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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XIV 有無を言わさず
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第551話 飛び込んできたユッカ

「――助けてくださいっ!!」


 そんな言葉と共に宿へ飛び込んできたのは、やはりというか、ユッカだった。


 切羽詰まったような声。

 息を切らしている辺り、ここまで脇目も振らずに走ってきたらしい。


 そんな、実家に帰っていた筈の仲間に向かって。


「おはよう、ユッカちゃん。昨日は休めた?」

「休めなかったからですよっ! おはようございます!」

「へ?」


 落ち着かせようと、まずは普段通りに接した接したアイシャが首を傾げ。


「それよりよく分かったね? 私達がここの宿にいるって。あのあと一度も会わなかったのに」

「みんなして逃げたからじゃないですか! じゃなくて!」


 わざとらしくレアムが話題を逸らそうとするも、すかさず違うと声を荒げる。


「逃げたなんて人聞きの悪い言い方するんじゃねーですよ。邪魔しないように配慮してやっただけでしょーが」

「そんなこと頼んでないですから! それより聞いてください!」


 イルエがあえて後半には触れず器用に惚けるも、やはりユッカは必死に訴えかける。


「それじゃあ一曲?」

「なにがですか! それどころじゃないんですっ!」


 それに対してヘレンがまるでマイクを差し出すように振舞ったのを見て、その手を下げさせ。


「朝ごはんは食べた、ですか?」

「食べまし――――」


 いたって真面目に訊ねたマユの言葉に頷こうとして。


「いい加減にしてくださいっ!!」


 とうとう限界を迎えて、ユッカは叫んだ。


「わざとですか! わざとですよね!? なんでごまかそうとするんですか!!」


 朝の喧騒が上手い具合にかき消してくれていたものの、涙目のユッカの勢いは凄まじいものだった。


 ユッカが怒るのは当たり前。

 が、しかし、ユッカの言い分だけが正しいなどと思っているわけでもなく。


「いや、だって……ねぇ?」

「今までのこと考えりゃ面倒なことになるのが目に見えてるじゃねーですか」

「分かってるならちょっとは助けてくださいよ~!」


 やり方はさておき、レアムやイルエが警戒する気持ちも分からなくはなかった。やり方はさておき。


「でもでも、流れ的におうちでのあれこれなんですよねー? そういうことなら、あんまり口を出すのもよくないんじゃないかなーって思うんですけど」

「そういうのいいですから! なんでそんなところだけ真面目なんですか!?」

「えぇー……?」


 ユッカの言葉に心外だと言わんばかりの表情を浮かべているヘレンに対しては、自業自得としか言えないが。


「一体なにがあったんだ。まさか帰ってくるなと言われたわけでもないだろう?」


 何にせよ、話を聞いてみないことは判断のしようがない。


 ひょっとしたら、俺達が思いもよらない展開になっていたのかもしれないし。

 案外、レアム達が想像していた以上に呆れるような状況なのかもしれない。


 ひとまず、落ち着いて話をするところから。


「その方がいいんですけど……」

「冗談でもそんなことは言うんじゃない」


 ――が、あまりにあんまりなその言い草には、釘を刺さずにはいられなかった。


 さすがにまだユッカのご両親について詳しくは知らないが、そういうトラブルがあったわけではないだろう。

 少し厳しいところがあるのは間違いないが……。


 とにかく、その辺りは後程リィルも交えて話し合うとして。


「とりあえず詳しいいきさつを教えてくれないか。ここにいる間、少し手伝えと言われただけで逃げ出したわけでもないだろう?」


 冗談のつもりで、ユッカに問いかける。


 まさかそんなことではないだろう、と思いながら。


「………………」


 が、しかし、ユッカは無言だった。


「……おい、まさか」

「な、なんですか?」


 少し視線を鋭くすると、途端に慌て出す。


 その振る舞いは、まるで図星を突かれた人のそれ。


「マユ」

「お任せあれ、です」


 となれば、俺達の次の行動などひとつしかなく――


「違います! 違いますから! マユも待ってください! なんでそんなに息ぴったり何ですかぁっ!」


 ――マユに捕まえてもらおうと思ったら、ユッカはすさまじい勢いで逃げ出した。


 それも、周りの冒険者にぶつからないよう軽やかな動きで。

 ……これが実戦ならよかったのにと思わずにはいられない。


 俺が複雑な感情を抱いていることにはおそらく気付かないまま、ユッカは必死で弁明を始めた。


「りょ、料理とか、そっちのことです。家を出て生活してたのに、なんで前より下手になってるんだって。……まさか、任せっぱなしなんじゃないかって」


 が、その内容は俺にとってなんとも不思議な話でもあって。


「……別に下手というわけでもないだろう?」


 何か、どこかで妙なすれ違いが起きている気がしてならなかった。


「なに言ってやがるですか。ユッカが1人でできた試しがないでしょーが」

「その言葉、私やイルエちゃんにも刺さるんだけどねぇ」


 確かに、ユッカ1人任せるわけにはいかないが。


「でも、私も下手じゃないと思うよ? たまにちょっと、変わったものを入れようとすることはあるけど……」


 アイシャの言う通り、1人だけでなければ、絶望的と言われるような腕前でもないわけで。


「……キリハさんのせいでもあるんですからね」

「ちょっと待て」


 少なくとも俺が責められるような要素はどこにもない。……ない筈だ。


 今、明らかに話が飛躍していた。

 それも、町ひとつを軽々超えてしまいそうな大ジャンプ。


 いくら途中とはいえ、最後まで聞いても納得できる気がしない。


「リィルが手紙に書いてたんですよ。いろいろ。それで、わたしがキリハさんに戦い方とか見てもらってるってことまで知っちゃって……」

「どうして料理の方は見てもらわなかったのかと言われた、と」


 確認してみると、やはりユッカは頷いた。


 俺のせいだという発言も一応、辛うじて間違いではなかったらしい。

 予想通り、全く微塵も納得はできないが。


 それにそもそも、発想が極端すぎる。


 確かに、必要な技能だというのは分からなくもないが。

 それならむしろ、俺に文句を言うべきところだろうに。


「……リィルちゃん、そんな自慢しちゃってたの?」

「見られる心配はないと思って調子に乗ったんでしょーよ。アイシャなら気持ちもわかるんじゃねーです?」

「なんで私なの!?」

「マユは分かる、です」

「マユちゃん!?」


 ……右側から聞こえるやり取りには決して触れない。触れたくもない。


 善意でリィルに忠告なんてしようものなら、どうなることか。

 知っている筈のない俺の口から聞かされたリィルの反応は予測がつかない。


 なんとも不可思議な経緯で逃げ出すに至ったユッカのことを後回しにはとてもできない。


「それじゃあ、何か? ユッカの手際の良さを親御さんに見せつけて思い知らせよう、と?」

「リーダーさーん? まーた悪い癖が出てますよー?」


 真っ先に思いついたアイデアは、横から却下されてしまったものの。


「そ、そこまではしなくていいです。いいですけど……」


 何かしら考えなければならないことに、変わりはない。



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