう。


 イリアがこれまでにも姿を見せたことは知っている。

 しかし思い返してみると、容姿については一切触れていなかった。


 綺麗なという一点をあれだけ執拗に繰り返しておいて、まさか何も関係ないなんてことはないだろう。


 もっとも、それを口にしたところで今日という日がその瞬間に終わりを告げるだけでいいことなんて何もない。

 訊ねようだなんてこれっぽっちも思えない。


 そもそも、そんな言葉を挟む余裕はなさそうだったが。


「そうだよ。昨日の人達だってすごく感謝してたみたいだよ? 兄ちゃんが見つけたんだから、そんなことしなくたって」


 ウェスの言葉は、ぐうの音も出ない程の正論だった。


 別にあちこちで自慢しろと言っているわけでもない。

 ただ、隠すなと言っているだけなのだから。


 その言い分に、ケチのつけどころなんてある筈がない。

 多分、理由を話してもなにを考えているんだと言われるだろう。


 以前の俺であれば――ヘレンが嫌う、戦いの中に在る天条桐葉であれば『人数を集めるための時間が無駄だ』とでも答えていたところだろうが。


「もちろん、やましいことなんて何もない」


 昨晩のあれも、急がなければならなかったというのはその通り。

 あんな話を聞いて悠長にしていられるわけがない。


 実際、見つけた時にはすっかり疲労困憊と言った様子だった。

 発見があと一時間遅れていたら……とまではいかないが、余裕があったわけでもない。


 それから、向こうの状況とは一切関係のない理由がもうひとつ。


「ただ、ここのところ……事件続きだっただろう? 一応解決したとはいえ、わざわざ水を差さない方がいいと思って」


 離さないことにした理由は結局のところ、それだった。


 あとひとつ残っている懸念が杞憂に終わるかどうかは、すぐに分かる。

 協会がわざわざ人を派遣して調べているのだから、俺が出しゃばったところで邪魔にしかならない。


 もし予感が的中していたのであれば、その時に必要な行動をとらなければならないのは確か。


 が、逆に言えばそれだけだ。

 この段階で1人突っ走ったところでどうなるわけでもない。


「……あとでリィルにばれても知りませんからね」

「そうなったらその時はその時だ。ストラに戻ってからたっぷり絞られることにする」

「開きなおらないでくださいっ」


 戻る前からユッカに早速言われてしまったが、バレてしまったのならもうその時はその時。


 レイスとトーリャからも『それ見たことか』と言わんばかりの目を向けられることだろう。

 ……そういう意味でも、あの案件はあのまま片付いてくれと思わずにはいられない。


 ただ、正直。


「事件ってなに? なんなのさ。ユッカ姉、そんな危ないことやってるの?」

「やってませんよっ! たまたま出かけた先で問題が起きるだけですっ!」

「いやその方がおかしいでしょ」


 ユッカが言ったように、何かが起きる可能性も決して低くはなかった。


 ある意味、不吉な予感と言えるかもしれない。

 これまでが良くも悪くもそうだったから。


 ただでさえ俺やユッカの物言いに首をかしげていたウェスを更に困惑させてしまうことにはなったが、事実は事実。


「……まあ、キリハさんと会ってからそういうことは多い気がしますけど……」


 ――その認識はあっても、ユッカの一言は聞き捨てならなかった。


「その言い方は止めてもらおうか。疫病神か何かと思われる」

「多いのは本当のことじゃないですか」

「だとしてもだよ」


 さすがにユッカも、これまでこんな事件続きの生活を送っていたわけではないだろう。そうだと思いたい。


 ルークさんのあの反応からして、ストラ近隣でもそこまで事件は頻発していなかっただろう。


 正直、ライザの事件が尾を引いていた部分もあるとは思うが……それを言っても仕方がない。


 それに、悪いことばかりでもない。


「ひょっとして、昨日の本も……? なんか、落ちたって言ってなかった?」

「さすがにあれは避けられない。怪我人がいなかっただけ幸運だよ」


 たとえばウェスが思い出したその一件。


 あれはある意味で幸運だったと言っていい。

 直接的な形には繋がらなくても、大きな助けとなった。


 ……その際に得体のしれない茶々を入れられはしたが。


「普通、どうにもなりませんからね? 空飛ぶ魔法も使えなかったんですよね?」

「そ、空飛ぶ魔法?」

「ユッカ、そのくらいで」


 しかしユッカは、一体人のコトをどうしたいのだろうか。


「え、なに。どういうこと? 空を飛ぶ?」


 わざわざウェスの話を再び脱線させた挙句、そのウェスを困惑させて。


「ほら。やっぱりキリハさんの故郷がおかしいんですよ」

「今のウェスを指しながら言うことではないだろう」


 ましてそんな、分かりきった指摘を。


「……随分変わった話をしてるな」


 方角的に親父さんの姿も見えていただろうに――わざわざ、優先することではないだろう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ