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彼方世界とリヴァイバー  作者: 風降よさず
XIII 一度ならず二度までも
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第512話 意外でした

「《剣霰》」


 天井から、剣を降らせる。


 一つ一つを、細く鋭く。

 当たれば、確実に鎧へ突き刺さるように。


(分かるだろう、お前なら)


 手に持つ剣で防げてしまうような数なら、わざわざ使わない。


 黒の魔法の連射性能がさほど高くないことは確認済み。


(上出来)


 魔法の範囲を決めててしまえば、鎧の回避先を絞り込むのは容易なことだった。


「《魔斬》」


 軋む《魔力剣》を手放すつもりで、鎧を弾く。


 鎧が、前方へやや倒れ込むように。

 その先には当然、今も《剣霰》が降っている。


(後は)


 完全にバランスを崩してしまった鎧に、それらから逃れる術はない。


 一発でも受けてしまえば、後はもうひたすら受け止めることしかできない。

 大量の剣を、その身一つで。


 鎧の堅い守りも、徐々に徐々に、剥がされていく。


 一部が弾かれなくなり、鎧に刺さる。


 やがて、鎧へと降り注ぐうちの1本が左足の部分を貫き――そのまま、地面に突き刺さった。


 たかが1本。されど1本。


 一時的に身動きを封じるだけなら、何も問題はない。

 刺さってしまった時点で鎧にとっては致命的。


(4連続は、さすがに耐えられないだろう)


 心の内で呟いて、3人にそれぞれ、視線を送る。


 ――しかしどうやら、その必要はなかったらしい。


 俺が目を向けた時にはもう、準備を整えた後だった。






 少し調べただけでは先の様子に変化を見つけることもできず――結局、その日は、リフト(?)の傍で休むことにした。


 時間的には、少し早い。

 が、時間を知らせる魔道具を持っているらしいサーシャさんも、特に反対はしなかった。


 今日のことを考えて、むしろ休むべきと思ったのだろう。


「……意外でしたね」


 それから、寝息を立てるアイシャ達を一目見て――サーシャさんはそんなことを呟いた。


「どうしたんですか。藪から棒に。そんなに驚くようなことが?」

「その反応にむしろ驚きです。あなたのことです。……自覚、なかったんですか?」


 訊き返してみると、サーシャさんに呆れられてしまった。


 言われなくても、心当たりくらいはある。

 ただ、サーシャさんの言葉をあえてなぞるなら、その反応がむしろ意外だった。


「……あの鎧と戦った時のことですか」


 より正確には、とどめを含め、アイシャ達と4人がかりで戦ったという事実。


 1人でいくらでも倒せた筈だ――と、そう言いたいのだろう。

 客観的に見ても、あの場面で押し負ける要素なんてひとつもなかったから。


「あれでも一応、俺なりに考えたんですよ。……まさか、あのタイミングに撃ってくるとは思いませんでしたけど」


 こんなことを言うくらいだ。

 サーシャさんが何かを言ったわけではないのだろう。


 それ自体は、あの時点で分かっていたこと。

 むしろ、誰かの指示を疑う方が失礼というものだ。


「それはいいことですね。いきなりその剣を投げ渡された私の気持ちも、少しは理解できる筈ですから」

「別に投げ渡したというわけでは」

「言い訳は無用です」


 おそらく見守っていたであろうサーシャさんはまるでついでのように、しかし、しっかりと抗議まで挿んでくださった。


 渡した方法なんて、実際はそこまで問題視していないだろう。

 自分の武器を手放したということに代わりはない。


 驚かされたというのも、本心だったようだが。


「……まあ、ひとまずその件は置いておくとしましょうか」


 いうだけ言って、そのままサーシャさんはその話題を断ち切った。


 もちろん、都合が悪いからというわけではなく。


「いつものあなたなら、多少強引にでも単独で片を付けていたところでしょう。どういう風の吹きまわしですか?」

「仲間と協力して撃破することに何の問題が……」


 おかげで、俺の方がそれに近い気持を味わう羽目になってしまった。


 協力と呼ぶにはささやかだったのは、まあ分かる。

 ユッカがいたら『ほとんどキリハさんがやったじゃないですか』なんて言うだろう。


「そうですね。一般的にはそうなるところです。……一般的には」


 それでもこんな、尋問を受けることはなかった。その筈だ。


「まさか“首長砦”の時のことを言っているわけではありませんよね? 最近となると……他に覚えが」


 ただ、それに関しては俺も言いたいことがあった。


 この前の依頼はそもそも、俺に向けたもの。

 大体、なんでもかんでも一緒にやればいいという話でもなんでもn


「あなた、姉様といた時もそうでしたよね??」


 ……結局そこかという言葉を口に出さなかった自分を、今だけは褒めてもいいだろう。


 本人にもさんざん言われたのに。


「……あれは、まあ、言うにやまれぬ事情が」

「ほう。事情。そんなものが」


 あるのなら言ってみろと、目が語っていた。


 これを圧力と言わずして、なんと言うか。

 そんな躍起になることでもないだろうに。


「そんなに怖い顔をしないでください。大した理由じゃありませんよ」


 別に怖い顔などしていない――そんな抗議が来る前に、一気に続ける。


「夜の方が、何かが起こりそうな気がする……。そういう感覚が、今も抜けていないだけです。実際、あの時も妙なやつらの相手をさせられましたし」


 話すことを躊躇うようなものでも、なんでもない。


 ナターシャさんからも聞いているだろう。

 例の、魔物とも呼べない何かについても。


 ……本音を言えば、聞かされていなくても構わなかった。


「……一部で研究されているという、あの」

「多分、そいつのことです。いつの間にか合体までできるようになったみたいですよ」


 あまりに分からないことだらけ。

 オーキスさんの方も、さほど順調ではないのだろう。


 融合については、そもそも再現できなかったと手紙で返事があった。


 何か特殊な物が必要なのだろう、と。


(次は一体、どんな手品を仕掛けるつもりなんだか……)


 オーキスさんの手紙を読み進めていく中で、ふと、あの化け物どものことまで思い出してしまった。

 当時、一部でそういう個体が出たことがあったから。


 それを役に立てられるかと言えば、そんなことはなく。


 突入の回数が増えた頃には仕留めてしまえば同じだとさほど警戒もしていなかったから、資料の内容も頭には残っていない。


 あらゆる種類を自由自在に組み合わせるには、至らなかったということくらいのものだ。


「……その現場を、見たんですか?」


 進展も何もあったものではないその話題に、サーシャさんは明らかに食いついていた。


「いえ、まだ。……ただ、逃げる時は複数体いた筈なのに、引き返してきた時には1体しかいませんでしたから」

「…………」


 かと思えば、黙り込む。


「ひょっとして、何かご存じなんですか?」


 不自然と言わざるを得ない態度。


「たとえば、ナターシャさんすらご存じないようなこと、とか」


 どこか様子のおかしいサーシャさんに、疑問を投げかけずにはいられなかった。



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