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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XIII 一度ならず二度までも
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第528話 好き勝手

(ぅ……)


 ……頭が痛い。


 どうしてなのかもよく分からないけど、さっきからずっと、頭が痛い。

 昨日だって、こんなことなかったのに。


「ぅ……?」


 足に何か、固いものが当たった。


 そもそも、どうして寝てたんだっけ?

 さっきは確か、キリハとマユちゃんが2人で魔物を倒して、それから……?


(キリハが、剣の様子がおかしいって、言って――)


 頑張って思い出そうとしても、そこで止まっちゃう。


 キリハがあの剣の調子が悪いって言って、それから、なんとかする方法を教えてもらって。

 そこまではちゃんと覚えているのに、その後のことが分からない。


 水の下に行かなきゃいけないとか、そういう魔法をキリハが覚えているとか、なんとなく、そんな話をしていた筈なんだけど……


「……そこまでにしておきなさい」


 そこまで思い出せたのに、いきなり誰かに、そんなことを言われた。


(きり、は……?)


 どうして、そんなことを言うんだろう。

 喋り方もなんとなく違う気がするし、ちょっと変。


 でも、起きているならきっと、キリハだろうし……


「……ぇ…………?」


 ――キリハは、もっと離れたところにいた。


 ぼやけてよく分からない、けど……キリハの正面に、誰かいた。

 ここからじゃ、キリハの背中が陰になって、よく見えないけど。


 なんだか、あまりよくない感じの何かが、キリハの向こうにいた。


(もしかして、また、戦ってるんじゃ……)


 今もまだ、すごく眠い。

 起きたばっかりの筈なのに、朝起きた時よりも、ずっと眠い。


 でも、キリハがなんとかしようとしてるのに、このまま眠っちゃうなんて――


「気を失ってそうそうに、そんなことを考えるのは止めなさい。どうしても気になるというのなら……後で、桐葉に聞くことです。必ず、答えてくれますよ」


 起きようとしたのに、また、止められた。


 ちょっと、呆れたような声。

 でも、あんまり、嫌な感じはしなかった。


「彼のためを思うのなら、今は大人しくしておきなさい。……あの程度の相手に破れることなど、万に一つもありませんよ」


(…………あれ……?)


 待って?


 キリハは、今、向こうで戦っていて。

 皆も、まだ、起きていなくて。


 じゃあ……ここにいるのは……?

 それに、今の声……どこかで聞いたことがある、ような――……。






「桐葉。感心するのは自由ですが、そろそろ勝負をつけてしまいなさい」


 アイシャ達の様子を見てくれていたイリアは、まるでゲームをやめろと言う母親のように言った。


「……どういう認識をされているんだろうね。一体」

「厄介者と同等かそれ未満。これまでの行動を考えれば妥当だろう」

「面と向かって言われるのはキツいなァ……」


 ……追い打ちをかけた俺が言えた話ではないかもしれないが、帽子の男がげんなりするのもまあ分かる。


 あまりに雑な扱い。

 脅威として認識していないと言われたようなものなのだ。


 だがそれもこれも、イリアの視点から見た場合の話。


 帽子の男のことを軽んじているわけでもなければ、アイシャ達の安全を蔑ろにしているわけでもなく。


(……ああ、もちろん)


 ――俺がこの男に負けることなど万に一つもあり得ないと、確信をしてくれているからにほからならない。


「ッ……! どうしたのさ、急に、やる気なんて出しちゃって」


 引き金を引かれるより早く懐へと飛び込むと、帽子の男も、さすがに顔色を変えた。


 俺の左の前腕を、そいつは両腕を交差して受け止めている。

 が、その表情に余裕はあまり感じられない。


「まさか。ただ、これ以上お前の好き勝手にはさせられないと思っただけだ」

「むしろ好き勝手された方なんだけどなァ……?」


 困ったようにため息をつきつつ、帽子の男はやはり、引き金を引いた。


 銃口は、斜め上を向いたまま。

 それでも構わず二度、三度と引く。


 きっと、玉切れを起こすことなどそうないのだろう。

 少なくとも、見た目から想像するようなものではない。


(あくまで、望んだ現象を起こすための引き金――)


 予感を確信に変えて、男の身体を、前に突き飛ばした。


「は――――」


 どこか間の抜けた、男の声。

 目を見開くその様は、その身を包む一瞬の浮遊感を理解している者のそれではなかった。


(保険をかけていないと、言うのなら)


 ふらつきながらも、地面をついた帽子の男の足を払った。


 バランスを崩し、放っておいても倒れてしまいそうな帽子の男の上半身を押さえつけ、


「がっ……!?」


 押し込み、地面に叩きつけた。


 少し遅れて、背後で地面が砕かれる音が響く。

 俺が退くと見越して仕掛けられていたであろう攻撃の数々が標的を捉えることは、決してなかった。


「……これならまだ、撃ち合いに持ち込んだ方がよかった? そっちはそっちで、ひどい目に遭わされてしまいそうだけど」

「酷い目なんて。人聞きの悪い」

「さっきのあれこれだけでも、十分そう言えるレベルだと思うよ……」


 古ぼけた銃は、既に男の手から離れていた。


 とはいえ、まだ安心はできない。

 魔法を実質無効化してしまった一撃は、あの銃によるものではなかった。


 攻撃手段を完全に失ったわけではないのだろう。


「だって、そうでしょ? 魔法は使えない上に、武器はいつ壊れるかも分からない。身一つで戦わなきゃならない状況まで追い込んだのに、これって。さすがに聞いてないよ」

「俺も丁度、傍若無人な師匠に感謝をしていたところだ。おかげで、問題なくやれた」

「それだけじゃないと思うんだけどなァ……」


 話をしている最中にも、男の視線は投げ捨てられてしまった銃へと向けられていた。


 が、しかし、手を伸ばすそぶりは見せない。

 そもそも届く位置にはないのだが。


「どうしても気になるなら、お前達の目的でも話してみたらどうだ。交換材料にはなるかもしれない」

「……さすがに理不尽が過ぎないかな」

「いきなり仕掛けられた側の気持ちにもなってみろ」


 つい先程まで理不尽を仕掛けていた輩の態度とは思えない。


 アイシャ達は勿論、この迷宮も少なくない被害を受けた。

 足を踏み入れた冒険者達も、立場としては近いだろう。


 このまま見逃してやろうだなんて思える理由は、どこにもない。


「分かった、諦める。そいつのことは諦めるよ。もう。どうせ勝ち目なんてないし。だからこれで、お互い水に流さない?」

「却下だ、却下。どこかの草原で、他の誰も巻き込まずにいきなり殴りかかってきただけだったのなら、その条件でもよかったが」

「……へェ」

「いいことを聞いた、なんて言いたいのならせめて前提条件を見たせるようになってからにしてもらおうか?」


 これっきりで片付くことは、まずないだろう。


 少なくとも1人、こいつの口から存在を聞き出せた相手がいる。

 それから『時止め』を貸したという何者かの存在もほとんど確定していると言っていい。


 だから、今の一言は遠回しな警告のつもりでもあった。


「お前の仲間が、どうやってこの状況を把握しているのかは知らないが……俺の言いたいことくらいは、分かるだろう」

「でも、それをこっちが受け入れる必要もないんだよね」

「それもそうだ。……が、お前がそんなことを気にする必要はない」


 ――が、もちろん、これから身柄を抑えられるこいつに納得させるつもりも、あまりなかった。


「……ねぇ。もしかして」

「イリアが、個人的な目的以外でここにいる。それが答えだ」


 自らの背後に浮かび上がった光を見て、帽子の男は、やはり全てを察したようだった。


 ひょっとしたら、この先、顔を合わせることすらないかもしれない。

 ここまでしておいて、後の責任をすべて押し付けてやろうとまでは思っていないが。


「……一度ならず、二度までも屈辱を味わうことになるとは思わなかったよ」

「これからお前の仲間にちょっかいを出されることを考えれば安いものだろう。アイシャ達を巻き込んだことを精々少しは反省するんだな」

「……それはまた、難しい相談だね」


 せめてもの抵抗か、消える間際に、男はそんな言葉を残した――。



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