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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
III 迷宮探索
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第55話 パフォーマンス

 所属するメンバーが三桁を越える組織。

 様々な依頼を受ける武闘派集団。


 構成員の多くは冒険者としての活動を行っているそうだが、決して戦闘担当ばかりというわけではないらしい。

 大峡谷の底や樹海の奥深く。未解明の深海、永久凍土に果ては火口まで。


 人類の活動可能圏内を越えた秘境にすら赴くのだという。

 仮にそんな場所に魔物ないし生物が存在したとして、並大抵のものでないことは想像に難くない。


 今回見つかったこの場所が可愛く見える秘境を幾つも調査した実績。

 そんな集団を率いる人物が弱い筈もなく、と言ったところだろうか。

 何故それほどの人物がこんな場所にいるのかが分からない。


「あるんだよね、たまに。町の近くで見つかった迷宮の奥でとんでもない魔物が出ること」

「……俺、また顔に出てました?」

「いやぁ、そのくらいの事はすぐに考えるだろうなって」

「敵いませんね。ルークさんには」


 紙一重の攻防。

 細身の剣と巨大な片刃。


 使い方はそれぞれ大きく異なる筈の二つの刃が幾度となく混じり合う。

 大剣を時には突き出すように。時には腹で殴るように。


 完成された一振りもそれらを容易く受け流す。次の瞬間、虚空を斬った。


「でも今回は呼んで正解だったんじゃないかな。昨日キリハ君達が戦ったって言う鎧だけとは思えないし」

「同感です。もしかしたら、俺ごときがどうにかできる相手ではないかもしれませんね。ここの主とやらは」

「またまた、謙遜しなくても」

「……そういうわけでもないですよ」


 あの一発を撃つだけで準備が必要なままでは話にならない。


 着想は《魔斬》の発展。

 必要な魔力の増加とイメージの拡張によって完成した魔法。

 その運用に本来、元の魔法との差はない。ごく一部を除いて上位互換と言ってもいい。


 だからこそ問題だった。

 何も貧弱な魔法であることを願っているわけではない。が、度を越した強敵相手には決定打たりえない。

 少なくとも魔戦時代はそうだった。《雷雹流渦》も切り札には程遠い。


「キリハさっきからなんの話してるんだよ? それよりさ、こっち来て解説してくんね? 何やってるのかさっぱり分からなくって」

「俺にできる範囲なら。……正直、あまり参考にできるようなものでもなさそうだが」

「見えているだけで、いい」


 定められた舞台から飛び出すことなく剣戟の応酬は続く。

 しかしそれはあくまで定められたルールの上。俺が想像している以上に制限も多いだろう。

 まだ魔物との戦闘の方が幾らかいい経験になる。

 受ける側として体感するならともかく、傍から見たところであのスピードに慣れるわけではない。


 双方、決して押し合いに持ち込もうとはしなかった。


 遠心力を利用し勢いづいた大剣の回転斬り。


 それすらものともしない反撃の刺突。


 頭を傾け躱した大剣の主が地面を抉り薙ぎ払う。


 迫る刃の峰に触れたかと思えば、エルナレイさんはそこを支えに足で円を描くように舞った。


「なにやってるんですかあの人……」

「パフォーマンスの一環だろう。……いよいよ本格的に見世物じみてきたな」

「あんた達いつか罰が当たっても知らないわよ……?」

「こんなのどこの闘技場でだって見れっこないのにね」

「……闘技場は、競い合うための場所だ」

「賭けてるジジイババアがいる場所で競うもクソもねーですよ」


 そうしてやっと、激闘が幕を下ろす。

 送られた拍手喝采に目もくれず立ち去る[ラジア・ノスト]に対し、笑みを浮かべ応じるエルナレイさん。


 これで盛り上がるのだから単純としか言いようがない。

 今の舞台に妙な刺激を受けるような輩が現れなければいいが、正直不安だ。


「なんかああいうの見てるとこっちも燃えるよな。どこか空いてる場所探さね?」

「……早速いたか」

「ん? いたって何が」

「戦うなって話じゃないかなぁ?」


 見れば明らかに見回りが強化されていた。

 協会の職員以外にもおそらく[ラジア・ノスト]のメンバーが。

 決して数は多くない。多くはないが、それで十分ということだろう。


「いいじゃん少しくらい。な、トーリャ?」

「オレは、キリハと同じ考えだ」

「え、お前も? じゃあユッカちゃんは?」

「じゃあってなんですか。じゃあって。やりませんよ?」

「ちぇー」


 リィルが目を光らせていたように見えたのはきっと気のせいだろう。

 そもそも仕方なく言われたようで反発していたのもありそうだ。


「しょうがねーやつですね。キリハ、この前みたいに黙らせてやるですよ。こいつがこんな馬鹿なこと言う体力残らなくなるくらいに」

「そのために模擬戦を始めたら本末転倒だろうに」

「つか、そんなのオレもやらない」

「意気地なし」

「ひっでぇなおい」


 誰かが始めた時点でアウト。

 絶対に誰かが便乗する。そこから先は考えるまでもない。


 その証拠に落ち着きのない様子で武器を擦るグループも少なからず混じっていた。

 協会も予測はしていただろうが、ルークさんの表情を見るにあまりいい傾向ではないのだろう。


「あら、どうかしたの? そんなキリハから距離を取ろうとして……」

「エルナレイさん達の派手な立ち回りにレイスが感化されそうになっただけですよ。それはそうと、お疲れ様です」


 この熱気を生み出した一人は涼しい表情を浮かべていた。

 ただ、エルナレイさんもやらされた側。ある意味被害者か。


「ふふ、ありがとう。次はあなたが出てみたら? さすがに彼女がまた出ることはないでしょうし」

「丁重にお断りさせていただきます。エルナレイさん達の後なんて進んで恥をかくようなものですよ」

「時間を置いても?」

「それでどうにかなる問題でもないでしょう」


 余計な諍いを起こさない程度の娯楽を提供するなら見た目だけ派手な魔法を連発した方がまだマシだ。

 それにしたって俺が一人でやるようなものではない。損得勘定を抜きにしても気が進まなかった。


「安心して。冗談だから。……本当よ? だから、アイシャさん。彼の腕をそんなに掴まなくても……」

「一体誰のせいだと」

「そのようね。さすがに迂闊だったわ。ごめんなさいね」

「あ、いえ、別に……」


 そう言いつつも手は離れなかった。


「(……アイシャも中々の警戒具合だな)」

「(だってだって、エルナレイさん、会ってからずっとあんな事ばっかりなんだよ? なんだかそのままキリハのこと連れて行っちゃいそうで……)」

「(その時は全力で抵抗する。万一掴まっても抜け出す手がないわけじゃない。……さすがにないとは思いたいが)」


 そもそもそこまでする理由がない。

 特級ともあろう人がその程度でメリットを得られるとは思えなかった。


 とはいえ確かに妙ではある。

 気を付けておいた方がいいかもしれない。……あいつの逆鱗に触れてしまうことを考えたら、余計に。


「さっきとは大違いですねほんと……なにされても焦ってなかったのに」

「そうでもないのよ? あんなに重くて速い攻撃は久し振り。全力を出したらどうなるか想像もつかないわ」

「悠長に観戦している場合ではなくなりますね。確実に」

「あら、あなたの魔法……《雷雹流渦》だったかしら。あれも中々のものだったわよ?」

「お二方の全力に比べたら一滴の雫のようなものですよ」

「かもしれないわね」


 口では肯定しつつ、瞳の奥からは全く別の思いが伝わって来た。

 大方以前の俺の力のことでも考えているのだろう。どこかの誰かに聞かされた破壊者の暴虐を。


「――まあ、同じような話ばかりしても仕方がないわね。時間があれば、なんて言ったばかりではあるけれど、どうかしら。あの迷宮のことで少し。勿論ここにいる全員で」

「議論が進展してない、ですか?」

「その通りよ。残念なことにね」


 何も直球を仕掛けなくても。

 後ろで呑気に笑うレアムもレアムだが。


「言うねーあの子。これはリィルちゃんの出番じゃない?」

「あんたこそあたしを何だと思ってるわけ……?」

「それだけ口うるさいってことですよ」

「へぇ、そう。ユッカあんたそんなに口うるさいのがいいのね? いいわそこに座りなさい」

「そんなこと言ってませんけど!? キリハさんたちも見てないで止めてくださいよ!」

「自業自得、です」


 今のはさすがに。ぜひ自分で頑張ってくれ。


「……羨ましい限りね。ああして集まれるなんて」

「やはり特級にもなるとそういう機会はありませんか」

「滅多な事でもない限りね。最初はあなたに会うつもりだったけれど、嬉しい誤算だわ」


 気持ちは分からないこともない。

 連れ去る云々はさておき、忙しくないタイミングにエルナレイさんの気が向いた時だけ来てもらうくらいはできるかもしれない。


「――痛っ!?」

「な、なにこれ……!?」

「頭、が……!」


 突然の異変に対応する時も心強い味方になってくれるだろう。


「こっちに! ルークさんも早く!」


 俺が耐えられたところでこのままでは意味がない。エルナレイさんが近くにいてくれて本当に良かった。


「手を貸して頂戴。……全員を庇うのは不可能だわ」

「……ですね」


 目に見える攻撃なら幾らでもやりようはある。

 しかしこれはどこからどのような手段を用いているのかさえ分からない。


(遮断……いや……中和も合わせてやっとか)


 各種防御魔法。感覚の誤魔化し。


 ここまでしても未だにどういう干渉を受けているのか掴みきれない。

 無駄を承知で複数の魔法を展開するしかなかった。

 それもエルナレイさんと精霊の加護がなければ厳しかっただろう。


 嵐が去った後。

 倒れた冒険者達を前にそう思わざるを得なかった。

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