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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XIII 一度ならず二度までも
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第518話 動きを止めた魔物達

「大成功、です」


 ピクリとも動かない魔物達を見てマユは誇らしげに言った。


 しかし別に、過大評価でもなんでもない。

 マユが視界を塞いでくれたおかげで、随分と動きやすかった。


「マユのおかげだよ。おかげで細かいことは気にせずにやれた」

「あの煙の中でも動けるのがすごい、です」


 マユもマユで、嬉しいことを言ってくれる。

 なんとなく顔を見合わせて、そのままマユと頷き合った。


「……相当抑えたみたいですね」


 その空気にあえて混じろうとしなかったサーシャさんはと言えば、倒れた魔物たちを見てそんなことをおっしゃった。


「倒して終わりなら、部屋中を《槍吹雪》で吞み込んでいましたよ。今回はそういう方法で片づけない方がいいと判断したから、やりませんでしたけど」


 とはいえ、別に、納得していないというわけではなさそうだった。


 ただ、俺がこういう形で決着を付けたことが意外だったと言いたげなだけで。


「こんなに残して……一体どうするつもりですか。尋問ができる相手でもないのに」

「分かっていますよ。気絶させる前にも確かめました。……少なくとも、言葉で意思疎通を図るのは難しそうです」

「それが分かっているなら――」


「でも、身体に聞くことはできますから」


「…………は?」


 真相を確かめる術がないわけではない――そんなつもりで発した一言は、またしてもサーシャさんを警戒させてしまった。


 いつもと比べても、明らかにトーンの低い声。

 方が小刻みに震えているのもきっと、俺の気のせいではないだろう。


 しかしアイシャもリィルもマユも、仲良く無反応。

 何が問題なのかすら、心当たりがなさそうだった。


(……この人、まさか)


 そんな状況から、答えを導き出すのはそう難しいことではなく。


「勘違いしないでください。調べれば分かることもあるという話ですからね?」


 あの一言で真っ先に浮かべるのがそれかと、思わずにはいられなかった。


「え、えぇ……勿論、分かっています。分かっていますとも。あなたこそ、何を勘違いしているんですか。そんなことは断じて考えていません」

「やっぱり…………」

「違うと言っているでしょうっ!?」


 慌てふためくサーシャさんの振舞いが、答え合わせをしてくれた。


 別に当たっていなくてよかったのに。こんなこと。


「ほら、そのくらいにしなさいってば。……それよりどうなのよ? 何か分かった?」


 見かねたリィルが間に入ってくれたからよかったものの、そうでなければどうなっていたことか。


 サーシャさんが慌てた理由が分からないのは……本人にとっても幸せなことだろう。

 俺も解説しようだなんて思えない。


 そのまま、リィルの気遣いに甘えることにした。


「多少は。――ああ、待って。足元に気を付けて。倒された鎧の破片が落ちているから」

「嘘っ? あ、危ないわね……」


 この散らかりまくりの現場に入ってもらうのは気が引けるが、多少近付いてもらわないと話もしづらい。


「見ての通り、この鎧はここに来てから何度か見たものと同じだった。叩いた感触も――ん、この通り」

「あんたがそう言うなら、間違いないんでしょうね。……叩かないわよ?」

「分かっているとも」


 とはいえ、話しやすさのためだけに必要以上に近付いてもらうつもりもなかった。


 さっきの《雷衝》にはおまけもつけたが、頑丈な個体が混じっていてもおかしくない。

 いきなり襲われるリスクをリィルに背負ってもらおうとは、思えなかった。


「確かに同じ感じ、ですね?」

「マユも叩かなくていいのよ。……あんた達、よくそれで分かるわね……」


 いつの間にか別の個体の傍に座り込んでいたマユにも、ちゃんと離れてもらって。


「まあまあ、それはいいとして」

「よくないわよ」

「……とりあえず、先にこいつを」


 もう一方――おそらく侵入者だろうそいつの方を、4人にも見てもらう。


「てっきり、前に最下層で主とやりあっていたやつの仲間だと思ったんだが……どうやら違ったらしい。こんな見た目ではなかっただろう?」


 灰色のそいつを指さしながらもう一度自分の目でも確かめたが、やはり間違いない。


 あの時のクラゲもどきとは似ても似つかない。

 戦闘の最中に姿を変えていたようだから……近いのはむしろ、例のヒトガタ。


「あの時の魔物って、確か……」

「うねうねしたのがついてた、ですね」

「頭ももっとこう……違ったよね? 小さいのは分かるけど……」


 アイシャやマユも、やはり似ているという印象はないらしかった。


(もう少し、話せることもあるにはあるが)


 一度止めても、問題はないだろう。


「そろそろ出てきて、教えてくれてもいいんじゃないか?」


 覗き魔に出てきてもらってからでも、遅くはない。


【――――――】


 呼びかけると、待っていたと言わんばかりに――青白い光が、俺達の目の前に現れた。


「っ!?」

「だ、誰? ……というか……何……?」


 事情を知らない者にとっては、突然の乱入。


 おそらく同じように感じて身構えたアイシャ達の前に入って、待ったをかける。

 攻撃が通じないから、ではなく。


「迷宮からの使者――……俺達に、意思を伝える者」


 わざわざ呼んで、出てきてもらったわけだから。


「意思……?」

「リィルは見覚えがあるんじゃないか? ほら、あの地底湖で」

「……あっ!!?」


 別に、初対面というわけでもない。


 実際、一度見たことのあるリィルはすぐに思い出してくれた。


「あんたまさか、あの時の……っ!? な、何よ。またあの時みたいに閉じ込めるわけじゃないでしょね!?」

「それはないから安心してくれ。……いいだろう?」


 ……あまりよろしい反応ではなかったが、仕方がない。


 あの時点ではまだ事情が分からなかったから、悪い印象の方がどうしても強く残るだろう。

 幸い、向こうもそれに近い認識は持っているらしかった。


「森のあの子みたい、ですね?」

「あ、そっか。マユちゃん、キリハと……」


 ある意味、似ているのは間違いないだろう。


「……2人とも、ああいう子と会ってるんだよね……」


 とはいえ、会った本人達の認識が近いかと言えばそんなことはなく。


「全っ然、いいものなんかじゃないわよ……! 笑い声は不気味だし変なものつけられるし! 警告にしたってやり方があるでしょ、やり方が!!」

「警告ならぴったりだと思う、ですけど」


 久しぶりに、全力警戒のリィルを見た。


 当然、マユに言われても納得する筈がなく。


「苦手なものは仕方がありませんよ。特にリィルさんは、被害を直に受けたようですから」

「可愛い、のに」

「そういう問題でもないのよ!?」


 半分、涙目だった。


【…………】


 さすがにそんな姿を見せられては思うところがあったようで、後で話し合いの場を設けてはくれないかと頼まれてしまった。


「――ああ、思うところがあるのなら後でちゃんと話し合ってくれ。もちろん、この前みたいな方法以外で」


 協力するのは、やぶさかではない。


「代わりというわけではないが……ひとつ、頼みたいことがある」


 ただ、今は。


「こいつの様子を、見てはもらえないだろうか?」


 こちらにも、頼みたいことがあった。



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