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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XIV 有無を言わさず
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第538話 目的は果たせたけど……

「本当に行っちゃったけど、よかったのかな……?」


 戸惑いを隠すことなく、アイシャは言った。


 結局、リィルはあのまま実家に顔出しに行った。

 頑なだったマユだけが付いて行くという、何とも奇妙な形で。


 ……何とも奇妙な話だが、本人があの調子だったから仕方がない。


 今日この町に戻ることはあらかじめ伝えているという。

 家の場所を突き止めるような真似をするのもよろしくないだろう。


「まあ仕方ないよ。ユッカちゃんの話だと、ご実家からのお手紙にはあれこれ書かれてあったみたいだしねぇ?」

「またお前はそうやって、下世話な期待を……」


 俺達の分まで挨拶をしてくると自信ありげに言っていたマユに任せるしかないだろう。


 ……あの時のリィルの反応からして、イルエの『爆発』という表現もあながち間違いではないだろう。

 それにおそらく、ユッカのところであったような自体には発展しない。多分。きっと。


 言い方はさておき、レアムの言い分も一理ある、言い方はさておき。


「まっさかぁ。そんなことないよ。うん、全然。ユッカちゃんのことは心配だけど」

「いや、けっこう頑張った方じゃね……? どっちかっていうと、キリハとアイシャちゃんがだけどさ……」

「……少なくとも、事情は分かってもらえたと思う。両親も、そこまで怒ってはいなかった」

「そもそも最後の最後まで往生際悪くやってたのはユッカじゃねーですか」

「そこまで言わなくてもいいと思うよ……?」


 そうして、話題は実家で絶賛舌戦中だろうユッカのことへと移っていった。


 追い駆けてくる様子はない。

 そもそも家で寝泊まりするつもりだったようだから、今日は顔を合わせることもないかもしれない。


 何にせよ、俺達が口を挿めるようなことでもないだろう。

 ……終わった後で不満を聞くくらいなら、出来ないこともないが。


「まあ、そうなんだけどね? アイシャちゃんの時も後はごゆっくりって感じだったらしいから、いいと言えばそうなんだけど」


 そんなことを考えていると、レアムにもの言いたげな視線を向けられていた。


 アイシャの時。

 それはきっと、シャトさんが返ってきた時のことだろう。


 実際にはその前に、シャトさんと出掛けてガルムさんに頼まれてと、色々あったわけだが。

 レアムが言いたいことは、確実にそこではない。


「引っ掛かることがあるなら早め早めにガンガン言っといた方がいいですよ? ねー?」

「そんな話の振られ方で俺が同意をするとでも?」


 そこにヘレンが反応したと思ったら――満面の笑みでありながらも、刺々しい言葉。


 本気、ではないだろう。

 頭の中に響く誰かさんの深い深いため息がいい証拠。


「そういうわけじゃないんだよ。そうじゃなくって」


 俺とヘレンに向かって違うときっぱり言うと、レアムは。


「この後の予定、何もなくない?」


 どこか今更な指摘を、言葉にした。


「「「…………」」」


 その内容に、俺とヘレンは勿論、アイシャ達も思わず顔を見合わせる。


 そして。


「っし、キリハ。前に言ってたやつ試すいい機会じゃねーですか。デカい箱作って引っ張る方。飛ばなきゃ怒られもしないでしょーし」

「やめておけ。ルークさんの胃に確実に穴が開くから止めておけ。俺がドン引きされて終わる話でもないんだから」


 真っ先に飛び出したのは、この町を離れるという提案だった。


「そういう問題じゃないだろ!?」

「……帰るのを、止めるとこだろ」

「ここまで来たんだし、そこまでしなくてもいいと思うよ……?」


 とはいえ当然、却下の言葉が次々飛び出す。


 あんなことを言ってはみたが、もちろん俺もそちら側。

 帰ろうだなんて思っていない。


「でもでも確かに、あのお兄さんがぶっ倒れちゃうのはさすがに申し訳ないですよねー。この人含め、そこそこお世話になってるみたいですし?」

「他の人の心配もした方がいいんじゃ……?」


 ただ、右も左もよく分かっていないこの町で時間を潰さなければならないのも本当のことで。


「……これどうします? リーダーさん。ツッコミが不在なせいで収取がつかなくなりかけてません?」

「そう思うなら少しは抑えたらどうなんだ」

「あはっ、その言葉はそっくりそのまま丁寧に包んでお返ししておきますねー」


 ツッコミだのなんだのと言っている場合ではない。絶対にない。


「とりあえず今日の宿の確保が一番だろう。後でここの支部で落ち合えばいい」

「まあ、そうだねぇ。とりあえず4人分は抑えないと」

「えっ」


 そもそも、今日の寝床を確保する必要だって――……


「今、リィルとユッカの他に誰を外したか聞かせてもらおうか?」

「嫌だなぁ。私が言わなくてもそのくらい分かるじゃない。キリハ君なら」

「だったら追加だ。4人分」


 この前の話を聞いてまだそんなボケをかますのかと言いたくなる気持ちを抑えて、人数の変更だけを伝えておく。


 何を血迷ったらそんな発想に至るのか。

 3人というならまだ分からなくもないが。


「そう? リィルちゃんの方は分からないけど、ユッカちゃんちならいけそうじゃない?」

「広さの問題だけでもないだろうに」

「それに、いきなりはさすがに迷惑だと思うよ……? あの時はうちのお母さんも乗り気だったから、すぐに決まったけど」


 当然というか、アイシャもそこまでお世話になるつもりはないらしく。


「まあ、キリハ君達がいいならいいけど……」

「さっきからなんでそんな言い方なの!?」


 むしろ、レアムの態度に愕然としていた。


「反応なんかするなですよ。レアムのやつ、アイシャの反応を見て楽しんでやがるですから」

「え、えぇ……?」


 別に、本気で言っているわけではないだろう。


「いやいや、仕方がないんだよ。キリハ君はさらっと流すからぶっちゃけ面白みがなくて」

「面白みとか言うなよ!?」


 自白を聞かなくても、そのくらいは想像がつく。


「ほら、こんな風に。レイス君みたいなリアクションが返ってこないと……ねぇ?」

「オレに同意を、求めるな」

「別にそんなつもりでやってないって……」


 人の行き来が多いおかげで、多少賑やかにやっても目立たないのはありがたい限り。


「というか、無理じゃないですかねー。この人、どっちかっていうとリアクションを期待する側ですもん。むしろお仲間?」

「……えっ、そうだったの?」

「言いがかりはヤメロ。アイシャも真に受けるんじゃない」


 ――が、別に好き放題言ってくれと言った覚えはない。


 アイシャもそんな怯えたような顔をしないでほしい。。


 そもそもそれを言うならヘレンこそとでも言ってやればいいのか。

 お望みなら言ってやろうか、今すぐにでも。


 ……いや、ヘレンは予想通りと返されるだけか。


「なあ、トーリャ……あれ、言いがかりか?」

「それ以上は、言うなよ。お前も、巻き込まれるぞ」


 何故か、どういうわけか、俺もそちら側の認識だったようだが。


「……これならほっといても勝手につぶれるんじゃねーです? 時間」


 そんなことを考えていたのもあって、イルエの至極真っ当なつっこみには何も言えなかった。



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