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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XIV 有無を言わさず
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第552話 場所を移して

「しかし、どうする? ただ料理を作ったところで納得してもらえるとも思えないが」


 止む無く小さな飲食店に場所を移し、改めて話を再開させた。


 普段は心優しく頼もしい仲間たちがすっかり役立たず――ではなく、理解不能な方向へ突き進んでしまっていたから仕方がない。


 あの調子で話に巻き込んだら暴発は避けられない。


 少なくとも今のユッカを相手にそんなことをしても、いい方向には転ばないだろう。


「変な心配しすぎなんですよ……。別にできなくてもいいじゃないですか。なんとかなるんですから」

「そういう問題ではないんだろう」


 やれやれと言いたげな様子でため息をついていらっしゃる。


 親子喧嘩で勢い任せに家を飛び出してしまった子供――なんて言葉は口にしない方がお互いのためだろう。

 先程の話を聞く限り、飛び出した件について長々と責められたわけでもなさそうだが、それを指摘するのも今は保留。


「ただ……むぅ……俺に対する信頼の低さならまだしも……」


 俺達が下手に手を出していい話のようには思えなかった。


 このまま完全に放っておくのは、確かによろしくないと思う。

 が、やはりシャトさんが帰ってきた時とは状況が違い過ぎている。


「案外、そっちもあるかもしれませんよー? あんなもの見せちゃったわけですし?」

「真っ当な手段で得たお金だと納得してもらうにはああするしかないだろう。あの人達があちこち吹聴して回る理由もない」


 ヘレンがこんなことを言ったのも、可能性が低いと分かっているからだろう。


 何か言いたいことがあったのなら、あの場で言えばよかった。

 俺達が帰ってからぐちぐちと文句を垂れるのもおかしな話。


「それはそうですけどぉ……どうなんでしょうねー? ご両親、何か言ってました?」

「何かってなんですか、何かって」


 それはそれとして、釘をさす目的もあったようだが。


 昨日の件でまた警戒しているんだろう。

 イリアもいたと言ったところで、納得するとは思えない。


「この人のことですよぅ。なに考えてるんだー、とかとか?」

「もう少しいい内容はなかったのか、おい」

「実際そういう案件だったんですけどね? あれ」


 あの時の解放は、きっと今もヘレンの中で引っ掛かっているんだろう。


「なかったですよ。全然」


 そんな事情まで気にしている余裕のないユッカの答えに、場を落ち着けるためのウソが入り込んでいる筈もなく。


「アイシャのお母さんほどじゃなかったですけど……リィルの手紙で、ひとまず信用してもいい、って」

「もっと連絡しろって話じゃないですかねー? それ」


 それを聞いてか、ヘレンも遠回しな追求の手を止めた。


 ……代わりに、ユッカへの無慈悲な指摘が始まってしまったが。


「い、いいじゃないですか。別に」


 そういう認識はあったのか、途端にユッカが焦り始める。


 そうして、何を思ったか。


「そういうヘレンこそ、どうなんですか? キリハさんと同じところから来たんですよね? 連絡してるところなんて見たことないんですけど」


 とんでもない方向に矛先を向けた。


「あー……まあ……一応?」


 ヘレンの歯切れが悪くなってしまうのも当たり前。


 ヘレンにも、まだそのつもりはないだろう。

 ユッカが思い浮かべているようなものではないことをユッカに包み隠さず明かすようなことは、さすがに。


 多少強引にでもと、俺が割って入ろうと思ったその時。


「こっちの話はなんていうか……ちょっといろいろ、面倒なので。後回しにしときません? とりあえず」

「とりあえずって……」


 不信感に満ち満ちた視線を浴びながらも、ヘレンは回答を拒否した。


 ただ、それで完全に断ち切るわけでもなくて。


「いつか、ちゃんと全部お話してあげますよー。まあ、それもこれもこの人次第なんですけど」

「キリハさん?」

「……善処はする」


 責任を押し付けるように――しかし、俺に委ねた。


 自分自身のことでもあるというのに、強引に暴露するようなことはしないと、改めて言った。


(……ああ。分かっているとも)


 焦らず、しかし、口を噤むべからず。


 尊重してくれたヘレンの気持ちを、裏切りたくはない。


「今はまず、ユッカのことからにしよう。話を聞く限り、冒険者を辞めさせようとしているわけでもなさそうだが……」


 それを抜きにしても、やはり、いま取り組むべきはユッカのこと。


「怪我もしてないんですから当たり前じゃないですか」


 ユッカは当然のように言っているが、その感覚がないと言い切ることはできない。


 町で暮らしている限りまず縁のない危機に直面することもあるわけで。


 いくらその道を選ぶものが少なくないとはいえ、その道しかないわけでもない。


「……それに、まだ全然……」


 にもかかわらず、それを強制しないのは……何か理由があるからだろう。


「ユッカの将来の目標は、また今度聞かせてもらうとして」


 そこを下手に追求するつもりはない。


「目指したい何かがあるのなら、親御さんには安心してもらわないと。話はそれからだ」


 ただ――少なからず応援したいと思っていらっしゃるであろうあの人達を相手に、不誠実な方法で済ませるというのは、いただけない。


「……キリハさんって、意外とお節介ですよね」


 呆れたように言うユッカも、どうでもいいと思っているわけではなかった。


「全然、意外なんかじゃないですよー? この人ってばちょっとしたことですーぐ入れ込んじゃうんですもん。ほんと困っちゃいますよねー?」

「自分のことを棚に上げておいてよくもまあそんなことを……」

「私のはお節介さんと一緒にいたからですってば。じゃなきゃこうはならないですし?」


 ヘレンのお菓子花発言はほどほどに流しつつ、ユッカを見る。


「ほんと、気を付けた方がいいですよー? この人、いつの間にかあれこれ抱え込んじゃってますから。ねー?」

「はてさて、なんのことだか」


 少なくとも、それを拒む様子はない。


 その点だけは安心して――


「……そういえばナターシャさんと仲良くなったって言ってましたね。この前」

「言ってない。そうは言っていない。とりあえず少し話し合おうか」


 ……いいと思ったが、それも束の間のことだった。


 一体、いつの間に捻じ曲げられていたのだろうか。


 帰った時にもそんな話はしていない。断じて、そんな言い方はしていない。

 あの話をどう聞いたらそんな結論に行きついてしまうのか。


「それから。俺がお節介に見えたのなら間違いなく知り合いの影響だ。ありがたいことに、そういう人が多かったから」


 ただ、大真面目に話をしているだけだというのに。


「……それ、ヘレンもですか?」

「なんでそんな納得いかないって顔してるんです?」


 額に青筋を浮かべかけたヘレンについては、自業自得な面があるから仕方ないとして。


「ヘレンも無関係なわけじゃない。……ただ……他にもいたのは、間違いないな」


 俺がお節介と呼べるほどのものかどうかは、今、重要ではない。



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