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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XIII 一度ならず二度までも
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第526話 気を抜かない理由

(なに……?)


 壁から放たれたそれは、俺に掠るなく地面へと突き刺さった。


 そもそも、初めから俺のことなど狙っていなかったのように。

 そこに在ることが当然のように、地面へ突き刺さった。


「すぐに分かるよ。そんな不思議そうな顔をしなくても」

「それは――」


 どういう意味かと問い返すより早く、槍が砕ける。


 そのうちに閉じ込められていた何かが噴き出し、たちまち辺りを包み込む。


「っ……」


 口を塞いではみたものの、おそらく、効果はない。

 入り込まれていないにも関わらず、《魔力剣》がその形を失っていたから間違いない。


 それ以外の魔法も同じ。

 発動させようにも完成しない。


「その剣を作り出しているのは魔力でしょ? でも、天条桐葉の魔力が完全に底をつくなんてことはあり得ない。どれだけ壊してもすぐにまた次を作られる」


 成果を実感したのか、帽子の男はすっかり饒舌になっていた。


 辛うじて形をとどめていた《魔力剣》を指さしながら、肩を竦める。

 まだ、気を抜いたというには程遠い。


「それなら、こうするのが一番だと思ってさ。……そういう経験くらい、あるでしょ?」


 気を抜いていない理由は、何とも単純なものだった。


 問いかけるような口調ではあったが、この男はおそらく知っている。

 魔法封じが絶対の対処法ではないことを。


「ああ、あった。……その結果くらいは、知っているんじゃないのか?」

「そりゃあね。こっちだって、こんなものだけで倒せるなんて思っちゃいないよ。今の時点でも、なかなかぶっとんだスペックみたいだしね」


 だからこそ、困り果てたようにため息をついていた。

 

 実際、そういう機能を持った代物が存在していなかったわけではない。

 組織のメンバーを無力化するため、積極的に開発を進めていたとは聞いていた。


 自分達が攻撃手段を失う欠点も、危険物を大量に運び込むことで強引に解消しようとしていた。


 俺が赴いた先にも、当たり前のように仕掛けられていた。

 絶対に、というわけでもなかったが。


「でも、さ」


 何にせよ、与えられた最低限の役割は果たしていた。


「そっちの手札を一気に減らそうとおもったら、これ以上いい手なんてないんだよね」


 だからこそ、今この場で発動させたりしたのだろう。


 自らの浮遊能力が、魔力に頼るものではないからこそ、躊躇なく発動させられたのだろう。


(いい。無理はするな。……別に手がないわけじゃない)


 自分の出番だと、調子もよくないくせに飛び出そうとする剣に牽制をかけておく。


 不調に関しては、あいつの言う通り。

 教えてもらった回復地点にもまだ運べていない。


「……やるか。久しぶりに」


 身体を軽く解しながら、イリアを見る。


 仕方がないとでも言いたげな表情でため息をついてはいたものの、止めようとはしない。


(それ、じゃあ――)


 遠慮の必要も、何もない。


 あっという間に手の届かないところまで逃げてしまった防止の男を見ながら、軽いジャンプを繰り返し、


「――ッ、はァ!」


 飛び上がった直後、がら空きの鳩尾に膝を叩き込んだ。


 言葉らしい言葉を発することなく、男は天井へ向かって一直線に飛んでいく。

 やけに鈍い音が聞こえた時にはもう、俺の身体も地面へ引き寄せられつつあった。


 ――いつの間にか姿を現していた男の手下が待ち伏せている方へと、加速しながら。


(意識はまだ残っている、か)


 なかなか図太いと思いつつ、空中で、姿勢を変える。


 俺の身体を貫いてやろうと刃物を構える連中も、それを見たのか慌てていた。

 巻き込まれてたまるかと言わんばかりに数歩退く。


 落下地点をがら空きにしておいて、降りたその瞬間に切りかかってやるつもりだったんだろう。


「そう焦るな」


 勢いをつけ、一回転。

 脳天から右足を叩きつけるには、それで十分。


 その場を離れようとしたところで間に合う筈もなく、ついでのように、近くの数匹が巻き込まれる。


 慌てて得物を振り上げた残党にはそれぞれ一発、胸部に蹴りを叩き込む。

 壁の方へと一直線に飛んでいったかと思うと、砂煙とともに消えていった。


「ケホッ、けほっ……! なんてこと、してくれるのさ。この服、高いんだから」

「そんなに大切なら大事にしまっておけばいいものを」


 その惨状を見ても、帽子の男の様子に変化はない。


 叩きつけられた時に傷んでしまったらしい上着をはたいているくらい。

 どういうわけか、かぶりなおした帽子の方は全く傷んでいなかった。


「そういうわけにも、いかないでしょ……。この世界の……冒険者だっけ? その人達も、高い装備をわざわざ寝かせたりはしないんじゃない? でも、痛んだらそれはそれで嫌でしょ」

「命には代えられないがな」

「命があるから言えるんだよ。こんなことを」


 どういうつもりか、帽子の男は再び浮き上がろうとはしなかった。


 一瞬だけアイシャ達の方を見たかと思えば、すぐにまた俺を見る。

 その目には明らかに警戒の色が浮かんでいた。


「でも、意外だったなァ……。時間停止には普通に対抗できるのに、こっちは思いっきり影響を受けちゃうなんて」

「程度の問題だ。あれとこれとではわけが違う」

「そんなことを言って、本当はこれのせいで今も頭を悩ませたりしているんじゃない?」

「まさか」


 俺の返答に、だよねと言って帽子の男はため息をつく。


 アイシャ達に危害を加えることはない。

 こいつがばらまいてしまったもののせいで、即席のクッションは全て駄目になってしまったが。


 もしまき散らしたものが魔法を解体する以外の力を持っていたとしても、イリアがいる限りアイシャ達に手を出すことは不可能。


 唯一気を付けておかなければならないのは、イリアを強制的に帰らせてしまうような何か。

 ……さすがに、それはないと思いたいが


「意地を張らずに、さっさとあっちに頼ってしまえばいいのに。その方が楽でしょ?」

「せめて事情を知ってから言ってもらいたい」


 呆れたように言う男の手には、銃らしき物体が握られていた。


 デザインがまるで別物だったのは、せめてもの幸いか。


 脅威であることに、変わりはないが。



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